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今だから告白するが、小塚選手の今シーズンのフリープログラムが、リストのピアノ協奏曲第一番でマリーナ・ズエワ振付だと聞いたときは、「フィギュアスケートの世界でよくある、名曲使いまわしの世界ですか?」と思ってしまったのだ。
さぞや平凡なプログラムだと思いきや(←ずいぶん失礼)、ジャパンオープンでのお披露目で驚愕。小塚選手のもつ技術の高さ、滑りの伸びやかさとスピード、清廉で高貴なイメージを存分に引き出す振付で、すっかり目を奪われてしまった。
そして、グランプリ・シリーズの中国大会を経て、今回のフランス大会。小塚選手の演技はまさに、「芸術性をもったスポーツ競技としてのフィギュアスケートの理想」に見えた。ここ数年のフィギュアスケートの世界で盛んに持ち上げられる、ショー的なパフォーマンスによる「表現力」合戦(別名「顔芸競争」と名付けたいぐらいだ)には、まったくうんざりしていたMizumizuには、小塚選手のフリープログラムこそ、スポーツでありながら高い芸術性を備えたフィギュアスケートという競技の原点であり王道をいくものに思えた。
別に顔の表情を作ることが悪いとは言わない。それも表現の一部として大事なものだ。だが、それだったら役者の演技を見ればいい。顔芸をやらせて役者に勝てるフィギュアスケーターなどいない。フィギュアスケートを見るのは、フィギュアにしかない芸術性を見たいからだ。最近の選手は、やたらジャッジ席に向かって笑顔を向けたり、カメラに向かってセクシーな視線を投げかけたりする。だが、フィギュアスケートは元来、会場に見に来た人たち全員のために演じる競技であって、どの方向から見る観客に対してもアピールするような演技をするべきなのだ。それにはあくまで「滑ること」を中心にした、身体全体を使った表現がまずは重要視されるべきで、顔の表情なんてプラスアルファのもの、優先順位から言えば低いはずだ。
最近のフィギュアスケーターはアマチュアとは言え、ショーにも出演する、実質プロだ。だが、プロとは言ってもフィギュアスケート競技はスポーツであって、ショーではない。エンターテイメント性は大事だが、媚びを売れば観客が増えると思ったら大間違いだ。
さらに勝たせる選手を露骨に事前仕分けしている今の採点が、ファンをますますウンザリさせている。日本以外のグランプリシリーズの会場は、テレビによく映る側に観客をかためて座らせているが、別の方向にカメラが切り替わると席がそうとうガラガラだ(なるたけ映さないようにしているのが、痛々しいほど)。オリンピックの直後のシーズンは、むしろ客が増えるはずなのに、この有様。どれほど日本以外で人気がなくなっているか、あからさまに見せ付けられる気がする。
いい加減、素人のファンをバカにするのはやめるべきだ。一部のスター選手がコケてもコケても勝つ姿を見て、それでファンは喜ぶとでも思っているのだろうか?
人々が見たいのは、出来レースではない。すべての選手が自分の限界に挑戦する、力を尽くした演技とフェアな勝負なのだ。それがフィギュアスケート競技からなくなっているから、ファンが減っているのだ。強い選手をルールと採点で作り出して、自作自演の宣伝で持ち上げても、素人のまっすぐな視線を納得させられる演技をしなければ、人気は落ちるばかりだ。
選手まで点の低い理由を「アウェイだからかな」などと言うようになった。元来フィギュアにはホームだとかアウェイだとかといった概念はなかったのだ。ところが今は、半ば公然と「開催される場所」で勝つ選手が予想できるようになっている。カナダではチャンが4回転倒しても異様な高得点を出して優勝し、ヨーロッパでは、「スポンサーのついている」コルピがちゃんと優勝する。グランプリシリーズのテレビ放映権をめぐってISUとゴタゴタしたアメリカの選手にはなぜか自国でも点が出てこない。特に外国人選手は、自分がどこで勝てるか、勝てないか、まるでわかっているとでも言わんばかりだ。ジュベールはショートで失敗し、順位がアモーディオの下になると、胃腸炎を理由にフリーをキャンセルした。カナダのレイノルズはフランスでのショートの自分への採点を見て、露骨に肩をすくめてみせた。
だが、偏向採点があろうとなかろうと、自分の限界に挑戦し、圧倒的なパフォーマンスをやってのける選手がごく稀に出てくる。それが今回の小塚選手だった。ここまですべてのエレメンツを完璧に仕上げて、スケートの魅力そのものを見せてくれれば、観客は立ち上がらないわけにはいかない。そして、点も出さないわけにはいかない。
これが日本人の理想とするスポーツマンの姿だろう。エッジ違反を取られれば、次から確実に踏み分けられるように練習する。ジャンプで回転不足を取られれば、余裕をもって着氷できるよう練習する。スピンでレベルを落とせば、次にはきちんと同じポジションで回れるよう練習する(試合によって判定にブレがあるなら、それをチェックして公平な判定を促すのは周囲の役割だ)。
そうなれば技術点では落としにくくなる。あとは演技構成点だ。
今回小塚選手のフリーの得点は、「驚異的」だと評されたが、Mizumizuから見れば、演技構成点がまだまだ「2強」に比べて低い。
チャン
カナダ大会
技術点 83.18 演技構成点84.14(トリプルアクセルで1回転倒)
ロシア大会
