を開いたものの、地雷に躓き(笑)
それはそれで思いもよらぬ楽しいひと時でした。
おまけに、私の撒いた地雷を踏まれた方も続々出没。
現在、私の管理画面『お気に入りブログ』の表示に、 「彼氏できました」
というタイトルが 3つも
並んでいます。
よきかなよきかな。
あと数名、踏まれるまでこのまま…という悪戯心もあるのですが
感想を書きたい本もたまってしまいました。
と、いうわけで、
街の灯
昭和七年、士族出身の上流家庭・花村家にやってきた女性運転手別宮みつ子。令嬢の英子はサッカレーの『虚栄の市』のヒロインにちなみ、彼女をベッキーさんと呼ぶ。新聞に載った変死事件の謎を解く「虚栄の市」、英子の兄を悩ませる暗号の謎「銀座八丁」、映写会上映中の同席者の死を推理する「街の灯」の三篇を収録。
【目次】
虚栄の市/銀座八丁/街の灯
先日のガンの入試・1回戦に付き添った折に読み始めました。
期待通り、私を本の中に引き込んでくれました。
昭和七年というと私の母の生まれた年です。
明治にも大正にもそれぞれ華やかなイメージがありますが、昭和のこのころとなると、歴史の勉強で知った、戦争の陰がさす不況の暗い時代…としか思っていませんでした。
母が物心つくのはそれよりだいぶあとになるわけですし、第一、庶民ど真ん中の暮らしであったでしょう。
私の想像の及ばなかった舞台です。
主人公の英子は社長令嬢。家柄は士族の出身ですが大名家ではなく、御維新に功労があったわけではないので爵位はありません。
それでもビジネスで成功されたお父様は、さすがに目端の利く方だったようです。
新しいものがお好きというばかりでなく、合理的で、慣習にとらわれずにこれと思うものを我が子にどんどん体験させます。
次々与えるのが物ではなく、学ぶことであったり、どこかを訪れる機会であったり、というところが品格をうかがわせて爽快です。
退職した運転手の後にやってきたのは当時めずらしい女性運転手でした。
物珍しさばかりではない、この人選にもお父様の深慮が…英子の思い至る以上の計らいがあったように見受けられます。
話は、同じく北村薫の人気シリーズ <円紫師匠とわたし>
と同じく、主人公の一人称で語られます。
その言葉が、とても美しいのです。
英子は今で言うと中学生の年齢ですが、当時の、上流の女子ならばこのように言葉を選んでいたろうと、まさに思える量と質の、品の良い言葉たち。
上品であるばかりではなく、胸をゆさぶられるのは、この少女が周りを実によく見ていることです。
言葉を惜しむことなく、実にゆたかに心に情景を刻み込むのです。
大きな瞳と賢そうな口元を想像します。
そして、父譲りの好奇心。
英子の出会うちょっとした謎、
――それは新聞を騒がす猟奇的な事件であったり、「総領の甚六」という言葉を彷彿ともさせる兄とその友人の暗号ゲームであったり、避暑地で出会う知人の死であったりなのですが――
気づかなければ唯の不思議な出来事、と見過ごされるその謎を、英子が心に留めることから謎解きが始まります。
しかし英子は好奇心丸出しの、いかにも探偵気取りな少女なのではありません。
腑に落ちない、という自分の気持ちを手のひらであたためるようにするところから、絡んだ紐が解けるように答えに行き着くのです。
そして、これまで全く思いを寄せることのなかった人々の暮らしにも、英子は気づいていきます。
それは多分に、英子が思春期の入り口にたっていたということが作用しているでしょう。
そのころ、鏡の中の自分がふと、昨日までと全く違う見え方をしたことが私にもあります。
けれども、その危うい思考の一歩を、英子の気づかぬように、支えてくれているのがベッキーさん、こと運転手の別宮なのです。
銀座の賑わいや、華族の社交界。
英子の通う、宮家や上流家庭のお嬢様の女学校。
給仕される食事、お茶の時間。
英子の家、裕福な友人の広大な館。
どれも、数多くの参考文献を元に、現実の息吹を与えられて描かれます。
また、英子は、ただ淑やかでゆかしいとだけ思っていた華族の同級生の、思いもせぬ心の淵の深さをのぞくできごともあります。
人の心の深い奥底が、日常と隣り合わせに存在するということで、この物語世界はいっそう真実味を感じさせるのでしょう。
英子の聡明な日常に、寄り添うことができる心地よさがありました。
軍靴の響きが遠くから迫っている様子ですが、英子がずっと幸せでありますように。
そんな続編が読めるのを待っています。
小山薫堂 『恋する日本語』 2011.04.26
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