2002/05/21
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「表現の冒険」の巻以上に、異質な空気漂う一冊。故郷・異境というよりあちら・こちら、ここの世界とそうではない場所といったもののように感じられる、そんなところの話が多い。それが面白いか、となると、今まで読んだこのシリーズの中で一番読み辛く、あまり楽しめなかった。ページ数も一番多く320pとある。異郷の地から日本を故郷として眺めるというのはやはり戦時中の話に多く、その点「歴史の証言」とかぶるが、そちらは259pとシリーズ中最短。


・井伏鱒二「貧乏性」
・長谷川四郎「シルカ」
・小林勝「フォード・1927年」
・木山捷平「ダイヤの指環」
・辻邦生「旅の終り」
・石牟礼道子「五月」
・五木寛之「私刑の夏」
・森敦「弥助」

・光岡明「行ったり来たり」
・小田実「「アボジ」を踏む」
・島田雅彦「ミス・サハラを探して」


福武文庫版「カフカ傑作短篇集」 の翻訳者として、また、その解説者の川村二郎と、リルケ理解についてかつて一度やりあったこと(ちょっとしたことだけど、何故か印象に残っている)のある人として、さらに、自分の名前が嫌いな私が、シンプルでかっこいい名前が好きだから、印象に残っていた名前として記憶している長谷川四郎の「シルカ」は、悪い意味ではないが、名前の印象の通りの作品。
 以前引き揚げものが好きだと 2/14の日記 に書いた。今と文体が違うので気持ち悪い(別に今も統一してないが)。やはり私の好きな、安部公房 「けものたちは故郷をめざす」 に「少し似ている」と解説で触れられている五木寛之「私刑の夏」では、正直あまり期待していなかった初五木寛之体験だったが、かなり楽しんだ。
「吐き気を催す感動」というか、「そんなこと書かないでくれ」というか、どうしようもない、既に起こった悲劇を突きつけられる小説がある。このシリーズ「生と死の光景」に入っているハンセン氏病である島比呂志の書いた「奇妙な国」は、本人が書いたものだから、本人が書くことは出来たのだから、まだ救いがあるように思えるが、水俣病患者からの途切れ途切れの声を写した石牟礼道子「五月」にその救いはない。小説として書かれたものであるから、それはほんとうではない、このように患者が語ったわけではない、とは思っても、それがほんとうではないから、患者は元気にペラペラ喋っている、というわけではなく、やはり突きつけられたものは大きく、辛い。
 光岡明「行ったり来たり」は面白いなあ。

戦後短篇小説再発見〈7〉故郷と異郷の幻影 (講談社文芸文庫)





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Last updated  2002/05/21 10:07:47 PM
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