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高橋大輔選手が、日本男子初の五輪銅メダルを獲った。素晴らしい快挙だと思う。今でこそ世界トップレベルの選手が複数いる日本男子だが、それはつい最近になってようやく起きた、ある意味信じられない現象なのだ。
世界選手権でのメダリストが佐野稔、(25年のブランクを経て)本田武史、高橋大輔。毎年行われる世界選手権と違ってオリンピックは4年に一度。選手生命の短いフィギュアスケーターにとっては、ことにタイミングが難しい。高橋選手が金メダルでなくてガッカリしているファンもいるかもしれないが、勝負は時の運。運を逃さずに4年に一度のビックイベントでメダルを獲得するのがいかに大変なことか、それを考えれば、もう何も言うことはない。
演技も非常によかった。ここまで完成度を高めてくるとは正直、予想を超えていた。シーズン初め、スピンはレベルを取れず、ステップでもときどきレベルを落とし、変なところで躓いたり、後半になるとバテバテになってジャンプが醜くなったり。それが本番のオリンピックでは、ほとんどエレメンツの取りこぼしがなく、ステップは2つレベル4を取った。
これまで極めて出にくかったステップのレベル4がシーズン後半になって出始めたのは、どうもプルシェンコ包囲網のニオイがしないでもないのだが、レベル4を取ったのは、ライザチェック、高橋、チャン、と極めて限られている(だから、なおさらニオイを感じるのだが)わけで、取ったこと自体は賞賛に値すると思う。
高橋選手がメダルを獲得できたわけ。細かく見ればいろいろあるが、もっとも意味があった理由を順位立てて書くと・・・
1 ショートが鉄壁だったこと。ショートでミスするのがいかに一発勝負で致命的か。みんなわかっていてもなかなか3箇所のジャンプをクリーンに決めることができない。そして、ショートで4回転を入れるのがいかに危険か(逆に言えば、世界中のトップ男子が束になって、長い時間をかけて準備してもできない4+3をいとも簡単に決めてみせるプルシェンコがいかに図抜けた天才か)。
2 フリーの演技構成点が全選手トップと極めて高かったこと。スケートの技術、マイムを入れた独創的な振り、巧みな喜怒哀楽の感情表現。フリーの楽しげなサーキュラーステップ、最後の情感にあふれたストレートラインステップで表現に明確な差をつけられるところは、本当に唸る。
3 フリーで2つのトリプルアクセルが成功したこと。トリプルアクセルを2つともクリーンに成功させられた選手は少数派なのだ。4回転を(ついに!)降りても、やはり後半のトリプルアクセルで転倒した小塚選手、珍しくオーバーターンが入ってしまった織田選手。4回転を入れてないのに、後半のトリプルアクセルで転倒したチャン選手(←この人は、さっぱりジャンプが進歩しない・呆)。
高橋選手がメダル、ランビエール選手がメダルなしに終わったのは、2人のトリプルアクセルの地力の違いだ。ランビエール選手は、今シーズンどうしても3Aが成功しない。オリンピックでは、ついに3Aを捨てた。そのかわりより基礎点の高い4回転に頼った。ショートで1度、フリーでは2度。ショートでは3Aを2Aにして負担を減らし、「必ず4回転を決める」作戦できたのに、着氷がうまくいかなかった。再三指摘してきたが、こうやって順番を逆にすると、まずうまく行かないのだ。トリプルアクセル2つを決める力があってこそ、4回転が最大の効果を発揮する。3Aをはぶいて4Tに頼るとうまく行かない――この原則は、やはりランビエールをもってしても覆すことができなかった。
プルシェンコ選手が強いのは4回転の確率が驚異的なのもあるが(まったく、あの回転の速さは何なんでしょう・・・人間を超えている。多分、体にモーターしこんでるな・笑)、同様にトリプルアクセルでも失敗しないからだ。フリーでも、あれだけ軸が傾いても降りてしまう。普通の人間なら転倒してます、ハイ。
銅メダルは大変にめでたい話だが、フリーにはまだまだ課題がある。高橋選手自身が、「フリーの順位が思ったより下だった」と言っていたように、演技構成点で最高点をもらったにもかかわらず、フリーだけの順位は6位。4回転を入れずに3Aで転倒してるチャン選手にさえ負けている。
思惑があるのはもちろんだ。だが、現行のルールでは、減点されない選手が強いのだ。以前、今のルールは「 優等生が天才に勝てるルール 」と書いたが、今回そのとおりになった。ライザチェック選手は、突出したスケート技術があるわけでも、表現力が抜群な選手でもない。それどころか、昨シーズンの初めは、「ダウングレードの山」でどんどん減点され、グランプリファイナルにも行けなかった。
ライザチェックは4回転なしの「安全策」で来て勝ち、高橋選手は果敢に4回転に挑戦して負けた、と考えるのは間違っている。高橋選手とライザチェック選手の技術点の差は、4回転ジャンプの基礎点以上の差があるからだ。
高橋選手のフリーの技術点は、73.48。
ライザチェック 84.57
プルシェンコ 82.71
にはブッチ切りで負けているし、
織田選手 79.69
小塚選手 78.40
と後輩2人に比べても、完全に負けている。演技構成点で差をつけるという今季の「ジャッジの勝手でしょ」採点に、はからずも救われたカタチになったが、以前のような「技術点重視主義」の採点だったら、まずメダルはなかった。
