ラジオと映画とちょっとジャジーな日々

渋谷毅さんのこと　♪-８

私にとっては見慣れた町を、渋谷さんと歩いていると、
すれ違う人達に声をかけて

「ねぇ、この方素晴らしいピアノ弾くんですよ！」

と教えたくなる。

･･･なんて気持ちと葛藤しながら、スタジオに到着。

番組の収録は、渋谷さんのかもし出す雰囲気そのままに、
穏やかな楽しさに満ちた中で進んだ。

ＣＯＯＬさんと渋谷さんの音楽談義は、弾んでいく。
そして二人が何について話しているかと言うと･･･、

「クインシー・ジョーンズについて」 なのだった。

番組のテーマを「渋谷さんのお好きなもので」とお願いしたところ、
「クインシー・ジョーンズの特集で」というお返事が来たので、

「え･･『愛のコリーダ』の人？
それとも同姓同名のジャズ・ミュージシャン？」と思ったけれど、

間違いなく、あのクインシー・ジョーンズだった。

彼は、元々ジャズのアレンジャーとして活躍していたのだ。
しかも、素晴らしい才能の持ち主だった。
相変わらず「ジャズわかりませんから…」のディレクターだ（汗）。

ヘッドフォン越しに、渋谷さんのお話しを聴きながら、
本当に（アレンジャー時代の）クインシーが好きなんだなぁ、
という気持ちが伝わって来た。

それにしても、その知識の深さ、選曲のセンス、
ものの見方に接すると、

日本トップクラスのジャズマンとはこういうものなのか･･･
と圧倒される思いなのだった。

さらに、渋谷さん若かりし頃の、微笑ましくも心暖まる
プライベート・エピソードまで披露してくれた。

これが全国放送でないことを悔む！

収録の合間には、渋谷さんと色々な話をした。
他愛もないことから、仕事や音楽についてまで、

その中で、とても印象に残っている言葉がある。

渋谷さんは、

「僕は 『感激する』 というのは、あまり好きではない。」

とおっしゃったのだ。

私は今まで「感激する」のは、良いことだと思っていた。
生きているうちにできるだけ沢山「感激すること」に出会いたい、
と思っていた。

でも「感動」と「感激」を履き違えていたのかもしれない･･･
「感」が「動く」と、「感」が「激する」とは違うのだ。

そこで、ちょっと「感激」することを止めてみようと思った。
グッと堪えてみたのだ。

すると「あっ、そういうことか･･･」とわかった。

周りの様子が、よく見えてきたのだ。

人の表情、言っていること、その場の雰囲気、
すべてが、一気にクリアになった。

「感激」している時は、自分の気持ちに自分が酔っている。
目も耳も、感情という油膜で覆われて、曇ってしまう。

物事を正確に把握できていないし、
周りの人への気遣いも怠るだろう。

渋谷さんが、どういう風に物事を見ているのかが、
少しわかった気がした。

すごいな！やっぱりスゴイ人だ。

なんて、短い間にも色々な事を感じながら、
収録は無事終わり、食事をして、お酒もちょっと飲んで、

その日の夜、渋谷さんと向かったのは、ＣＯＯＬさんのジャズバー、

そう、 あのエレベーターに乗ったのだ。

渋谷さんと初めて言葉を交わした 「あのエレベーター」 に。

今度は「渋谷毅ピアノソロ・ライブ」の主催者として。

（つづく）

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