2005/03/11
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カテゴリ: 海外小説感想
 SF界を代表する知性派の一人らしい。日本版オリジナル編集傑作集。国書刊行会から出ている「未来の文学」シリーズの中の一冊。発売された当初から読みたかったけれど、何しろSFには不慣れなもので、先にクリストファー・プリースト『奇術師』を読んでまず海外SFに慣れておき、用心しながら読んだ。何を恐れる必要があったのかは自分でもよくわからない。『奇術師』は、面白かったり不満足な点も多かったりで、感想を書く気力はない。本書の場合、SFSFと気負う必要もなく、幻想小説の短編集を読むのとほとんど変わらなかった。もっと、理詰めで現象を説明されて冷めるんじゃないかと思っていた。



 彼はツナ缶をあける方法を案出した。エスカレーターのいちばん下で、ステップとくりこみ口のあいだへ缶詰を横向きに滑りこませるのだ。エスカレーターが缶をひき裂くか、それともひっかかった缶がエスカレーターを止めるか。一つのエスカレーターが止まれば、ほかの全部が止まるかもしれない。もっと早くそれを考えつくべきだったけれども、すくなくともそれを考えついたことに、彼は非常な満足を感じていた。
 ――おれは脱出できたかもしれないんだ。

『降りる』より



 デパートのエスカレーターを、延々とどこまでも降り続ける男のカフカ的苦悩。もう戻れないところまで来てしまってから発見する、生還の可能性。どうして親近感が湧くんだろう。初めに置かれているこの『降りる』が、結局一番印象に残った。何者かに閉じ込められている部屋の中で、誰に読まれるか、どのようにして読まれるか分からない物語をタイプし続ける男の話『リスの檻』もいい。『猿の惑星』のパロディらしき『犯ルの惑星』あたりはついていけなかった。


「読書は」とヤッドーのシミュレーションはつづけた。「死にかかった技術だ。もう一世紀あまりもむかし、映画が発明されたときから、読書は落ち目になった。そしていま現在、本物の読書家はシロサのような絶滅危機種になっている。わたしがいう読書家とは、毎日数時間かならず本を手にとり、ページをめくり、そのページに印刷された活字を読む人間だ。それは自然な活動ではない。訓練と、応用と、野心が必要だ。もし諸君がそれを職業にするつもりなら、そこには人脈も必要になる。われわれが今夜ここに集まった理由はそれだ。コネを作り、交際をひろめ、金を儲けるためだ」

『本を読んだ男』より


あたりも、ちょっと皮肉がききすぎているきらいはある。文章面では特に眼を引くところはなかったが、幻想世界のような異邦を彷徨う焦燥感を描いた『カサブランカ』『アジアの岸辺』は良かった。
 それでもどれか一編、となれば『降りる』になる。


国書刊行会  2004年





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Last updated  2005/03/12 01:12:34 AM
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