音楽三昧＋α

秋吉敏子/秋吉敏子ベスト･セレクション

　楽歴50年(1996年当時)を迎えた秋吉敏子､円熟の境地に達した入魂の名演集

　日本が生んだ世界に誇るジャズ･ウーマン秋吉敏子は､現在もニューヨークを拠点にピアニストとして､またビッグ･バンドのリーダー､作･編曲家として積極的な活動をつづけている｡惜しくも受賞は逃したが､トシコはジャズ･オーケストラによる｢砂漠の女｣で第37回グラミー賞(1995年2月発表)の《ビッグ･バンド》と《編曲》の2部門にノミネートされたし､1995年度｢ダウンビート｣誌国際批評家投票では､《編曲》部門の第1位にも輝いている(トシコは1980年には同投票で3部門を制覇したこともある)｡たまたまトシコは今年で音楽生活50周年(!)を迎えることになっており､ここしばらくは一層多忙になりそうだ｡たとえばトシコは､年内に出版予定の自伝の執筆に目下取り組んでいるほか､6月と10～11月の2度にわたって帰国､音楽生活50周年を記念するコンサートを開くことになっている｡これとは別に､7月にはオーケストラによる記念アルバムの録音､欧州ツアーなども予定されている｡こう書いてくると､最近のトシコの活動がビッグ･バンド中心に動いているという印象をあたえてしまいそうだが､ふだんの彼女は､アメリカ国内ではピアニストとしてソロやトリオやクヮルテットといったコンボで活動することが多く､いまでも毎日最低2時間はピアノを弾くほどだ｡アルバムの吹き込みも､ピアノをメインにした小編成のコンボによるアルバムも定期的につくっている｡楽歴50年､つまりはピアニストとして50年になるトシコは､いまや楽器を体の一部として弾きこなす円熟の境地に達している｡内なる心､エモーションをピアノに込める技も会得しており､近年のビアノ･アルバムはどれもが素晴らしい出来だ｡今月紹介する[秋吉敏子ベスト･セレクション]はトシコのピアノによる近年のベスト･プレイを集めた傑作選｡｢クレオパトラの夢｣と｢ウン･ポコ･ロコ｣はトシコが初期の頃に影響された天才ピアニスト､バド･パウエルの曲｡パウエルに棒げて､トシコが1990年に録音した｢リメンバリング･バド｣と題するアルバムからの演奏｡｢マイ･エレジー｣はトシコの代表的な作品｡｢ノー･デュー･ブルース｣とともに､七重奏団による1991年の｢シック･レディ｣からの演奏で､トシコのピアノと編曲の冴えが聴きどころだ｡ラストの3曲は､近作｢ナイト･アンド･ドリーム｣からのもの｡スタンダードにトシコがフレッシュなアレンジをほどこしてピアノ演奏をきわだたせている｡最後を飾る名曲｢ラウンド･アバウト･ミッドナイト｣はソロ･ピアノで､これはトシコがレコードに残した入魂の名演奏だ｡(児山紀芳)

　クレオパトラの夢(Cleopata's Dream)

　ウン･ポコ･ロコ(Un Poco Loco)

　リメンバリング･バド(Remembering Bud)

　マイ･エレジー(My Elegy)

　ドント･ビー･アフレイド･オブ･クラウン(Don't Be Afraid Of Crown)

　ノー･デュー･ブルース(No Dues Blues)

　月光価千金(Get Out And Get Unden The Moom)

　夜は千の眼を持つ(The Night Has A Thousand Eyes)

　ラウンド･アバウト･ミッドナイト(Round About Midnight)

　　秋吉敏子(ピアノ)

　　ジョージ･ムラツ､ピーター･ワシントン､レイ･ドラモンド(ベース)

　　ルイス･ナッシュ､アル･ヘアウッド､ミッキー･ローカー(ドラムス)

　　スコット･ロビンソン(アルト&バリトン･サックス､バス･クラリネット)

　　ワルト･ワイスコフ(テナー･サックス)､マット･フィンダース(バス･トロンポーン､チューバ)

　　ジョン･エカート(トランペット､フリューゲル･ホーン)他

　録音:1990､1991､1994年

　解説:児山紀芳

　NINETY-ONE(日本クラウン)　FRCL-30596

　購入年月日:1996年6月14日(CDクラブ)

‪#‎ ToshikoAkiyoshi‬ ‪#‎ jazz‬ ‪#‎ piano‬