その意味では、採点の傾向に、振付のトレンドも含めて助けられた日本では珍しい選手だ。北米からのさまざまな攻撃や包囲網に対し、プルシェンコのコーチは、「 今のジャッジは地の底に悪魔とともにいる 」という意味の神秘的な譬え話をベールにしたジャッジ批判( こちらの記事 の最後を参照)でプレッシャーをかけたが(しかも、優勝したライザチェックの衣装に、悪魔の使いであるヘビがあしらわれていた・・・という出来すぎのオチがついた)、今回は、ある意味、高橋選手はその悪魔をも篭絡したと言える。
もちろん、高橋選手の卓越したスケート技術と表現力があってこその幸運だが、主観点で点差をつけるのは、何度も言っているように賛成できない。
Mizumizuの主観でいえば、高橋選手の演技構成点はもっと他の選手と差があってもいいと思う。だが、好みで、どんどん差をつけては、競技会の公平性は保てなくなる。ファンに好みがあるように、ジャッジにも好みがある。その主観をできるだけ排そうというのが、そもそも新採点ルールの基幹だったはずだ。実際のところ今回の男子シングルだって、「なんでここまで演技構成点が伸びないの?」と、見ていて腹立たしく感じる選手がいくらでもいた。
北米・欧州・日本の有力選手の演技構成点「には」差をつけずに高めに出すことで、ジャッジはうまく熱心なファンの批判をかわした感がある(そのくせ、強豪国の2番手以降の選手は1番手ほどの演技構成点は出さない)。
さて、では高橋選手は、なぜこうも技術点が低いのか? もちろん、ジャンプで減点されたからなのだ。
4回転は回転不足のまま転倒したので、3回転の転倒扱いになり点がない。これはともかく、3フリップ+3トゥループの3トゥループがダウングレード。つまり3+2扱いになってしまった。ほかの連続ジャンプは3+3ではないので、結局高橋選手のフリーからは、3回転+3回転がない、ということになってしまった。もう1つまずかったのが、ルッツのエッジで「!」マークを取られ、減点されてしまったこと。
普通に考えれば、高橋選手はルッツを問題なく跳べる選手だと思う。だが、シーズン中にも一度、フリーでルッツに「!」と取られたことがあった。確かに、エッジが踏み切りのときに内側に入ってしまっていた。今回は後半に2つもってきた分、疲労もあり、ついつい跳びやすいインサイドエッジになってしまったのかもしれない。だが、wrong edgeは一度取られると「狙われる」のだ。そして、「高橋のルッツのエッジは中立(もしくはややインサイド)に入る」と決め付けられると、また取られてしまうかもしれない。昨シーズン、エッジ違反を取られなかった小塚選手に、フリップで「!」マークが付き始めたのがいい例だ。
「!」マークは、wrong edgeが短くてもつくが、「中立に入った」と見なされてもつけることができる。Eマークほど減点は厳しくないが、加点・減点が勝敗を分ける現行のルールで、2つもジャンプに「!」を取られるのは、痛すぎる。しかも、基礎点が高いルッツで。
もう1つ、高橋選手のセカンドにつける3回転は、垂直ジャンプに近い。飛距離が出ない分、回転不足気味のまま降りてきてしまいやすい(これは全日本のときからMizumizuには非常に気になっていた)。ショートでも解説の本田コーチが心配していたが、実際、ショートの点が出るまでかなり時間がかかったので、あのセカンドをダウングレードするかどうか、スペシャリストが検討していたのではないかと思う。ショートでは認定されたが、フリーでは降りたあとに、つまってしまったためか、今度はダウングレードを取られた。今のルールでは、ダウングレードを取られるのが一番痛いのだ。高橋選手はカナダ大会でも同じようなことがあった。
だから・・・
1 セカンドにつける3回転(2回転でも)でダウングレードされないこと。
2 ルッツでエッジ違反を取られないこと。
これが高橋選手の世界選手権に向けての「絶対解決しなければいけない優先課題」だ。他のエレメンツの取りこぼしを驚異的なスピードで修正してきた天才スケーターなので、難しくはないはずだ。
だが、4回転にいつまでもこだわっていては、この課題は案外解決が難しくなるかもしれない。4回転は体力を奪いすぎる。優先順位をごちゃごちゃにして、全方位で解決させようとすると、まず今のルールでは結果が出ない。
逆に「 魔のループ 」を前半にもってきて、確実に決めて加点を稼いだのはgood jobだったと思う。ループジャンプには、オリンピックの魔物がつきやすいのだ。過去、いくたの名スケーターがループで失敗してきている。織田選手も小塚選手もループで着氷が乱れた。ループを後にもってくるのは、実は非常に危険なのだ。
銅メダルは快挙だし、素晴らしいことだが、フリーの技術点のあまりの低さ、これを高橋選手とコーチ陣は真剣に受け止めて欲しい。しかも、過去すでにジャッジから「警告」されていた減点ポイントだ。
ライザチェック選手サイドは、理解できない演技構成点については(彼は昨シーズン、カナダに行くと露骨に下げられた)、ジャッジに質問を出すなどプレッシャーを与えつつ、執拗に取られるトリプルアクセルに対するダウングレードをついにほぼ解決した。フリップのエッジ矯正はまだ完璧ではないようだが、それでもお約束ではなくなってきている。こういう細かい減点ポイントを、まじめに努力して解決してきたこと、それが今回のライザチェック選手の優勝につながったと思う。
ジャンプに関してはもともと、ライザチェック選手のような欠点のない(はずの)高橋選手がこれほどジャンプで減点されるのはいただけない。
<続く>
ジャッジの匿名性をどう考えるべきか 2010.04.04
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