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2008.04.10
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カテゴリ: Movie
<きのうから続く>


コクトーは占領下時代にメディアを牛耳っていたアラン・ロブローを中心とする対独協力派からの攻撃で消耗しきっていた。ロケに合流したとたんに肺炎で寝込んでいる。なんとか体調が戻ったときには映画の半分はすでに撮影が終了していた。

邦題は『悲恋』というこの映画は、原題を『永劫回帰』という。コクトーは、「ニーチェから借用したこの表題を通して僕が語りたいのは、1つの伝説の正確な状況は永遠に再生し得るし、その主人公たちは、まったく気づかずに愛から死への同じ道筋を辿ることがあり得るということだ」と書いている(ジャン・コクトー『占領下日記』より)。そう、永劫回帰という世界観の中では、過去も現在も未来も、終末もない。そこでは同じ瞬間が次々に生まれ、永遠にそれが繰り返される。

映画の物語自体は中世ヨーロッパの悲恋物語『トリスタンとイゾルデ』を現代に置き換え、ときには中世ヨーロッパ、ときにはこの世のどこでもない場所、ときには1943年当時そのままの空間を提示しながら、「現代と神話が入り混じった」(コクトーの弁)構成で、若い男女をもてあそぶ運命のすれ違いを描き出す。

そう書くと難しそうだが、哀しいラブロマンスとしても、ジャン・マレーとマドレーヌ・ソローニュという北欧的な美貌を備えた男女の彫刻的・絵画的美しさを堪能する映像作品としてだけでも十分に楽しめる。

登場人物は以下のとおり。
パトリス(騎士トリスタン)・・・ジャン・マレー
ナタリー(イゾルデ姫)・・・マドレーヌ・ソローニュ

マルクの亡くなった妻の妹、パトリスの叔母ゲルトルート・・・イヴォンヌ・ド・ブレ
ゲルトルートの息子で、小人のアシール・・・ピエラル
(注・アシールとはギリシア神話の英雄「アキレウス」の意味)
パトリスの親友リオネル・・・ローラン・トゥータン
リオネルの妹ナタリー(パトリスの運命の女性と同じ名)・・・ジュニー・アストル 

北フランスのある地方の領主マルクは中世さながらの城に、美貌の甥パトリス(両親は死亡)と小人症の甥アシール、それにアシールの両親の5人で暮らしていた。マルクはパトリスを深く愛しているがアシール一家のことは厄介者だと思っている。だが、アシールの母ゲルトルートは亡き妻の妹なので追い出すこともできずにいる。

物語の冒頭では、まず小人症のアシールが同い年の美貌の従兄弟パトリスに抱く激しい憎悪が示される。アシールはパトリスの留守中に彼の部屋に忍び込み、彼の写真を床に叩きつけ、私物を盗む。

そんなアシールを母ゲルトルートは常にやさしい情愛で包み込んでいる。だが、アシールの盗みは許さない。彼がパトリスの部屋からモノを持ち出したと知ると、叱責し、返すように諭す。

そこへパトリスがさっそうと馬にまたがり、愛犬のムールーク(ジャン・マレーが実際に飼っていた犬)を連れて帰ってくる。パトリスはアシールの屈折した異常な行動に辟易している。アシールはパトリスにつきまとい、しばしば部屋のドアの外に立ち、盗み聞きなどしているのだ。その日も不審な行動を取るアシールに飼い犬のムールークをけしかけ、自分の部屋から追い出す。

悲恋1
小人症のアシールとたくましくも理想的なスタイルと美貌をもつパトリス。しかも彼らは年も同じ、母親は姉妹、つまり従兄弟同士なのだ。パトリスに対するアシールの執拗な憎悪は、ある意味パトリスへの憧れと愛の裏返しとも取れる。そんな哀しいアシールの屈折を、パトリスはまったく意に介さないでいる。

