趣味の漢詩と日本文学

趣味の漢詩と日本文学

April 1, 2011
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カテゴリ: 国漢文
【本文】本院の北の方の、まだ帥(そち)の大納言の妻にていますかりける、平中がよみてきこえける。

はるの野に 緑にはへる さねかづら わが君ざねと たのむいかにぞ

といへりけり。
【注】
・本院の北の方=在原棟梁のむすめで、藤原時平の妻。藤原国経との間に生まれた子が少将滋幹。
・帥(そち)の大納言=藤原国経。時平の叔父。「帥」は、大宰府の長官。大納言を兼任した。
・さねかづら=ビナンカズラ。
・きみざね=大切な妻。本妻。「さね」に「共寝する」意の「さ寝(ぬ)」をきかせている。

【訳】


春の野に、これから青々と這って延びるさねかずらのつるのように、末永く私の大事な妻にしたいと当てにしておりますが、あなたのお気持ちはいかがでしょうか。
と求愛したとさ。

【本文】かくいひいひてあひちぎることありけり。そののち左の大臣の北の方にてののしりたまひける時、よみてをこせたりける、

ゆくすゑの 宿世もしらず わが昔 ちぎりしことは おもほゆや君

となむいへりける。
【注】
・ゆくすゑ=将来。
・宿世もしらず=運命もわからず。相手の女が左大臣の妻にまで出世するとは思いもしなかったということ。
・ののしる=勢力盛んになる。
【訳】こんなふうに、お互い愛の歌を交わして、夫婦の約束を結ぶことがあったとさ。そののち、左大臣の正妻として勢力盛んでいらっしゃったときに、平中が作ってよこした歌、

将来が、どういう運命かもわからずに、私がむかし夫婦の約束をしたことは、思い出されますか、あなたは。



【本文】その返し、それよりまづまづも、うたはいとおほかりけれど、え聞かず。
【注】
・まづまづ=(岩波日本古典文学大系)に「まへまへ」の誤写であろう、とする。(蓬左文庫本)(群書類従本)に「まへまへ」に作る。
【訳】その歌に対する返歌や、それより以前のものも、歌は非常に多くあったが、聞くことができなかった。





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Last updated  April 1, 2011 08:26:15 AM
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