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『橋の下の彼女』(15)-2
<ブエナスエルテ社>。
そこには、周囲を取り囲むように打ち込まれた木の杭がなければ――おまけにその杭の間には紐すら渡されていなかった――周囲の草薮と区別がつかない土地に、ただの廃屋にしか見えない小屋や納屋がいくつか建っているだけだった。
ふと気付くと、パジェロのまわりを、興味津々といった面持ちの従業員たちがぐるりと取り囲んでいた。褐色の肌に浮き上がって見える白い目をした彼らは、見えない線でも引いてあるかのように、将人たちから一定の距離を取り、それ以上近寄ろうとしない。一様に満面の笑みを浮かべ、まばたきする間も惜しいと言わんばかりにこちらの一挙手一挙動を見つめている。
三人の日本人の中でも、ずば抜けて背が高い将人には、とりわけ彼らの視線が集まっていた。将人が少しでも動くたびに、彼らの二つの目玉が、さっと同じ方向に動くのだ。
「お前みたいなでかいやつ、こっちじゃめずらしいんだろ」
彼らの視線に同じように戸惑っている様子の辰三が言った。
確かに、身長百八十センチほどのレックスですら、彼らのよりも頭二つ分は背が高い。将人となれば三つ分だ。
照れたような、困ったような気分で、将人は彼らにぎこちなく微笑み返した。
「ハロー、エブリワン!」
関内が大声を上げた。従業員たちの視線が一斉に関内に集まる。彼らから次々と「ハロー、セキウチサン」「コンニチワ、セキウチサン」と言った明るい声が飛んできて、大きな拍手が沸き起こった。
関内は大きく頷きながら彼らに手を振って、「私の到着をそんなに待ち遠しく思っていたとはね。人気者はまいるよ」と日本語で言った。
「いつのまにかずいぶん加工場らしくなりましたね」
辰三が、作りかけで放置されたような、他よりも大きい納屋を見つめながら言った。
「AMPミナモトの調理場と比べても遜色ないでしょ?」
関内が本気なのか冗談なのか、将人にはわからなかったが、辰三は口後も折りながらも「そうですね」と苦笑いを浮かべて頷いた。
〈加工場〉と呼ばれたその作りかけの古い納屋は、幅が二十メートルほど、奥行きが十メートルほどで、切り妻屋根は茶色のさび止めを塗っただけのトタン板で覆われていた。敷地の中を通る小道に面した側には壁がなく、吹き抜けになっていて、他の三面は、数も高さもまばらなブロックが、腰ほどの高さほどしか積まれていない。右の壁際には、四つのタイヤすべてがパンクした小型のジープニーがあり、その荷台にはガラクタが山積みされている。
「それで、<あれ>はもう動いているんです?」
辰三が関内に聞いた。
「わたしも<あれ>が気になってたんです。さっそく見てみましょう」
関内が歩き出そうとすると、レックスが慇懃にさえぎった。
「ランチの支度ができています。タツミさん、お腹が減ってるでしょう?」
「機内食を食べたから、お腹は空いてないそうだよ」
関内は、レックスの言葉を辰三に通訳もせず答えた。
加工場から五メートルほど先にある小屋の脇を抜けると、地面が真新しいコンクリートに覆われたバスケットコート二面分ほどの広い場所に出た。そこに、先ほど目にした、二機の巨大なコンテナが並んで置かれている。
「あれな、二十フィートのリーファーコンテナってやつで、冷蔵も冷凍もできるんだよ」辰三が将人に説明した。「片方を冷蔵庫、もう片方を冷凍庫として使うつもりだ」
イギリスに留学していた将人だから、二十フィートといえば約六メートルだとすぐに見当がついた。二機のリーファーコンテナは、表の道路に平行に置かれていて、道路側の一機が緑色、奥側の一機が白色に塗られている。両方とも、タイヤがついたままのトレーラーシャシーに載せられていた。
「あそこの小屋が見張り小屋だ」
辰三が言った。ブエナスエルテ社の敷地と表の道路の境界線の内側に、木造だが堅牢な造りをした小さなニッパハウスが建っている。
「そんで、あれはディーゼル発電機」
続いて、辰三は二機のコンテナの脇にある東屋を指差した。その中には、新品で日本から持ち込まれたらしい、汚れ一つない緑色の発電機が三台と、〈Fuel(燃料)〉と書いてある赤いドラム缶が数本置かれていた。
「清新設備の山本さんが来たとき、冷凍装置の試運転をしたんですが、本当にまいりましたよ。従業員の連中が出たり入ったりの大騒ぎで、冷凍庫がぜんぜん冷えなくてね」関内は楽しそうに語った。「生まれてから氷点下なんて一度も経験したことがない連中だから、おおはしゃぎしたのも無理はないでしょうけど」
レックスが振り返ったので、関内はもう一度、英語で同じことを言った。