マルク、ゲルトルート一家、それにパトリスはともに食卓を囲む。パトリスは飼い犬のムールークを可愛がり、完全に自分の世界。それを見て、ゲルトルートは「犬なんかと食事するのは嫌」とイヤミを飛ばす。
悲恋2
親類だけの普通の食事なのに、こんなにキチンと正装してる…… ある意味とてもシュールな日常だ。

パトリスとゲルトルート母子の心理的な対立は爆発寸前。パトリスは自分を愛し、内心ではゲルトルート一家を煙たく思っている伯父マルクに「美しい若い女性と再婚して、彼らを嫉妬させてやりましょう」と提案し、「万事僕にまかせて。ステキな女性を連れてくるから」と、領地の島へ花嫁探しに出かける。

(アラン・ロブロー殴打事件を思い出させるシーン) 、ナイフを投げつけられて気を失ってしまう。

気絶したパトリスを周囲の若者に頼んで自分の家に運んでもらうナタリー。歩きながらも美しい青年の顔から眼が離せない。すでに彼女の心は恋に落ちている。

悲恋3
パトリスの寝顔をうっとりと見つめるナタリーとその養母。 いつの世もオバちゃんはイケメンの若者にヨワイのだ。

やがて目覚めたパトリスは彼女も両親が子供のころに亡くなり、養母に面倒を見てもらっている自分と同じ立場だと知って彼女に共感を抱く。

元気になったパトリスは、ナタリーに……
悲恋4
(マレー君、キミのその顔…… あまりにデカダンで美しすぎやしないか)



寂しい北の島で、幸薄い人生を歩んできたナタリー。美貌の、そしてどうやら金持ちの青年は明らかに自分にプロポーズしている…… 夢のような展開に、ナタリーの眼から涙が溢れ出す。
ところが……
「相手は僕の伯父なんだ。立派な人だよ」
冷水を浴びせかけるパトリスの一言。
ナタリーの無言のまま部屋を出て行く。そんな女の怒りを理解できないパトリス。
100_0044.JPG
(ま、何か言うとしたら「ファックユー!」ってところですかな)

だが、ナタリーは島から出たかった。この島にいるかぎり、大嫌いな荒くれ男の付きまといからは逃れられない。そこに彼女の未来はない。

彼女はパトリスと島を出る決意をする。そんなナタリーに養母は謎の薬をわたす。それは男女が飲めばお互いに離れられなくなる伝説の媚薬だという。ナタリーはもちろん信じない。だが、そこに養母の心遣いを感じ取り、「この媚薬を心の支えにする」と感謝の気持ちとともに別れを告げる。

船の上でパトリスは、「僕はバカだった。君が怒ったわけを、あれからよく考えてみたんだ……」
悲恋の船の上
↑
女心をさらに逆なでする、いまさらの一言。しかもまったく悪気なし。それどころか彼女が自分に気があると知って、素直にまんざらでもない様子 (さすがコクトー。マレー君の実際の性格を正確に反映してる!) 。

こんな無邪気なジコチュー男にナタリーは怒るでもなく、
「もういいの」
と静かに答える。なんともオトナの女性だ。

さて、船から馬に乗り換え2人はマルクの城へ着く。
そのあまりのゴージャスさに島育ちのナタリーは驚愕。

城を見つめながら、
「あれがそうなの?」
悲恋城へ1
彫刻のような2人の美貌をカメラはやたら長映しする。
「そうだよ」
とパトリスが答える前に……
城へ3
なぜかマレーにまばたきまでさせる演出。たっぷり5秒以上は2人の顔のアップを見せている。
城へ2
すっかり怖気づいたナタリーの髪に、パトリスは軽くキスして笑い、
「しっかりつかまって」
城へ4
と城への道を進む。まさしく中世の騎士トリスタンがマルク王のためにイゾルデ姫を連れてくるイメージ。
城へ5
マルク(王)の待つ城へ。現在と中世が交じり合っているシーン。マレーのたくましい男性美にあふれた乗馬姿、ソローニュの髪と長いマントの襞が美しい。動く彫刻のよう。

<続く>





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最終更新日  2008.04.17 09:14:21


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