リバーサイド・カフェ

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■ブルースのはじまり

  • WC Handy1.jpg

Bluesを語る時いつも引き合いに出される「Bluesの父」のお話です。
2003年はブルース誕生100年だったので、イベントやら映画やらでご存知の方も
多いと思いますが、ブルースの父といえばW・C・ハンディです。

だから彼がこの世に最初に生み出したブルースソングとはいったいどんなのか、
と気になって探しましたが、意外にこれは「へ...?」と思わせるようなモノでした。
「メンフィスブルース」という曲ですが、なんかデキシーのような、ラグタイム
のようなほんわかした曲です。我々がブルースと呼ぶジャンルの音楽とはずいぶん
ズレています。

なぜか、その訳を理解するには、ブルースという音楽のジャンルが出現する以前の
アメリカの音楽シーンと、南部で古くから唄われた労働歌やゴスペルの位置関係を
を知らなければならないのだけれど、まあ、固いことは置いといて、伝説では次の
ようになってます。

「1903年、田舎の駅で、黒人ミュージシャン W・C・ハンディは「かつて聴いた
ことのない、奇妙な音楽」を奏でる男に出会った。その音楽に興味を持った
ハンディはそれをもとに曲を作り、それをブルースと名づけた。それが黒人達
の音楽をアメリカ社会に認めさせ、広がるきっかけとなった。」

しかしW・C・ハンディの著書「Blues An Anthorogie」によると、上記のよう
なお話しとは少し異なっています。

彼はすでに幼い頃からゴスペルや地元の黒人音楽に親しんでいましたが、彼が
コルネット走者として活動始めた当時のアメリカの音楽界は、ヨーロッパから
伝わった音楽を基にしてヒットしていたフォスターやボードビルショウなどの
白人系音楽が主体でした。

彼の本には「ミシシッピー州のタトワイラー駅のプラット・ホームで、ナイフ
の刃でギターを弾きながら独特の歌を歌っていた男に語りかけ、メモをとった」
という記述があり、彼は各地で様々な歌を研究していたようです。

しかし彼がこのような種類の音楽を自ら演奏するようになるきっかけは、次の
ようなシーンだったと私は読んでいます。「ある日、彼の9人のバンドの前座に
出た地元の3人組のバンドが大いに受けて、ハンディらよりもはるかに多いチップ
を稼いだ。」

というわけで彼はこれらの音楽を「原始的な音楽」の意味を含めてBluesと名づけ、
いくつかの曲を書き、演奏し始めたのです。でもラジオもレコードもない時代なの
で、ごく一部の人にしか伝わっていません。

1909年に彼はメンフィス市長選用のキャンペーンソング「Mr.クランプ」という
唄を作り、大いに人気を得ます。これを1912年に「メンフィスブルース」と改題
し発表した、というのが事実だったようです。曲も当時の状況からか、白人音楽
の匂いが抜けきれていません。
W.C. Handy - Memphis Blues

しかしこの曲は即大ヒットし、Bluesという言葉が始めて世に知れ渡るとともに、
黒人達の音楽に注目が集まるのです。2年後に彼は名曲「セントルイスブルース」
を発表するのですが、これが真のブルースソングの原点となります。
(日本では「いやん、ばっかーん」の歌として有名ですが、若い人は知らないか?)

そんなわけで、W・C・ハンディは「ブルースの父」と呼ばれているのですが、
いきさつからすると、彼はBluesを生み出した人というより見いだして世に広げた
「育ての父」というのが正確なんでしょうね。

当然、本来のBluesを生み出したのはミシシッピー下流の無数の黒人たちでしたが、
全く記録が残っていません。記録に出るのはレコードが普及して圧倒的な情報が
全米に広がる1830年以降です。
最初はマ・レイニー、ベッシ-・スミスなどの女性シンガーがヒットし、その後
ブラインド・レモン・ジェファーソン、チャ-リー・パットン、サン・ハウスなど
の男性シンガー達が続々と出て来るのです。



<追記>
ちなみに、当時のハンディにはこんな面白いエピソードもあります。
彼は自信満々で1912年に「メンフィスブルース」を1000部出版しようとした。
ところが悪質な出版者の男たちに1000部の売れ残った楽譜の山をつきつけられ、
落胆してそれを50ドルで売り渡してしまう。ところが実は楽譜は2000部刷られ、
1000部はすでに注文済みの大都市の楽譜屋に向け、列車で移動中であったとか。
大損はしましたが、結果的に彼は有名人となりBluesの父となるのです。

当時の音楽産業の基本は演奏するか楽譜を売るかでした。ちょうどその頃
レコードやラジオが発明されたのですが、一般に普及する前だったのです。

「演奏」から「楽譜販売」、「レコード・CD販売」に変わり、それから
「音楽データ配信」と音楽産業もそのシステムが移り変わっているんですね。




<追記2>
ハンディの伝記映画が作られていて、ナット・キング・コールが演じたという
ことです。エラ・フィッツ・ジェラルドも出てます。面白そう。

1958 - NAT KING COLE - St Louis Blues (Trailer)

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