「昨日から製氷機の試運転を始めたんです。せっかくセキウチさんが来てくださったのだから、動いているところをぜひ見せたいと、アルマンが徹夜で調整したんですよ」
レックスが言った。
「こっちに来ても怠けずしっかり働いていますよ、って私に思わせたいんだな」
関内が嬉しそうに笑った。アルマンというのは、ブエナスエルテ社に出向している、AMPミナモトの従業員だと将人は覚えていた。
「あの中です、製氷機は」
レックスの指差した先に、ブロックを積み上げてトタン屋根を乗せただけのような粗末な小屋があった。四方の壁の高さが一定でないので、屋根との合わせ目の部分に、人が抜けられるほどの隙間がところどころ空いている。
小屋の中をのぞくと、高さ二メートルほどの、新品の製氷機が、よく運び込めたなと感心するほどギリギリで納められていた。その機械の上で、二人の従業員がせわしなくなにやら作業している。製氷機の先には、〈ミナモト水産〉と社名が印字された四角いトレーと、風呂桶になりそうなほど大きなバケツがうず高く積まれていた。
辰三のあとに続いて、どこかで火でもたいているのではないかと思うほど暑い小屋の中に足を踏み入れたとき、外から「タツミサン!」と呼ぶ声が響いた。
振り返ると、小屋の前に、すらっと背が高く、目がぎょろっとした坊主頭の男が立っていた。
「おお、ジョエルじゃねぇか! 久しぶりだな」辰三はジョエルに駆け寄るなり、彼と硬い握手を交わした。「お前の好きなキャビン、ふたカートン買ってきたからよ!」
重役の一人、ジョエル――レックスの妻の弟だ。将人が彼をまじまじ見つめていると、辰三に「おい、さっそく通訳の出番だぞ」と呼ばれた。将人がタバコの土産のことを告げると、ジョエルは飛び上がって喜んだ。
「本当ですか! ありがとうございます!」
甲高い声でしゃべるジョエルの英語も、また特有の訛りがあったが、口語で話すので、聞きとりやすかった。
「でもスーツケースが社宅に運ばれちまったから、今はこれしかねぇけど」
言って、辰三は胸ポケットからタバコの箱を取り出して、ジョエルに1本差し出した。
「君は?」
受け取ったタバコに火をつけながら、ジョエルが将人に笑みを向けた。
「僕は通訳の――」ショウトです、と口から出かけたが、ここで<金欠>だとかいうやりとりを繰り返すこともないだろうと思い、「ショウです。ミスターもサーもつけずに、ショウ、と呼んでください」とだけ言った。
「オーケー、ショウ、フィリピンにようこそ」
「よろしく、ジョエル」
将人はジョエルと握手を交わした。
続いて、まわりの従業員たちとは明らかに違う雰囲気をまとった、こぎれいな服装の青年が現れ、遠慮がちに将人に話しかけてきた。
「コンニチハ。僕はライアンと言います。あなたは、ミナモト水産の方ですか?」
彼がライアンか――将人は、なるほど、と思った。身長は百六十五センチ程、ウェーブのかかった黒髪、濃く長い眉と大きくやや吊り上がった目。眉間から伸びる高い鼻、手入れの行き届いた口ひげと厚い唇。レックスから長身は受け継がなかったようだが、ラテン系の混血であるとわかる特徴は十分に備えていた。角張ったような英語のアクセントにも、育ちの良さを感じさせるものがあった。
「僕はミナモト水産の社員ではなくて、臨時で雇われた通訳です」
答えながら、将人はライアンが差し出した手を握り返した。
ライアンは、日本人にしてはあまりに背の高いからか、将人を驚きの眼差しで見つめている。
自己紹介が終わると、ライアンは矢継ぎ早に質問を浴びせてきた――あなたは日本人ですか、なぜこんなに背が高いのですか、どこで英語勉強したのですか、彼女はいるのですか、バスケットは好きですか――。
隣で辰三と一緒にタバコを吸っていたジョエルが、話題がバスケットのことになった途端に会話に加わってきた。
「僕たちはね、日曜の日差しが強くない夕方に、近くの学校でバスケットの試合をするんだ」
ライアンが、そうなんだよ、と興奮気味に相づちを打った。
「この地区にはいくつかチームがあって、みんな適当な時間になるとコートに集まってきて、他のチームが顔を出すのを待つんだ。僕らの〈チーム・ブエナスエルテ〉は、上背はないけどけっこう強いんだ。ライバルといえば警察学校チームだけど、あいつらはずるいんだ、警察だからって威張ってるし、ショウみたいに背の高いやつを他のチームからどんどんスカウトしてる。でもあいつらの時代も今日で終わりだ! なぜって、ショウが僕たちのチームに加われば絶対に圧勝だよ!」
フィリピンでもバスケットができるかもしれないと知って、将人は思わず興奮した。
「なんてこった、もちろん一緒にプレイさせて欲しいよ! まさかサマールでバスケットができるなんて考えもしなかった! 今からでもやりたい気分さ!」
