趣味の漢詩と日本文学

趣味の漢詩と日本文学

September 3, 2016
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カテゴリ: 学習・教育
【本文】伊衡の宰相、中将に物したまひける時、故式部卿の宮、別当したまひければ、つねにまゐりなれて、御達もかたらひ給ひけり。
【訳】宰相の藤原伊衡が、中将でいらっしゃった時、今は亡き式部卿の宮が、別当をなさっていたので、いつも宮のもとへ参上しなれて、宮仕えの女性とも親しく付き合っておられた。
【注】      
「伊衡の宰相」=宰相の藤原伊衡。彼は承平四(九三四)年に参議、すなわち宰相に任ぜられた。
「中将」=藤原伊衡は、延長二(九二四)年十月に権中将に任ぜられた。
「故式部卿の宮」=敦慶親王(八八七~九三〇年)。宇多天皇の第四皇子。美貌で管絃にも長じていた。十七段に既出。
「別当」=宮家の別当。役所・院・親王家などの事務長。
「御達」=宮仕えの女性に対する敬称。「たち」は、もと複数を示す接尾語だったが、「ごたち」は、単数を表すこともある。『伊勢物語』巻三一段「昔、宮の内にて、ある御達の局の前を渡りけるに」。
「かたらふ」=話を交わす。親しく付き合う。


【訳】その宰相の藤原伊衡が内裏から退出なさったとたんに、強い風にあたってご病気になった。
【注】
「内」=内裏。宮中。
「まかづ」=退出する。「退く」「去る」の謙譲語。
「わづらふ」=病気になる。

【本文】とぶらひに薬の酒・肴など調じて、兵衛の命婦なむやりたまひける。
【訳】お見舞いに薬種や酒やつまみなどを用意して、兵衛の命婦がお送りになった。
【注】
「とぶらひ」=見舞いの贈り物。
「調ず」=調達する。
「兵衛の命婦」=一族の男子に兵衛(兵衛府の職員)がいる命婦(五位以上の中級の女官)。


あをやぎのいとならねども春風のふけばかたよるわが身なりけり
とあれば、
【訳】その見舞いに対するお礼の返事に、「非常にうれしくもお見舞いなさったこと。情けないことにこんな病気にかかるものだなあ、と言って、
青柳の細い枝じゃありませんが春風が吹くと一方へ偏るわが身であるなあ
と和歌を作ったところ。

「かへりこと」=返事。
「とふ」=病状を問う。
「あさまし」=情けない。見苦しい。
「あをやぎのいと」=青柳の細い枝を糸に見立てて言う語。「偏る」と「縒る」は掛詞、「よる」は糸の縁語。

【本文】兵衛の命婦かへし、
いささめに吹くかぜにやはなびくべき野分すぐしし君にやはあらぬ
【訳】兵衛の命婦の返歌、
ささやかに出たばかりの青柳の新芽に吹く春風ぐらいにそう簡単になびいたりするはずがあろうか、いや、ない。野分だってやり過ごしたあなたではないか。
【注】
「いささ」=ささやかな意の接頭語。
「野分」=台風。特に二百十日、二百二十日前後に吹く暴風。





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Last updated  September 3, 2016 05:09:57 PM
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