ねことパンの日々

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変態芸術史 村山知義著

変態芸術史 村山知義著 大正15年 文芸資料研究会

変態芸術史

大正末期から昭和初期にかけて発行された「変態十二支」シリーズのうちの1冊です。
このシリーズの全体像を私は知らないのですが、他には『変態人情史』『変態刑罰史』『変態広告史』『変態伝説史』などがあるようです。発行元の文芸資料研究会は、この時期流行したいわゆるエロ・グロ・ナンセンスを題材とした書籍・雑誌のほか、プロレタリア文学系の書物も発行しており、当局によって発禁処分となったものも少なくないようです。当時の先端を行っていた、とんがった出版社だったんですねぇ。

このシリーズの執筆者には、プロレタリア文学者から民俗学者、アーティストなどいろいろな人々が名を連ねています。なかでも民俗学の泰斗藤澤衛彦と、アヴァンギャルド芸術家の村山知義は、ひときわ目立つ存在です。
村山は明治34年、東京の生まれ。第一高等学校から東京帝国大学文学部へと進んだのですから、超エリートですね。在学中にドイツに留学し哲学を学びますが、その折にベルリンで知った最新の造形芸術に惹かれます。特に表現主義や構成主義の絵画には強い影響を受け、帰国後は前衛美術運動に参加、芸術集団「マヴォ」の中心メンバーとして活躍します。また、演劇の脚本や小説にも才能を発揮、戦前から戦後にかけては特に演劇界での活動が目立ちます。

さて、ようやくこの本の中身についてですが、ドイツで刊行された『性的芸術史」と『芸術に於ける悪魔的及びグロテスクなもの』という本の要約です。まぁ、造形芸術のなかでエッチな描写やグロテスクな描写がどのように表現されてきたか、ということを解説しているわけです。古くはギリシャ彫刻から、新しくはムンクの《叫び》まで持ち出しています。思いっきりだなぁ。

言説が的を得ているかはともかく、このシリーズがけっこう売れて、赤字だった出版社が持ち直したというんですから、エロ・グロ・ナンセンスへの、この時代の人々の興味が相当なものであったことを窺わせますね。もっとも、このシリーズは図版や文章上の表現がわりとあたりさわりのない部分が多く、発禁には至ってないようです。

ほかの「変態」シリーズもぜひ読んでみたいと思っています。その報告はまたこのHPにて。



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