「よし、それじゃぁさっそく今度の週末に、警察学校の連中に目に物見せてやろう!」
ジョエルとライアンは、手の平を高い位置でパチっと打ち合わせた。
彼らとは絶対に上手くやっていける――将人は確信した。
「この国ではさ、日本人とアメリカ人は女にモテモテなんだよ。まあフィリピン人の中では、金持ちの中華系も人気だけど、やっぱり僕たちみたいなラテン系の方が上だね、スペインの血は高い身分の象徴だから」
将人が何か聞いたわけではないが、まるで質問に答えるかのように、ライアンが誇らしげにそう言った。
彼らとの会話にひと段落つくと、将人は製氷機の小屋に戻った。ライアンは、製氷機の上で作業を続けている二人の男にタガログ語で何か聞いている。
「昨日から試運転をやってるんだけど、困ったことに製氷機は動いても氷が出てこないんだ。町の電力では電圧が足りないのかもしれないから、今から電源供給を発電機に切り替えてみようかって話してるとこだよ」
関内やレックスは小屋の外で発電機が動くのを待ってた。ライアンが発電機の前で待機している男に、手を振って合図する。すぐさま車のセルモーターそっくりの音とともに、発電機のエンジンが動き出した。エンジン音はかなりの大きさで、発電機から近いこの納屋では、まともに会話ができないほどだ。
「電源を切り替えたんだって?」
辰三が聞いた。
将人は、電力不足が原因かもしれない、というライアンの話を辰三に聞かせた。辰三は腕組みしながら首を大きくかしげた。
「製氷機の上にある、筒状の透明のケースあるだろ。普通なら、あのケースの中で氷ができあがるのが見えるんだが」
そのケースの中で、氷を下の貯蔵庫に落とすアームが回転しているが、そこに氷が現れない。上で作業している二人は、空を切るアームを見ながら頭を振っている。
五分ほど待ったが、氷はひとかけらもできなかった。
「これって、電源を入れればすぐに氷ができるものなのですか?」
関内が辰三に聞いた。
「普通なら、一分もかかりません。それにしてもおかしいですね、機械はしっかり動いてるのに」
辰三は再び大きく首をかしげながら透明のケースを眺めた。上の作業員たちは、配線を手に取ったり、あちこち触ったり、意味もなく天井の梁をたたいたりして落ち着かない様子だ。
レックスは難しい顔で、じっと機械を見つめていた。ジョエルもライアンも、困惑した表情をしていたが、ときおり将人と目が合うと、おどけるように肩をすくめて、笑い声さえ漏らしている。
「辰三さん、なんで氷が出ないんでしょう?」
責めるような口調で、関内が辰三に聞いた。
辰三は眉間に皺を寄せながら、俺に言われてもなぁ、とぼそっと言いながら、腕組みをして考え込んだ。
「あ、そうだ、〈あれ〉だ、〈あれ〉使おう!」辰三が突然大声を上げ、将人の背中をびしゃりとたたいた。「〈あれ〉でほら、〈あれ〉すればいいんだよ!」
辰三の声で、レックスや従業員たちの視線が辰三に一斉に集まる。
将人は聞いた。
「辰三さん、〈あれ〉ってなんですか」
「ほら、お前が持ってきた〈あれ〉だよ! 〈あれ〉使って、清新設備に電話すりゃいいんだ! あれはどこにある? ああ、そうだ、お前のスーツケースの中だ、ほら、早く取って来い」
電話する、と言う言葉で、ようやく辰三が衛星電話のことを言っているのだと将人は理解できた。
レックスが将人に近づいてきた。
「タツミさんは何と言っているのかね?」
将人は、辰三が清新設備に電話して対処法を聞くつもりです、とレックスに伝えた。
「それはいい考えだが、ここには電話がない。アレンで電話を掛けるとなると、電話交換所に行かなければならないが」
「実は衛星電話を持ってきたんです」言いながら、将人は誇らしい気分になった。「それを使えば、ここから直接日本と連絡が取れますから、清新設備の山本さんに、現場の状況を説明しながら、いろいろ指示を仰ぐことができます。ただ、その電話機は僕のスーツケースの中に入っているので――」
将人が最後まで言い終わらないうちに、レックスは「クリス! バート!」と大声を上げた。
空港からの道のりの間、ずっと将人たちのスーツケースを押さえていた小柄の召使が、全速力でレックスのところに駆け寄ってきた。レックスはパジェロを指差すと、矢継ぎ早に指示を与えた。召使は大きく頷いてから、再び全速力でパジェロの方へ駆け戻っていった。
「今すぐ君のスーツケースを持ってくる」
レックスはにこりともせず、しかし将人の肩を、ぽんっ、とたたきながら言った。
