がらくた小説館

性悪説

「あいつはいいやつだよ」と、誰に聞いてもそう答える。

 俺はますますバツが悪い。確かに竹田は人の良さそうな顔をしている。それがまた気に食わない。絶対に裏があるはずだ。

 はっきり言って、俺の勤務態度は誉められたものではないかもしれない。しかし、新入りの株がどんどん上がっていくのもおもしろくない。

 そこで俺は、仕事の休憩時間に竹田をトイレに呼ぶことにした。

「おい、お前最近調子乗ってるよな」
俺はドスを聞かせた。

「そんなことないですよ」
竹田は身を屈めるような仕草をして答えた。

「へっいい子ぶってんなよ」

「もし、そう思われてるなら、謝ります。すいませんでした」
竹田は素直に頭を下げた。

「そういう態度が気にくわないんだよ」

「すいません。班長…」

「お、おう」
俺はいきなり班長と呼ばれて戸惑った。

 確に俺は現場の班長なのだが、そんな呼ばれ方をしたのはこれが始めてだったからだ。

「班長どうですか?」
竹田は煙草を一本差し出した。

「おっ、すまんな。なんだお前真面目そうに見せかけて、煙草なんか持ってんのか」

「すんません」

「別に謝ることじゃねぇよ。ただ最近煙草吸わないやつが多いからな。周りのの目が気になるとか言って」

「僕は煙草辞められないっすから」

「まあ、いいや。仕事戻るか」

「はい」

「俺は糞してから戻るから、先に行ってくれ」

「はい、わかりました。あっ、もしよければ今度酒でもどうですか?」

「おっ、おう。お前酒も飲むのか?」

「はい。大好きなもんで」
そう答えると、竹田は一礼して出ていった。

 人は見かけ通り、いいやつはいいやつみたいだ。若いのに気が利くし、何より嘘をつくような目はしていなかった。

 今年の夏も暑くなりそうだ。俺は水道で手を洗いながら、トイレの窓から見える”シャバ ”の様子を眺めていた。  










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