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昨シーズンまでのキム・ヨナの(プロトコル上での)圧倒的な強さにも 呆れた
驚いたが、今年のパトリック・チャンの(プロトコル上での)強さはまさにキム・ヨナ劇場の再演のようだ。
これまでの2戦で4回ずつ計8回(!)も転倒しながら、1位と2位という驚異的な成績をおさめている。こんなに転倒しながらこんなに強い選手、過去にいただろうか。新種のモンスターのようだ。
なぜそんなに強いのか? その理由が演技からはさっぱり理解できないところもキム・ヨナそっくりだ。フランケンシュタインルールの生んだフランケンシュタイン最強スケーターといったところだろう。
パトリック・チャンの強さのヒ・ミ・ツ。それはルール改正を頭に入れてプロトコルを見ればわかってくる(ただし、全然納得はできないので、そのあたりはご了承を)。
まず今年のルール改正。
平松純子氏の説明をもう1度引用しよう。
「集客を考えても試合の長時間化は避けたいので、演技時間は延ばせない。そこでSPで男子はステップ、女子はスパイラルをなくした。その代わりに演技構成点の『トラジション(技のつなぎ)』で評価する」
今回は男子の話なので、男子に絞ると、ショートでの必須エレメンツとしてのステップが2回から1回に減らされた。そのかわり、演技構成点の「つなぎ」で評価するということだ。
では、昨シーズンの総仕上げ、トリノワールドのショートで高橋選手はステップでどのくらい点を獲得したのだろう?
SlSt3 で 4.10
CiSt4 で 5.90
サーキュラーで6点近いというのはまさに世界最高の評価と言っていい。では、今年のショートのステップは?
NHK杯はSlSt3 で4.37点、アメリカ大会はSlSt4で6.61点。点差がかなり出ているのはレベル判定の違いとGOEの差。これがもう1つあれば、「世界一のステップ」を武器とする高橋選手には有利だろうが、今年は1つになってしまった。つまり高橋選手から見れば、4点から6点点数を上乗せできるエレメンツがなくなってしまったということなのだ。
それだけでもステップを武器とする高橋選手には不利だ。ここで他の選手に差がつけられない。
では、ショートの演技構成点の『トラジション(技のつなぎ)』はどうだろう? 必須要素としてのステップが減って、自由に曲を表現し、その分「つなぎ」の点を上乗せしてくれるような運用になったのだろうか?
高橋選手のショートの演技構成点と、そのうちの「つなぎ」の点を見てみよう。
昨シーズンのトリノワールド
ショート41.90点 (つなぎ8.05点)
NHK杯 演技構成点
ショート 41.21点(つなぎ 7.89点、トリノワールドとの差0.16マイナス)
アメリカ大会
ショート 42.43点(つなぎ 8.14点、トリノワールドとの差0.09プラス)
・・・・・・別に変わっていない(苦笑)。そのままスライドさせて多少前後させただけという点だ。
つまり、ショートで稼げたはずの、そしてその部分で他の選手との差を広げられたはずのエレメンツが1つ減り、つなぎの点もアップしないので、高橋選手にとってはこれは単に不利なルール改正になってしまったのだ。
「鳴り物入り(?)」で導入されたフリーのコレオステップはどうだろう?
コレオステップ導入前、高橋選手がトリノワールドのフリーで獲得したステップの点を見てみよう。
CiSt4 (基礎点3.90)GOE後の得点が5.90
SlSt4 (基礎点3.90)GOE後の得点が5.70
計11.6点
今年はどうだろう?
NHK杯フリー
CiSt2 (基礎点2.30)GOE後の得点が3.44
ChSt(コレオステップ・レベル認定なし)(基礎点2.00)GOE後の得点が 4.00
計7.44点
アメリカ大会
CiSt4 (基礎点3.90)GOE後の得点が6.33
ChSt (コレオステップ・レベル認定なし)(基礎点2.00)GOE後の得点が 4.43
計10.76
一見してわかるのは、レベル認定のあるステップでは、レベルの取りこぼしがあれば、点が伸びない。コレオステップのほうは、安定しているといえば言えるが、4点台。高橋選手の場合、レベル4を取れるポテンシャルをもった選手なので、基礎点が固定されてしまうコレオステップは逆に長所を点に結び付けられないとも言えるのだ。実際、最高評価を得たといえるトリノのフリーよりステップの点は今年は落ちている。
ちなみにチャン選手はと言えば、「ホーム」のカナダでコレオステップのGOEにジャッジ全員が3をつけ、5点という高橋選手以上の点数を出している。逆に言えば、最高の点をもらっても5点。コレオステップはレベル判定がない分、点差がつきにくいのだ。
ルールに話を戻すと、ステップで取れる点数がこうしてルール改正で抑制された分、スピンの比重が増している。
しかも、試合をやってみてわかった、ちょっとした「異変」。それを最初に口にしたのは、テレビで解説をしている八木沼純子氏だった。
「レベル3は取れると思ったスピンが、レベル1に留まったりといったことがある」
つまりレベル認定が微妙に去年より難しくなっているのでは・・・という意味だ。
これは何を意味するのか? スピンが得意な選手と不得意な選手との点差が広がるということだ。
高橋選手は欠点の少ない選手だが、あえて言えばスピンは他のエレメンツより見劣りがする。昨シーズンもレベル取りに苦労していた。