マカティのオフィスで初めて会ったときには気付かなかったが、ブエナスエルテ社に到着してからのわずかな時間で、レックスには多くの人間を取りまとめるだけの威厳と親しみやすさと、そして器量があるのを将人は感じ取った。いささか無愛想ではあるが、レックスに話しかけられるたびに、自然と体が縮こまるような緊張感を覚える。しかし同時に、気遣いと親しみも感じるのだ。
関内に呼ばれて、製氷機の上で作業しているうちの一人が、はしごを伝って降りてきた。汗と埃まみれの小太りの男は、絵に書いたような八の字の口ひげを生やしている。彼は「さっぱり原因がわかりません」と片手に抱えていた数冊のファイルを関内に渡した。関内はそれを受け取ると、もう一人、製氷機の上で配線と格闘している、長身の痩せた男も呼んで、ファイルをめくりながら話し合いを始めた。
彼らの会話をこぼれ聞いて、小太りの方がアルマンで、痩せた長身の方がリンドンだとわかった。アルマンはAMPミナモトからの出向社員、リンドンはジョエルの弟だ。
納屋の中の温度は分ごとに上昇していくようで、もはや耐えられない暑さになっていた。関内も「こりゃたまらんね」と言って、二人の作業員を連れて外へ出て行く。
関内は日本語で書かれた製氷機の説明書をアルマンに持ってこさせ、彼らに英語に訳して聞かせていた。いつもながら、書かれている内容よりずいぶん簡単な文にして翻訳している。だが、こうして日本から巨額の投資が入り、様々な装置が輸入され、一つの会社が稼動しようとしているのだから、人材派遣の人事担当者に言われたように、やはり語学力だけでなく、即戦力の実務経験は大事なのだと、今更ながら痛感させられる。
「なんだ、解決法らしい解決法がろくに書いてないじゃないか。日本の説明書というのはこれだから困る」
関内は日本語でそうぼやくと、説明書をアルマンに手渡してむすっと日陰に座り込んだ。
時計を見ると、もう四時になろうとしいていた。しかし太陽はまだ高い位置で輝いており、その日差しは、まるで皮膚が引火するのではないかと思うほど強烈だった。
社宅へ向ったパジェロはなかなか戻ってこなかった。将人はべっとりとした額の汗を拭いながら、関内から少し距離をとって日陰に座り込んだ。辰三もやってきて、隣に腰を下ろす。
リンドンが将人に話しかけてきた。眉の上で一直線に切りそろえた前髪に面長の顔。ジョエルと似た、ぎょろりとしたまん丸の目をしている。
「喉が渇いたでしょう、今、ボゴジュースを持ってきますから」
聞いて、辰三が歓喜の声を上げた。
「今、ボゴジュースって言ったよな? そりゃいい、あれはうまいぞ。ヤシの実のジュースで、実を削って、先端に穴をあけて、ストロー刺して飲むやつだ。スポーツドリンクみたいな味がするぞ。飲み終わったらさ、実を半分に割って、中の果肉を食べるんだ。白いゼリーみたいなやつで、それがナタデココの材料になるんだぞ」
ひとみが見ていた旅行情報誌に、そんな飲み物を手に、ビーチチェアに寝転がっているビキニ姿の女性の写真がよく載っていた。
数分して、リンドンが両手にヤシの実を携えて戻ってきた。
ヤシの実自体、初めて目にする将人は、手渡されたボゴジュースをしげしげと見つめた。削って薄くなった皮に穴を開けて差しこまれたストローから、中の液体を恐る恐る吸い上げる。冷たい果汁が、口のなかにどっと流れ込んだ。
「これ――すごくおいしいです!」
将人は思わず声を上げていた。リンドンが笑みを浮かべる。さんざん汗をかいて喉がからからだった将人は、残りの果汁を一気にすすり上げた。
「そんだけの勢いで飲めるなら、お前、サマールに永住できるな」
言って、辰三はボゴジュースとタバコを交互に吸った。
「もし良かったら、もう一つ持ってきましょうか?」
将人のあまりの勢いに驚いた顔をしたリンドンが聞いた。
「あの、できれば、お願いします」
将人は遠慮がちに言った。あと二つか三つは飲めそうだ。
「ところで、あなたの名前は?」
将人はリンドンに自己紹介した。リンドンの自己紹介を辰三にも通訳してわかったが、辰三はリンドンとは初対面だった。
リンドンが二つ目のボゴジュースを将人に手渡したとき、見張り所の脇道からようやくパジェロが姿を現した。
盗人疑惑のある運転手ロックの番号を見られないよう手で隠しながら、将人はパジェロの中でスーツケースを開けた。衛星電話はクッション代わりに服で包んである。縦二十センチ、横三十センチ、厚さが三センチほどの大きさで、フィリピンのコンセントから電源が取れるコンバーターも付属している。ナイロンケースの小物入れには、衛星を捉えるための地図と方位磁石が入っている。
衛星電話のスイッチを入れると、将人は敷地の中を歩いて、電波状態が良い場所を探した。ふと人の気配がして振り返ると、ライアンを先頭にして、何が始まるのかといった面立ちの従業員たちが、将人のあとに続いてずらりと列をなしていた。
