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📖 第三章:初めての試練
春の陽が差し込む朝、修行場の空気はいつもより張り詰めていた。
古雲真人が告げたのは、年に一度の武術大会 ――
「五門試擂(ごもんしれい)」の開催だった。
「型を学ぶだけでは、型の意味は見えぬ。型で学ぶには、型を超えねばならぬ」
古雲の言葉に、凌風は静かに頷いた。
大会の会場は、山の麓にある古い道場。
五つの流派が集い、それぞれの代表が技を競い合う。
その中に、現代武術の象徴とも言える男がいた。名を ――
龍翔(りゅうしょう)
。
彼は、力と速さを極めた拳士。
寸勁を自在に操り、連環式の技で相手を圧倒する。
「太極拳? そんな遅い拳で、何ができる?」
開会前、彼は凌風にそう言い放った。
凌風は言葉を返さなかった。ただ、心の中で問い続けていた。
「速さとは、力なのか? 遅さとは、弱さなのか?」
試合が始まった。
龍翔の動きは、まるで雷のようだった。
一歩踏み出すごとに、空気が裂け、地が震える。
観客は歓声を上げ、彼の拳に喝采を送った。
凌風の番が来た。
彼は、静かに立ち、気功架の型を始めた。
起勢 ――
左堋 ――
欄雀尾 ――
その動きは、まるで風のようだった。
観客は沈黙した。誰もが、その「遅さ」に戸惑っていた。
だが、古雲真人は目を細めて見ていた。
「風は、見えぬが、確かにそこにある。雷は、見えるが、すぐに消える」
試合は凌風 vs
龍翔。
開始の合図とともに、龍翔が寸勁で突き込んだ。
凌風は、わずかに身を捻り、風のように受け流した。
「何だ、その動きは …
!」
龍翔は苛立ち、連続技を繰り出す。
だが、凌風は「型で学んだ」動きで、すべてを受け流していく。
その瞬間、凌風の中で何かが繋がった。
右拳が時計回りに動いた時、左拳が自然に反時計回りに動いた。
同時に、左足の踵がわずかに浮いた。
支点揺動 ――
それは、最小の動きで最大の力を生む「出力体」の証だった。
凌風の拳が、龍翔の胸に触れた。
だが、打たなかった。
ただ、 くっついた
。
その瞬間、龍翔の動きが止まった。
彼は、初めて「力ではない何か」に触れた。
試合後、蒼月が凌風に近づいた。
「型は、速さではない。型は、問いだ。君は、答えを見つけたようだな」
凌風は、静かに頷いた。
「でも、まだ問いは続いている。型の中に、まだ何かがある」
蒼月は微笑んだ。
「ならば、次は “
型の外 ”
を見てみるといい」
その夜、古雲真人は語った。
「型は、心を映す鏡。だが、鏡に映るものが真実とは限らぬ。お前の心が、型を超えた時 ――
太極拳は、拳ではなく、道となる」
凌風は、星空を見上げた。
風は静かに吹いていた。
だが、その風の中に、雷の気配があった。
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