見たまま、感じたまま、思ったまま

龍(RON)


知っている方も多いと思う、村上もとかの「龍」(RON)である。
ビッグコミックオリジナルに1991年より連載開始され現在連載中である。今まで連載中の作品はあまり取り上げなかった。それはその後話がどう転んで評価が変わるかも知れなかったためだが、まあこの作品の評価がこれから変わることは無いだろうと思うので今回とりあげ。

村上もとかは、「赤いペガサス」を出世作とし、美しく緻密な絵、丁寧な時代考証、そして奇想天外な話の筋道など、まさにエンターテイメントの王道を行く作家である。

時代は1920年代後半昭和初期から日本が戦争への道をまっしぐらへ突っ走って行こうとする時期の話である。

主人公の押小路龍は京都の押小路財閥のひとり息子。父親の一磨はもと軍の情報将校だったが今は引退して祇園三昧の日々を送り、財閥の仕事は叔父の押小路卓磨によって支えられている。
武専(武道専門学校)へ入学して剣道にあけくれる毎日を送る龍であるが、押小路家の使用人であった田鶴ていと出会う。明るく聡明でしかも強い意志を持つこの少女の事を好きになった龍は周囲の反対を押し切りながら彼女と一緒になる決意し、そのため武専を中退する。

日本の右傾化の波は次第に二人を飲み込み、ていは友人絡みで特効警察に追われる運命となる。父親の一磨も二人を認めてその祝言の日、特効警察が押小路家に踏み込み、二人は一磨の機転で家から脱出する。

思いを遂げて一緒になった二人であるが、ていは自ら警察へ出頭し、その天性の明るさと聡明さで自分の疑惑を晴らす。
その後龍は叔父の卓磨の片腕となり、大満州航空を設立、その特別顧問となり青年実業家の道を歩み始め、ていは映画の道へ入り俳優としての素質を開花、銀幕のスターへと二人は別の道を歩み始める。

ある日龍は父親から、実は自分の母親は中国の諜報機関の職員で、中国王朝に伝わる秘宝を列強から守るためにどこかへ隠し、そのために暗殺されたこと、そしてその手がかりが自分に託されていること、父親は若隠居したふりをしてその秘宝をずっと探しているがやはり見つからなかったと言うことを話される。

そしてその秘宝を追って中国から秘密結社の一団が一磨の元へやって来るが、その首領が実は龍の双子の兄、鳳華であったのだ。2・26事件の起こった夜、東京の押小路家別邸に押し入った鳳華によって父親の一磨は撃ち殺されてしまう。そして日本を脱出した鳳華も、龍の部下で元は鳳華のスパイであった曹徳仁によって打たれて重症を負う。

父親の遺骨を持って京都に帰った龍は、以前からつけねらわれていた特効警察に、父親殺しの疑いで逮捕されてしまう。
それを後ろで手引きしたのは叔父の卓磨であった。卓磨の目的は龍を大満州航空から切り離す事と押小路財閥からの追放であったが、龍は朝鮮人の友人と共に警察を脱出、彼らに追われながらも父親の敵とその秘宝を追って中国へ渡ろうとするが、その船が難破、記憶を失ったまま中国へ流れ着くのであった。

記憶をなくして中国人の李龍と名乗る事になった龍であったが、放浪中に日本軍に捕まり銃殺されようとした瞬間、兵隊が話す京都弁を聞いた瞬間に日本語を思い出し、自分が日本人であったことを知る。そして龍を追って女優、映画監督して中国へ渡っていた田鶴ていと龍は運命的な再開をすることになる。

記憶が戻り、晴れて夫婦となり子供も出来た龍であったが、更に運命の波は彼を飲み込んでいく。
満州の陰の実力者であった甘粕正彦の依頼を受け、父親の敵鳳華と中国の秘宝を探しに龍は旅立つのであった。

第二次大戦前後の日本を中国を舞台に、数奇な運命に翻弄されながらも力強く生きていく龍とてい、ふたりの一代叙事詩なのである。


と、まあここまで書いてきたが、これでもやっと現在までに出版されている35巻の30巻ぐらいまでしか後紹介しきれて居ない。この壮大な物語のあらすじを説明するのは至難の業である。

村上は、現在ヤングジャンプにも「仁」と言う、江戸時代にタイムスリップした脳外科医の話を書いている。こちらも緻密に練られたストーリーで読者を引っ張ってくれるが、やはり代表作となるとこの「龍」であろう。
長いけれど、連載中に細切れで呼んでも、コミックスをまとめて読んでも、決して退屈する瞬間の無い傑作である。
時間のある時にどうです?


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