そんな彼らに戸惑いながら、将人は敷地内を歩き回り、見張り小屋とコンテナのちょうど中間、熱いコンクリートの上が、電波状況が一番良いことに気づいた。鉄板の上のようなコンクリートに腰を下ろして、ナイロンケースを敷いた上に衛星電話を置く。尻から伝わる熱のせいで、せっかくボゴジュースで引いた汗が再び滴になって全身を流れ始める。
将人の周囲を従業員が輪になって取り囲んだ。みな目玉が落ちそうなほど見開いて衛星電話を凝視している。
「水を撒こうか? 電波が良くなるかもしれない」
ジョエルが真顔で言った。将人は首を横に振って微笑む。続いて、召使が、さっき飲みそびれた二つ目のボゴジュースを持ってきた。それにも「ありがとう、でもあとで」と首を横に振って答える。
将人は、中折になっている本体を開いた上側のパネルの角度を、説明書にある規定の三十五度に固定し、方位磁石を見ながら、衛星が飛んでいるはずの方角に向けた。接続開始のボタンを押すと、ディスプレイに〈探索中〉という文字が点滅する。間もなく、ピピっという電子音がして、電話が衛星をキャッチした。電波の強さを示すインジケーターも、五本中三本が点灯している。あとは日本の電話番号をダイヤルするだけでいい。
「辰三さん、用意ができました」
辰三が満面の笑みで、手をこすり合わせながら歩み寄ってきた。従業員たちの熱い眼差しが、衛星電話から辰三に移る。
従業員の輪の中で受話器を受け取ると、辰三はまずミナモト水産の電話番号をダイヤルした。清新設備の電話番号がわからないからだ。
「あ、もしもし、辰三だけどさ、社長いる?」
辰三が話し出しだすと、従業員たちから感嘆のうめき声が漏れた。ボゴジュースを持ったまま立っている召使など、今にも泣きそうに目を潤ませている。
「もしもし、社長? 辰三だけど――あ? バカいってんじゃねぇよ、元気でやってるって――」
久しぶりに気心の知れた実兄と話せたからか、辰三の声はずいぶんと弾んでいる。
「――清新設備に電話して、今すぐこの衛星電話にかけさせてくれや」
辰三が電話を切って立ち上がると、従業員たちが畏敬の念を浮かべた顔で辰三を見つめた。そんな彼らの視線を一手に集めたことに辰三は戸惑ったようで「こいつら奇跡でも見たような顔してやがる」と将人にはにかんだ笑みを向けた。
衛星電話を取り囲む輪から、リンドンが一歩踏み出した。
「これは衛星電話だよね?」
「そうです。でも本当に衛星を通じて日本に電話できるなんて、正直、こいつを持ってきた僕自身、驚いてますよ」
将人の言葉に微笑みながら、リンドンは衛星電話に顔を近づけ、ボタン類の英語表記を読みながら、「なるほど、なるほど」と繰り返した。
「この上部のパネルがアンテナになってるんですね。以前、アメリカ人の電気技師と一緒に仕事したときにも、彼らは同じような衛星電話を使って、アメリカに電話をかけていましたよ」
「リンドンは機械に詳しいんですね」
「僕はブエナスエルテで、アルマンと一緒に電気関係を担当してます」
そんな会話をしているうちに、衛星電話から、ピピピピッ、という呼び出し音が響いた。辰三が慌てて受話器をとり上げようとすると、続いて、ピーッピーッ、という別の音が響いた。見れば、いつの間にか辰三の隣まで進み出ていたジョエルがアンテナに顔を貼り付けんばかりに近づけている。
将人が画面を覗き込むと、〈通信遮断〉という文字が表示されていた。
「ジョエル、アンテナの前に顔を出したら電波が切れてしまうだろ」
ライアンがジョエルを諭した。
「ごめんごめん」
ジョエルは慌ててうしろに退いた。
遮蔽物がなくなると、衛星との通信はすぐ回復した。電話がかかってくるのを待つあいだ、将人は、口をあんぐり開けたまま衛星電話を凝視している召使の手からボゴジュースを受け取って、ごくごくと飲んだ。
数十秒して、再び呼び出し音が鳴った。辰三が、火をつけたばかりのタバコを投げ捨てて受話器に飛びつく。
「もしもし? 山本か? 辰三だけどよ、あ? そんな暇あるわけねぇだろ! それよりさ、今な、製氷機を動かしてんだけどよ、氷が出てこねぇんだよ。アームは動いてんだけどさ――え? お前が試運転したときはしっかり氷が出たって? アームは――」辰三が将人に向けて、製氷機のある小屋を指差した。「おい、アームって、今、どっちに回転してんだ?」
将人が英語で聞くと、リンドンは「左回りです」と即答した。
「左にまわってんだってよ――え? 逆? わかった、それ試してみるから、だめだったら、また電話するからよ。それでもダメなら、お前、今すぐこっちに来いよ」
むちゃくちゃいわないでくださいよ、という山本の叫び声が受話器から漏れて聞こえたので、将人は思わず笑ってしまった。