技術点 66.95 演技構成点81.30(4回転、トリプルアクセル、トリプルルッツで3回転倒)
高橋
NHK杯
技術点 74.17 演技構成点83.58(セカンドの2ループで1回転倒)
アメリカ大会
技術点 64.95 演技構成点85.00(トリプルアクセルで1回転倒)
小塚
中国大会 技術点 81.41点 演技構成点74.70点
フランス大会 技術点 89.63点 演技構成点80.80点
「金メダル仕分けの2人」が技術点で60点台に落ちても80点を超える高い演技構成点が「約束」されているのに対し、小塚選手の場合は90点近い技術点を出しながら、それより9点近く低い演技構成点しかもらえていない。
観客を総立ちにさせたフランス大会での小塚選手の演技構成点の5つのコンポーネンツが、「2強」の過去2試合にいずれも届かないというのは、個人的にはまったく納得できない。だが、そんなことを言ったところで、所詮主観なのでどうにもならないのだが。
せめてこの演技構成点による露骨なメダル候補仕分けをやめて、演技構成点での選手間の差を接近させれば、だいぶまともに見える採点になる。ところが、差をつけろと言っているのはISU幹部のほうなので、これまたどうにもならない。
採点の問題は小塚選手にはどうしようもないので、ここらあたりでやめるとして、小塚選手のフリープログラムがどれほど素晴らしく工夫され、洗練されたものであるかについて私見を述べたい。
まずはテクニカルな面での小塚陣営の「工夫」。昨シーズン、高橋選手は世界王者になり、小塚選手は世界選手権フリーで自爆してしまった。2人のジャンプでの差は何だろう? もちろん4回転への挑戦ではない。高橋選手は4回転を失敗し続けた。小塚選手はワールドでは自爆したがオリンピックでは降りている。
2人の間にあった明確なジャンプの地力の差。それはトリプルアクセルの差なのだ。2度のトリプルアクセルを高橋選手は高確率で降りることができ、小塚選手はたいてい1つは自爆する。
これについては過去Mizumizuも何度も指摘した。特に後半のトリプルアクセル。これをなんとか入れないと、4回転を決めても、また点が抑えられてしまう。
「トリプルアクセルを2つ決めるための戦略」が、今季はハッキリと見て取れる。話を2シーズン前(2008/2009)のフリー「ロミオとジュリエット」まで戻すと、このとき、小塚選手の2つ目のトリプルアクセルは要素の順番としても時間としても、かなり後ろのほうにあった。
動画は こちら 。
2つ目のトリプルアクセルは演技開始から4分後。
演技の終盤、クライマックス。音楽が劇的に盛り上がり、トリプルアクセルに向かって疾走する。決まればこれほど迫力のある感動的なジャンプはない。決めるためにジャンプの前に少し「お休み」を入れるなど、振付師(このときは佐藤有香)は工夫もしている。だが、ここがどうしてもきれいに決まらなかった。
これは体力的に小塚選手には無理な構成だったのだ。
そこで次のシーズン(オリンピックシーズン)。後半のジャンプ要素の前のほうにトリプルアクセルをもってきた。後半になるとジャンプの得点は10%増しになる。その冒頭、つまり体力が残っている間に難度の高いトリプルアクセルを跳び、得点を稼ぐ。
昨シーズンの小塚選手のエレメンツの構成はだいたい以下のようになっている。
1 4T (ジャンプ)
2 3A+3T (ジャンプ)
3 3Lz+2T (ジャンプ)
4 FCCoSp (スピン)
5 CiSt (ステップ)
6 3S+2T+2Lo (ジャンプ)ここから後半のジャンプ・・・なのだが、トリノワールドでは後半に入ったとみなされなかったようだ。オリンピックではここから後半ジャンプとみなされ10%増し。
7 CSSp (スピン)
8 3A (ジャンプ) 演技開始後 約3分
9 3F (ジャンプ)
10 3Lo (ジャンプ)
11 3Lz (ジャンプ)
12 SlSt (ステップ)
13 CcoSp (スピン)
動画は こちら 。
そして、今年のフリー。
フランス大会でのエレメンツの構成は
1. 4T (ジャンプ)
2 3A(ジャンプ)
3 3Lz+2T(ジャンプ)
4 CCoSp (スピン)
5 SeSt (ステップ)
6 3A+2T+2Lo(ジャンプ)ここから後半のジャンプ 演技開始後 約2分20秒後
7 3F (ジャンプ)
8 3Lz+3T(ジャンプ)
9 3Lo(ジャンプ)
10 3S (ジャンプ)
11 FSSp (スピン)
12 ChSt (ステップ)
13 CcoSp (スピン)
動画は こちら 。
昨シーズンと比べると、要素全体としては8番目にあったトリプルアクセルを6番目にもってきて、時間で言えば、演技開始後3分あたりで跳んでいたトリプルアクセルを、2分20秒過ぎあたりまで前にもってきた。トータルの演技時間のギリギリ半分過ぎだと言っていい。
時間にして約40秒の差だ。
エレメンツとしては、去年は5つ目のジャンプがトリプルアクセルで、その前にスピンが2つあった。今年はジャンプとしては4つ目で、その前にスピンが1つ。ここでもトリプルアクセルにいたるまでの負担を軽くしているのがわかる。
さらに去年はトリプルアクセルにトリプルトゥループをつけようとしていたが、今回はダブルトゥループ+ダブルループ。これでもトリプルアクセルからの負担は軽くなる。
<続く>
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