
7月21日は藤沢嵐子(タンゴ歌手[元])の誕生日(1925年)
ママ私、恋人が欲しいの/藤沢嵐子名唱集
タンゴの故郷の人々をも感動させた藤沢嵐子の情熱のベスト・アルバム(SACDハイブリッド盤)。オルケスタ・ティピカ東京と行った日本ラスト・レコーディング。
ぼく(青木誠)が藤沢さんと親しくお話ししたのは1980年、『藤沢嵐子タンゴの本』の出版のお手伝いをしたときである。ご夫君の早川真平氏とお住まいのマンションを訪ね、淡々と語るお二人のお話をカセットレコーダーに録音しつつ、ぼくは50年代からの一時代をかくも充実して生きられた藤沢、早川ご夫妻の音楽にかける情熱とそのエネルギーに茫然となってしまっていた。藤沢嵐子さんの1950年代の人気、それはもう絶大なものである。テレビはまだ無く、ラジオもNHKだけだったところに51年から民放ラジオ局が相次いで開局した。その頃の洋楽はジャズとタンゴで、とくにタンゴは日本人好みのヨーロッパの香りが人気だった。開局したての民放ラジオはどの局も生演奏番組を売り物にし、ご夫君のタンゴ楽団「早川真平とオルケスタ・ティピカ東 京」でうたう藤沢嵐子さんは各局、総なめである。ところが人気の項点に立つ藤沢・早川両氏は53年に4ヵ月、アルゼンチンに研修旅行されたのだ。勉強のつもりで行ったのだが、あちらでも藤沢さんの実力が認められ、ペロン大統領主催でコンサートがひらかれ、ブエノスアイレスのラジオ局にはレギュラー番組ができて火曜日と木曜日に生放送でうたった。それを収めたテープが日本に届くと東京のラジオでも放送され、早川氏が新聞社に毎日送った手紙は紙面に連載で掲載、地球のあちら側とこちら側で藤沢嵐子の人気が沸騰したのである。このアルバムは1968年録音。早川真平指揮のオルケスタ・ティピカ東京でうたう藤沢嵐子さんの傑作である。冒頭の「ママ私、恋人が欲しいの」は藤沢さんの出世作だが、なんとキュートな、魅力ある声だろう。夫君のオルケスタはやさしさとたくましさを交互にくっきりと描きわける。「淡き光に」も藤沢さんの名唱で知られるロマンチックな名曲である。「さらば草原よ」は毎年出演したNHKの紅白歌合戦で三度うたったお気に入りの歌。「ジーラ・ジーラ」「ラ・クンパルシータ」「カミニート」などについては書くまでもないだろう。アルゼンチン・タンゴの名曲中の名曲である。あらためてこのアルバムを聴き、名歌手がうたうタンゴはかくも陰翳にとみ、愛らしくまた力強いものかと、その奥行きの深さに感動させられた。日本のぼくたちだけでない、地球のあちら側、タンゴの故郷アルゼンチンの人たちも愛してやまない藤沢嵐子さんの素敵な一枚である。(青木誠)
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