「さあ、製氷機の不具合の原因がわかりましたよ、みなさん」
いつの間にかうしろに立っていた関内が、従業員たちに向けて両手を広げながら、英語で言った。
今のやり取りを聞いただけで果たして原因が何かわかるのだろうか、と将人は訝った。
リンドンとアルマンが再び製氷機の上に登った。レックスと関内、ライアンにジョエルも、蒸し暑い小屋の中に入り、じっと見守る。
「山本が言うにはよ、アームが逆に回ってるってことは、電源の配線がプラスマイナス逆につながれてるんじゃねぇかってことだ。一度ブレーカーで電源を落としてから、プラスとマイナスの線を入れ替えて、またブレーカーを入れてみろってさ。ほら、あの天井の梁についている電線だよ。お前、ちょっと上がって、ひっくり返してこいや」
将人は目を瞬いた。
「僕がですか? でも、電気関係はまったくの素人で、下手をすると感電――」
「サマールだから、電気の質が違うだろ。感電してもしびれねぇよ」
「むちゃくちゃいわないでくださいよ」
将人は思わず、山本と同じせりふを言っていた。
まわりに知らしめようといわんばかりの大声で、関内が割って入ってきた。
「柏葉君、君はここに立って、上の二人に指示すればいいじゃないか。英語が話せるんだからさ」
さあおいでなすったぞ――将人は身構えた。蔑むような目で将人を見つめる関内は、どんな完璧な通訳をしようと、レックスたちの前で自分の英語をこき下ろすに決まっている――。
これなら上で感電したほうがましだったかな、と思いながら、将人は、しぶしぶ、はしごにかけていた手を離し、上にいるアルマンとリンドンに向けて声英語で言った。
「まずブレーカーを落として、発電機からの電力供給を止めてください」
アルマンが大きく頷き、梁の上に手を突っ込んだ。製氷機のモーターが泣くような音を立てて止まり、アームも回転を止めた。
「次に電源の配線だけど、そのプラスとマイナスを入れ替えて――」
将人が言っている途中で、関内がいきなり割って入ってきた。
「プラスとマイナスの線を入れ替えて、つなぎなおしなさい」
不具合の原因を特定したのは自分だ、といわんばかりの口調だった。
「でもそんなことしたら、電流が逆に流れてモーターが壊れてしまいますよ」
アルマンが怪訝な顔で言い返した。
「大丈夫だ、反対にしても壊れたり――」言って、関内は急に口ごもり、辰三に向き直った。「―――しませんよね?」
辰三は、苦笑いしながら首を傾げている。
アルマンたちは、配線を入れ替えるのをためらっている様子だった。口で説明してもらちが明かないと思い、将人は口ごもっている関内をわき目にはしごを駆け上がった。
アルマンとリンドンは配線図を片手に、製氷機から延びる電源供給の配線をたぐっていた。太陽の日差しをまともに受けているトタン屋根のすぐ下だから、製氷機の上は、摂氏五十度はあるのではないかというほどの暑さだった。
「それが、発電機からの電源供給線?」
額から流れ落ちる汗を拭いながら、将人は同じように汗まみれのアルマンに聞いた。
「ヤマモトさんの配線図を見る限り、そうだと思う。でも、本当にプラスマイナスを入れ替えるの?」
「アームの回転方向は右回りが正しいんだ。山本さんが試運転した後で、配線をつなぎかえたことがあったんじゃない? 今は左回りだから、配線が逆という可能性は的を得ている。もし逆につないでいるなら今がそうで、壊れるならもうすでに壊れてるはずだろ?」
「そういえば――」リンドンと顔を見合わせると、アルマンが苦々しい顔になった。「この町は頻繁に停電するから、発電機からも電気を取れるように配線し直したんだけど、もしかしたらそのときに――」
「僕たちがミスをしたのかもしれません」
リンドンが苦々しい顔で引き継いだ。
二人はさっそく配線の入れ替え作業に取りかかった。
見守ろうかと思ったが、将人は暑さに耐えられず、逃げるようにハシゴを降りた。下におりると、まるで冷房が効いているかのような錯覚すら感じた。
「入れ替え、完了しました」
言って、アルマンが親指を立てた。
レックスが「電源を入れてみろ」と言った。モーターの、ぶーん、という低い音と共に、製氷機が再び動き出す。アームは右に回り始めた。
小屋にいるだれもが、ひと言も話さず、アームの回る透明のケースを見つめている。
一分ほどして、辰三が声を上げた。
「お、始まった――」
見れば、ケースの中に、角砂糖ほどの白い塊が出来ていた。それがアームに押されて回転し、ケースの底に開いた穴から、下の貯蔵室に落ちていく。続いて、二つ、三つと氷の塊が現れ、数十秒後には、ケースの中のアームが、氷で隠れて見えなくなった。
「やった、やったぞ! ショウのおかげで動いたぞ!」