一方で、現在高橋選手と「2強」の様相を呈しているパトリック・チャン選手は? 「ゴージャスなスピン」で有名だ。当然ながら評価も高い。スピンはチャンの武器なのだ。
今季のスピンのレベル認定を比較すると
高橋選手
NHK杯(ショートとフリー合わせて)
レベル4 2つ、レベル3 3つ、レベル2 1つ
アメリカ大会(ショートとフリー合わせて)
レベル4 2つ、レベル3 1つ、レベル2 2つ、レベル1 1つ
チャン選手
カナダ大会(ショートとフリー合わせて)
レベル4 4つ、レベル3 2つ
ロシア大会(ショートとフリー合わせて)
レベル4 3つ、レベル3 2つ、レベル2 1つ
と、その差は明らかだ。
これまでの2試合で、高橋選手、チャン選手がショートとフリーで獲得したスピンおよびステップでの合計得点を見てみよう。
スピン
高橋 19.51点 18.94点 (平均 19.25点)
チャン 22.98点 21.17点 (平均22.07点)
ステップ
高橋 11.81点 17.37点 (平均14.59点)
チャン 10点(転倒1回マイナス1を含む) 12.39点 (平均11.15点)
スピンが20点近いのに対し、ステップのほうは世界トップの高橋選手が最高のパフォーマンスを発揮してやっと17.37点。ヘタをすると高橋選手でも12点弱。2回試合をして平均で15点弱。
スピンのほうは、ステップほど点が上下しないので、スピンが得意なチャン選手は安定して20点を超してくる。高橋選手はまだ20点台にのせていない。
つまり、今季のルールは、スピンのほうが点になる、スピン重視ルールなのだ。だからスピンに強い選手に有利だ。ステップはショートでエレメンツが1つなくなり、コレオステップは基礎点が2点と固定でGOEだけで競うから、点差が出にくい。だから、ステップを大きな武器とする選手は、そこで他の選手と差をつけられず、長所を発揮しにくい。
スピンとステップの配点のバランスもやや悪いように見える。チャン選手はステップも強い選手だが、その選手でスピンの総合計得点の平均が22点、ステップは平均11点と10以上も獲得点数に差があるというのはどうだろうか。
エレメンツの数として数えても、ショートとフリー合わせてスピンが6つ、ステップが3つというバランスはどうだろう。自由度を高めて曲を自由に表現させるなら、スピンはもう1つぐらい減らしてもいいように思う。
今季のルール改正は、スピンが高橋選手に比べて得意なチャン選手に「なぜか」有利になったのだ。もちろん、他の選手、たとえばスピンが得意といえば小塚選手だが、彼もグランプリシリーズ一勝と幸先のいいスタートを切っている。だが、小塚選手は演技構成点で「2強」と差をつけられているのが痛い。
チャン選手がモンスターのように強い、もう1つの理由。それは「転倒しても、認定されれば回転不足で立っているジャンプより点が出ることがある」という、いまだにまかり通っている非常識ルールのためだ。チャン選手は非常に転倒の多い選手だが、回りきる力はあるようで、それが点数上プラスに作用している。
トリプルアクセルを再度例に取ろう。
カナダ大会のフリー。トリプルアクセルで転倒したにもかかわらず、ルールにのっとった減点方式にしたがい、チャン選手は 4.5点 もらっている。
http://www.isuresults.com/results/gpcan2010/gpcan10_Men_FS_Scores.pdf
動画はこちら。
http://www.youtube.com/watch?v=DkC3B9kc0OM
(2つ目の転倒ジャンプがトリプルアクセル。空中で軸がバラけてしまい、酷い失敗ジャンプだ)
アメリカ大会の男子のショート。高橋選手はトリプルアクセルで乱れ、そのあと躓いているが、転倒はしていない。
http://www.youtube.com/watch?v=dTIQ2GuVoOQ
ところが、回転不足判定されたために、基礎点が下がり、そこからGOEでも減点なので、 4.43点 しかもらっていない。このジャンプが、お見事な転倒ジャンプより点が低いなど、ジョークとしか思えないのだが、別に不正採点でもなんでもなく、ルールにのっとって出した点なのだ。
http://www.isuresults.com/results/gpusa2010/gpusa10_Men_SP_Scores.pdf
もう1度浅田選手。
http://www.youtube.com/watch?v=JWopB5Vsf6Q
最初のトリプルアクセル。空中で軸がかたむき、完全に回転不足でおりてきてしまった。だが転倒はしていない。だが、ダウングレードされた上にGOEでも減点なので、 1.87点 。
質から言っても技の完成度から言っても、最悪の失敗である転倒をしたチャン選手の得点が一番高いのだ!
いかに回転不足判定、ダウングレード判定が非常識かわかるだろうと思う。これでも去年よりはよくなったのだ。解説者はさかんに、「回転不足でも基礎点70%与えられるようになった」と減点の緩和を強調しているが、それでもまだこんなに歪んでいる。昨シーズンの「回転不足と判定されればダウングレード」というのが、いかに「無理が通れば道理が引っ込む」ルールだったかおわかりいただけるだろうか?
<このエントリーは続きます>
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