趣味の漢詩と日本文学

趣味の漢詩と日本文学

May 18, 2011
XML
カテゴリ: 国漢文
【本文】故宮すんどころの御姉、おほいこにあたり給けるなむ、いとらうらうじく、うたよみたまふことも、おとうとたち宮すむ所よりもまさりてなむいますかりける。
【注】
・おほいこ=長女。
・らうらうじく=才能がすぐれていて。
・おとうと=妹。
・いますかり=いらっしゃる。「あり」の尊敬語。
【訳】故御息所の姉上で、長女にあたっておられたかたは、才能すぐれておられ、和歌をお作りになることも、年下の御息所たちよりもまさっていらっしゃった。

【本文】若き時に女親はうせ給にけり。継母の手にかかりていますかりければ、心に物のかなはぬ時もありけり。さてよみたまひける、

 ありはてぬ 命まつまの ほどばかり うきことしげく 歎かずもがな


【注】
・心にかなふ=思い通りにいく。
・ありはつ=何時までも生き長らえる。
・~もがな=「~たいものだ」。願望を表す終助詞。
【訳】若いときに、生みの母親はお亡くなりになってしまった。継母の手でそだてられていらっしゃったので、心に何かと思うようにならない時もあった。そうして、お作りになった歌、
いつまでも生き長らえない寿命がくるのを待つ間ぐらいは、つらいことが頻繁には無く、嘆かないでいたいものだ。

と歌をお作りになったとさ。

【本文】梅の花を折りて又、

 かかる香の 秋もかはらず にほひせば 春恋してふ ながめせましや

とよみたまひける。
【注】

・ながめ=ぼんやりと物思いに沈むこと。
【訳】梅の花を折って、また

このようなすばらし香りが、もしも、秋も変わらず匂ったならば、春を恋しいという物思いに沈んだりするだろうか(いや、しない)

とお作りになったとさ。

【本文】いとよしづきて、をかしくいますかりければ、よばふ人もいと多かりけれど、かへりこともせざりけり。

・よしづく=奥ゆかしく。
・かへりこと=恋文などに対する返事。
【訳】非常に奥ゆかしく、すばらしいかたでいらっしゃったので、求婚する人も多かったけれども、返事もしなかったとさ。

【本文】「女といふもの、つひにかくて、はて給べきにもあらず。時々は返り事し給へ」と親も継母もいひければ、せめられてかくいひやりける、

 おもへども かひなかるべみ 忍ぶれば つれなきともや 人の見るらむ

とばかりいひやりて、物もいはざりけり。
【注】
・つひにかくて、はて給べきにもあらず=死ぬまで独身でいてはいけない。
【訳】「女性というものは、最後までこんな状態でお亡くなりになってはいけない。時々はお返事なさい。」と父親も、継母も言ったので、うながされて、このように言って送った。

愛しても、甲斐がないから、我慢して打ち明けずにいると、薄情だと、あなたは私を思うのだろうか

とだけ和歌に書いて送って、その後は口もきかなかったとさ。

【本文】かくいひける心ばへは、親など「男あはせむ」といひけれど、「一生に男せでやみなむ」といふことを、よとともにいひける、さいひけるもしるく、男もせで、廿九にてなむ、うせたまひにける。

【訳】こんなふうに言った気持は、親などが「男と結婚させよう」と言ったけれども、「一生夫を持たないで終わるつもりだ。」と、年中言った、そのように言ったとおりに、夫をも持たずに、二十九歳で、お亡くなりになってしまったとさ。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  May 18, 2011 03:02:34 PM
コメント(3) | コメントを書く
[国漢文] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: