言霊堂

言霊堂

November 14, 2003
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いつまでも鳴りやまない君の声

あれは、夢だったのか、それとも現実か……
いくつもの二人っきりの秘密を紡ぎ、夢のように過ぎ、夢のように終わった
あの秘密の扉はもう開かれることがない
君の声が響いている限りは……

映画の一場面のようにジャンボジェットが突っ込んだあの日
ネオンの海で溺れかけている俺に微笑みかけたのは君だ
「やっと出会えたね」

「ああ、やっと……、出会えた……」
グラスを満たしていた酒を一息に飲み干し、溺れ人のように無我夢中で空気を貪る
「やっと出会えた。もう、出会えないかと思っていた……」
おもむろにポケットの中で潰れたショートホープを咥え、ジッポで火をつけようとする
残念ながら、オイルが揮発してしまったようだ。
癇癪を起こしかけた俺に、ライターを差し出す。
「ありがと、……、これから用事あるか?よかったら店変えないか?」
こんなしけた店に君を置いておくわけにはいかない。
いたずらな瞳をこちらに向け、
「ふけちゃおう。どこに連れて行ってくれる?」
「姫様のご要望とあらば、天国でも、月の向こう側でも……」



俺は失っていた片割れを手に入れ、この街は俺のもののようかに振舞えることができた
全てが新鮮で刺激的で怖いものさえなかった、沙貴さえいれば。
それは、麻薬のようであった。
そして、悲劇の始まりでもあった。

貪りあう愛の晩餐

苦痛と快感、小さな死と獣じみた躍動
線香花火のような慎ましやかな快楽とは程遠い、
二つだったものが一つになろうと願う儚くも狂おしい宴

このちんけな街でも、光り輝き、全てがうまくいった
満たされ、遂に俺は、唯一の武器である牙が折れた
金では買えないものを失い、崖から落ちるようにボロボロになった俺がそこにいた

全ては夢だったのか?

沙貴がキスの雨のあと、出会ったときの微笑みで
「ありがとう、さようなら」と……
視界は紅で染まり……

……

イラクで偉大なる親父の真似しか出来ない大統領が中東でゲームを始めたあの日
自棄酒で声も変わり果てて荒みきっていたときに出会ったのは君だ
「また、出会えたね。」
幾多の犯罪を犯し、死神を背負った俺に堕天使が微笑んだ
「……、お前、沙貴か?」
受け付けなくなった酒を煽り、絶句する
「あなたに捨てられてから、地獄を見たのよ、地獄に連れてってくれるとは言ってなかったわ」
変わり果てた沙貴を見つめる
「おまえ、死んだはずじゃ……」

……

ふと目が覚めた
気が付くとそこは地獄だった
お前のいない地獄だった
お前がいないこの世こそ地獄だった
後悔の海で溺れる

いつまでも鳴りやまない君の声
ありがとうとさようならを並べ、飛びっきりの笑顔で別れた最後の場面
あれは、夢だったと願い、現実(うつつ)に絶望する

血まみれの手でお前を掴もうと足掻く
この街でまた沙貴を探して彷徨う
あの秘密の扉を沙貴と開こう
そう希い酒を煽る

沙貴の願いを叶えよう
「私が欲しいのは愛か死よ。それだけ」
永遠を願う、そして、永遠を与えよう

沙貴、お前は誰なんだ……
教えてくれ……





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Last updated  November 14, 2003 06:12:44 PM


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