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2014年05月05日
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(10年前に自分が書いたものから転載。)

2004年06月10日

「Emily's Quest エミリーの求めるもの」の村岡訳について
村岡花子さんが「アン・シリーズ」の省略や意訳をしていたことは周知の事実だが、あの方の翻訳で育った身としては、 許せるというか、所詮は我々は村岡さんのフィルターを通した「モンゴメリ」の作品世界に憧れていたのではないか、とか考えたりする。だから、たとえ完訳 で、注釈が細かく付け加えられていたとしても、他の人の翻訳を受け入れるのはかなり難しい。(聞いた所によると掛川恭子さんという方の講談社の完訳がかな りのレベルだという話だが。)

さて、アンシリーズの次に有名なモンゴメリの作品にエミリー・シリーズがある。これはアンよりもモンゴメリ自身が反映されており、作家志望のエミリーの生 き方に共感することも多く、中学の頃から、一番好きな作品だった。エミリーシリーズは村岡さんの訳以外に、最近、偕成社文庫の神鳥統夫さんの「完訳版」と 銘打った第一部の「エミリー」が出版されており、このシリーズも省略されている部分があるのかと気になっていた。

幸い、モンゴメリの作品の原文は、ほとんどがネットで読むことができ、先週、エミリーシリーズの第三部「Emilyユs Quest エミリーの求めるもの」の数章を見て、村岡さんの翻訳とどれだけ合致しているのか読み比べてみた。

結果として、やはり意訳、誤訳、英語のまま日本語になっていない語句、省略したフレーズなどが数カ所あった。「エミリーの求めるもの」のあとがきに、この 作品を最後に村岡さんは亡くなったとあり、闘病を押しての翻訳であったと見られ、十分に推敲されてないのは仕方がないかも知れない、これだけできれば上等 ではないかという気もしたが、とりあえず、気づいたことを以下にあげる。

1) 瀬戸内海について

新潮文庫p。99 第九章


このエミリーの中で突然現れる日本の地名の記述について、中学の時、初めて読んだときでさえ、私は違和感を覚えた。「瀬戸内海」なんて、果たして、当時の、モンゴメリの日常世界の中で語彙として存在していたのであろうかーーー?
その後、第十七章・第三部に日本のプリンスが現れてエミリーに求婚するくだりになると、ますますその違和感が強まった。



回答は「いいえ」だった。原文は以下である。

On one point Aunt Elizabeth was adamant Emily should not be married until she was twenty. Dean, who had dreamed of an autumn wedding and a winter spent in a dreamy Japanese garden beyond the western sea, gave in with a bad grace.

瀬戸内海という語彙はない。あるのは「the western sea (西の海)」だった。

旧約聖書の申命記 Deuteronomy 11:24(http://www.is.seisen-u.ac.jp/~zkohta/bible/old_t/1/deu.html )
に、「Every place where you set foot shall be yours: from the desert and from Lebanon, from the Euphrates River to the Western Sea, shall be your territory.  あなたたちが足の裏で踏み込む所は、すべて、あなたたちのものとなり、荒れ野からレバノン山まで、ユーフラテス川から西の海まであなたたちの領地とな る」と明記されている。

この「the western sea (西の海)」については、Daily Bible Study(http://www.keyway.ca/htm2003/20030715.htm )に、
「Mediterranean Sea that formed the western border of the land of Israel. It was variously called the "Western Sea"」とあり、直訳すると、「イスラエルの土地の西側の国境を形成する地中海は、種々に“西の海”と呼ばれていた」、となる。

そうなってくると、「秋の結婚につづく瀬戸内海のむこうの日本の庭での冬」は、当然のように「秋の結婚につづく地中海のむこうの日本の庭での冬」と訳されるべきである。

日本が「極東」とされる、当時の感覚から言っても、カナダの東海岸にあるプリンスエドワード島から日本に向かう航海は、アメリカ東海岸から西海岸へ行って 太平洋を超えるより、大西洋を超えて地中海からスエズ地峡に入り、紅海からインド洋に抜けてアジアを目指したのが、1920年代の当時でも一般的であった と思う。



ある意味、エミリーシリーズに日本が出てきて「嬉しい」、と中学生の私が感じたことは事実だが。





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最終更新日  2014年05月05日 13時08分52秒


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