アルマンが甲高い声で叫んだ。
レックスが将人の隣にやってきて、ケースの中の氷を指差し「アイス」とぼそりとつぶやいてから、にっこりと微笑んだ。
小屋の中の様子を外から遠巻きに見ていた従業員達も、手を打ち鳴らして歓声をあげた。製氷機の上で汗まみれになっているアルマンとリンドンは、満面の笑みを浮かべながら握手を交わしている。
製氷機の扉を開けると、すでに高さ五十センチほどの氷の山ができていた。従業員たちから、低いどよめきが起こった。
「この氷はよ、テーブルの上で魚を加工するときに、暑さで傷まねぇように冷やすのに使うんだ」
辰三がにこやかに言った。
「タツミサン、スバラシイ」
レックスが拍手した。従業員たちもそれに続く。小屋の周囲に、大きな拍手が鳴り響いた。
辰三は、困ったような、照れたような笑いを浮かべながら頷いて、その拍手に答えた。
「さあ、そろそろ昼飯にしますかね」関内がその拍手をさえぎるように言った。「食事が済んだら涼しくなるまでここでのんびりして、日が沈んだら、社宅でジョニ黒をじっくりやりましょうかね、辰三さん」
晩酌の話になった途端、辰三の顔から笑みが消えた。
すでに夕食といっても良い時間まで取り置かれていた食事は加工場に用意されていた。三つの白いガーデンテーブルが並べられ、その上を、あふれんばかりの料理が埋め尽くしている。加工場の奥の、積みかけのブロック塀の手前に、ガスレンジと流し台があった。そこでは、二人の従業員が、せかせかと調理を続けている。加工場はブエナスエルテ社の敷地の南端に位置しているので、奥のブロック塀のすぐ先に、境界線を示す杭が並んで打たれていた。その杭から一キロほど先までは延々と湿田――リンドンがそう教えてくれるまで、将人はそこがただの荒地だと思っていた――が広がっている。湿田の先は、ヤシの木が隙間なく生い茂った小高い丘になっていた。
「最高の〈ランチ〉を用意しました。遠慮なく召し上がってください」
レックスが〈ランチ〉という言葉に含みを持たせるように言った。
関内が「これはうまそうだな」と言いながら、当然のように上座に着いた。関内の隣にレックスが座る。辰三はなぜか彼らと距離を置くように、対角の角に座ったので、将人もその隣の席に座った。
「あれ、辰三さん、そんな遠くでいいの?」
関内が言った。
「俺は、難しいビジネスの話はわからねぇから。レックスと遠慮なくやってください」
言って、辰三は愛想笑いを浮かべた。
ジョエル、ライアン、アルマン、リンドンの重役四人が、レックスと関内の二人と、辰三と将人の二人のあいだの空席を埋めた。
すでに置く場所のないほど料理の並んだテーブルに、さらに詰め物をした魚の蒸し焼きが運ばれてきた。
レックスが、その湯気を上げる料理を指差しながら言った。
「これはブエナペスカ社の養殖池で取れたミルクフィッシュです。フィリピンでは、こんなふうに内臓をくりぬいて、野菜や肉などを細かく刻んだものを詰め込んで蒸し焼きにするんですよ」
見た目はボラそのものだったが、こうして色とりどりのハーブをたっぷり振りかけて調理された姿を見ると、確かにフィリピンでこの魚が高級魚と呼ばれるのもわかる気がする。
テーブルの上の料理は、二十人はまかなえるほどの量だった。豚肉のスープ、ピラフ、カニとエビの蒸したもの。おまけにスライスしたマンゴとパパイヤもあった。
「タツミサン、サンミゲル?」
レックスの言葉に、辰三はにこやかに頷いた。
「ショウ、君は?」
将人は、なにかアルコールではないものをお願いします、と頼んだ。
レックスが従業員の一人を呼びつけてタガログ語で何か言うと、その従業員は飛ぶようにどこかへ走って行き、あっというまに両手いっぱいの瓶を抱えて駆け戻ってきた。
「では、始めましょう」
全員の飲み物がテーブルに置かれたところで、関内が言った。
将人の前には、日本では子供のころ以来すっかり見なくなった、コカコーラの一リットルビンが置かれた。
料理に手をつけようとしてフォークを伸ばしたとき、数十匹のハエが、料理から一斉に飛び立った。将人は思わず顔をしかめた。
辰三が、「サマールへようこそ」と隣でくすくす笑った。
レックスがいきなり声を上げた。
「アルバート!」
さっきの召使が、どこからともなく駆け寄ってきた。近くで見て、このアルバートという名の色黒の召使は、身長が百五十センチほどしかないことに気付いた。
レックスがタガログ語で指示すると、アルバートはどこかへ駆けて行き、もう一人、背丈も顔の造りも似た召使を連れて戻ってきた。二人は、それぞれテーブルの両側に立つと、手に持ったヤシの葉を、機械のように左右に振り始めた。
