きらめき星の世界

きらめき星の世界

2009.05.29
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ずっと昔に読んで、今でもときどき思い出す本があります。

今日書くのはそんな本の中の一冊です。

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 「子どもの宇宙」
河合隼雄

「この宇宙の中に子どもたちがいる。これは誰でも知っている。しかしひとりひとりの子どものなかに宇宙があることを、誰もが知っているだろうか。それは無限の広がりと深さをもって存在している。大人たちは、子どもの姿の小ささに惑わされて、ついその広大な宇宙の存在を忘れてしまう。大人たちは小さい子どもを早く大きくしようと焦るあまり、子どもたちのなかにある広大な宇宙を歪曲してしまったり、回復困難なほどに破壊したりする。このような恐ろしいことは、しばしば大人たちの自称する「教育」や「指導」や「善意」という名のもとになされるので、余計にたまらない感じがする。私はふと、大人になるということは、子どもたちのもつこのような素晴らしい宇宙の存在を、少しずつ忘れ去ってゆく過程なのかとさえ思う。それでは、あまりにもつまらないのではないだろうか。」

(はじめに、より)

著者である河合隼雄については知っている人も多いかもしれません。不思議な経歴の人で、京都大学理学部数学科出身です。とはいえもともと人と接するのが好きだったようで卒業後は教師をしていましたが、あるきっかけからアメリカに、ついでスイスのユング研究所に留学し、日本人で初めてユング派の分析家になった人です。

残念ながら2007年亡くなりましたが、心理療法士の方の本を読んでいると今もこの人の名前が度々出てきます。心理療法を日本に普及させたのはこの人であるといっていいかもしれません。

ところでユング派って何よ、と思われるかもしれませんが、これはC. G. ユングという人が創始したユング心理学を修めた心理療法家を指します。ユングはフロイトと並んで、人間の深層心理についての学問を創始した人物として有名です。ユング心理学についてはまた機会があれば書きたいと思いますので、ここではこれ以上立ち入りません。

前置きが長くなりました。

この本は心理療法士として多くの人の心に接してきた著者が、童話に描かれている世界を通して子どもの中に広がっている大きな大きな宇宙について語っています。

激しく感情をゆさぶられて・・・というのではないのですが、読んでいくうちに次第に自分もその宇宙の中に引き込まれていって、読み終わってなんともいえない不思議な感覚になったのを覚えています。ふわふわと宙を漂っているような・・・。

人間の理性の届かない、感覚的な、超越的な、何かの鱗片に触れたような・・・。

本の中にはいくつかのテーマにそって、たくさんの童話が出てきます。

ケストナー「ふたりのロッテ」 バーネット「秘密の花園」 フィリパ・ピアス「トムは真夜中の庭で」 小川未明「金の輪」 ・・・

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「ふたりのロッテ」表紙より
(ケストナー少年文学全集)


家族との関係

秘密

動物との交流

生と死

・・・

童話の内容と、それに関わる様々な話はとてもここでは書ききれません。ぜひ本書と各原作を手にとっていただきたいと思います。

本書にはそうした童話の話とともに、実際の心理療法の場面についての記述があります。

情緒不安定、集団不適応という名をつけられて相談に連れてこられた小学3年生の女の子。初対面の印象は、「直立不動の姿勢から体をペコンと2つ折にして挨拶する。棒切れが途中から折れたような感じである。」

「すらりと背が高く、愛くるしい顔立ちの少女なのに、いつも目がカッと見開いて、ピンと張りつめたような表情をする。どこか調子の狂ったかん高い声でしゃべり続ける彼女の言葉は、文字にすればカタカナにしかなりえない。」

初めは一緒に遊んでいても接触感がなく、ぎこちないままであったのがふとしたきっかけで急速に治療者との距離は縮まっていき、治療者をお母さんと言い間違えるまでになる。

けれど子どもはちゃんと自分の進む道を知っていて、時がくればこちらが非情と感じるほどに、あっさりと離れていく。彼女は、来年はここにはこない、と自分の意志で宣言する。(30回目の面接)

この頃から自分で作詞作曲して歌を歌い始める。「涙の最後の贈りもの」「別れの歌」「Tシャツを着たあなた」などなど・・・

第36回の面接で、突然「先生、死ぬか」と問いかける。しばらく死についての問答が続く。

第49回、「先生、死ぬか?私も死ぬか?」と問いかける。
「2人のどちらかが死ぬように思うの?」(治療者)
「ううん、うそや!死んだりしたらえらいことや!」

 「先生大好き」といって久しぶりに抱きついてくる。最初のころに比べるとはるかに接触感がある。

「先生はとっても素敵、お目がキラキラ、太陽のよう・・・」と歌を歌って讃えてくれる。

第55回(最終回)、いろいろな遊びをさらっとして、「先生、さようなら、私、中学生になっても来てもいいか?」と言う。先生の了解を得ると、わりに淡々とした表情で帰っていった。(彼女はこの頃、クラスの中で以前のようにはみ出した行動をしなくなっていることが報告されていた)

心理療法というと、人の秘密を暴きたてるようなイメージをもっている人もいますが、実際はむしろその秘密を大切に扱い、出来る限りともに生きようとする感受性と姿勢が必要だと述べられています。

面談の経過は文字通りドラマです。人の心って不思議です。その広さと奥深さに惹かれてしまうのかもしれません。

なんだかとりとめのない話になってしまいました。この本を読んでみて、みなさんも自分自身の中に広がる宇宙を探してみてください。

この本のベースになっているユング心理学は単に心理学というより哲学、宗教に関わる側面ももっています。著者である河合さんはユング心理学や日本人の心についての本を多く書かれています。ここでは細かく紹介しませんが、こちらの方も読んでみたら面白いと思います。

それでは、今日はこの辺で、おやすみなさい・・。

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「トムは真夜中の庭で」の表紙より(岩波少年文庫)






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Last updated  2009.05.30 00:36:58
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