第百九段
【本文】
むかし、男、友だちの人をうしなへるがもとにやりける。
花よりも 人こそあだに なりにけれ いづれを先に 恋ひむとか見し
【注】
〇あだなり=はかない。もろい。
〇いづれ=どちら。
〇恋ふ=思い慕う。なつかしむ。
【訳】
むかし、男が、友人で身内を亡くした人のところに作って贈った歌。
桜の花よりも先にあなたのお身内がはかなく亡くなってしまったなあ。花とあの人とどちらを先に思い慕うことになろうと考えただろうか、いや、まさかこんなことになろうとは思いもしなかった。