将人は、彼らがハエを追い払うためだけに呼ばれたのだと気付いて驚いた。目の前の料理にハエがたかると、アルバートは敏感にそれを察知して、葉っぱを振ってハエを追い払い、将人に向けて微笑んで見せる。
彼に笑みを返しながらも、将人は彼にこんな真似をさせていることに、逃げ出したくなるような罪悪感を覚えた。
レックスも関内も、ハエ払いをさせているアルバートのことなど気にもせず、平然と会話を続けている。ライアンたちも、召使二人の方は見向きもせず談笑している。
「びっくりしたか?」
辰三だけが、将人の戸惑った表情に気付いたらしく、そう苦笑いしながら聞いてきた。
将人は大きく頷いた。
しばらくして、関内は料理をつつく手を休めると、もう何度聞いたかわからない日商大岩時代の同じ逸話を、単純極まりない英語に置き換えて、レックスとライアンたちに話し始めた。将人が辰三に通訳し始めると、すぐに「通訳してまで聞くような話じゃねぇよ」と手を振って、それ以上聞こうとしなかった。だが、レックスやライアンたちは真剣な面持ちで頷きながら聞き入っている。
通訳は止めたが、将人は関内のひどい英語に慣れようと耳を澄ました――それにしても、フィリピン人たちはなぜ関内のひどい英語をこうも問題なく理解できるのだろうか――やはり将人には、どうやっても、関内の英語は、タガログ語でもない関内語という新言語――ちょうど、シンガポールでしか通用しない英語をシングリッシュと揶揄するように――にしか聞こえない。
そんなことを考えていると、突然、関内が話しかけてきた。
「柏葉君、君は通訳のくせに、さっきから辰三さんに全然通訳していないじゃないか。ただで飯を食わせるために雇ったんじゃないんだよ。ぼけっとしてないで、ちょっと働いてもらおうかね、そう、今から私の言うことを、レックスに通訳してみなさい」
おいでなすったぞ――将人は身構えた。製氷機での一件はうまく逃れたが、どうせみなの前で英語力をこき下ろされるのは時間の問題だとわかっていた。
「辰三さん、このカニ、卵持ってるでしょ、ほら、この腹の中の、黄色いやつ。日本じゃ〈子持ち〉っていうけど、フィリピンでもそういう子持ちのカニは喜ばれるのかね?」
関内の言葉を聞きながら、将人は頭の中で次々に英語の文章を作り上げていた。
辰三が答えた。
「カニはさ、こんな風に腹の中に卵をもってるけど、産卵期になると、卵を体の外に出して、孵化するまで、腹や背中に貼り付ける、というか、抱えるんですよ」
関内が、将人にぴんと伸ばした人差し指を向けた。
「さぁ、今のをレックスに通訳してください」
ライアンたちが会話を止め、何事かと将人を注目した。
すでに頭の中で英文を作り上げていた将人は、ひと言もつかえることなくレックスに通訳した。レックスは、初めてまともに聞く将人の英語に――というより、おそらくフィリピンではめずらしい、イギリス風のアクセントにだろう――驚いた顔を見せた。
「しかし、このカニは卵を持っていないが?」
レックスが答える。
「その黄色い部分です」
将人は卵を指差した。
「それは〈内臓(Guts)〉だ」
「〈卵(Egg)〉ですよ、えっと、もっと正確に言うと、〈卵(Spawn)〉と言います。ここです」
将人は、黄色い部分を指差して、繰り返した。
それでも、いや違う、とレックス。
「柏葉君、君の発音が悪いんだ」待ってました、とばかりに関内が割って入った。「レックス、この黄色い部分はスパウンだろ?」
レックスが、きょとんとした顔で首を傾げる。
〈Spawn〉を〈スポーン〉ではなく、〈スパウン〉と発音すると思い込んでいるらしい関内は続けた。
「柏葉君は知らないようだから教えてあげるけどね、魚とか両生類なんかの、硬い殻のない卵はさ、エッグじゃなくて、スパウンって言うんだ。そんなことも知らなくて、よくTOEICで九〇〇点も取れたね、私が受けたら満点取れるんじゃないか?」
関内は大笑いしながら、同じことを英語でレックスに伝えた。
レックスは首を振りながら、ショウは間違っていませんよ、と言った。
「フィリピンでは、腹の中にあるものは、みな内臓って呼ぶのです。体の外に出て、初めて〈卵〉ですよ。別に彼の英語が間違っていたわけではありません」
そう関内に諭すように言ってから、レックスは将人に微笑みながら頷いた。
「私は大学でスペイン語を専攻してたから、英語をスペイン語読みしてしまう癖があるんだ。へえ、〈Spawn〉は〈スポーン〉と発音するのかね、ややこしいな。外国語をいくつも話せると、こういう弊害が出てくるから困る」
関内が言うと、ライアンたちは同意するかのような、控えめな笑い声を漏らした。
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