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2010.09.24
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<6年半ぶり過去最大の為替介入>

民主党代表選が行われた翌日、市場が「菅首相ならば為替介入はない」と高をくくっていた虚を突いて、6年半ぶりとなる円売り・ドル買い介入、それも一日の介入額としては2兆円規模と過去最大の為替介入が行われました。この原稿が配信される頃には景色も随分と変わっている(介入効果がなくなってしまっている可能性をも含めて)のだろうなと思いますが、少なくとも介入は市場にサプライズを与えるのには成功し、82円台に突入して15年振りの高値を示現し始めていた円ドル相場は一気を85円台に押し下げました。

そして一晩掛けて地球を一回り、夜中も休まず断続的に為替介入が行われたこともあり85円台後半にまで円安が進んで東京へ戻ってきました。たださすがに時間が経てば経つほど虚を突かれて飛び上がっていた為替市場も落ち着きを取り戻し、市場関係者の間から「単独介入では効果は限定的だ」といったものを中心に、今回の為替介入による円高対策が短命に終わるだろうという発言が聞かれ始めました。あたかも「突然だったので、ちょっと驚いただけだよ」と平静を取り戻したかのようなのですが、その背景にあるのは円高トレンド継続論です。

<なんで円高?>


そもそもなんで今円高なのでしょうか? その理由としてはよくこんな話を聞きます。「ドルやユーロに対して消去法的に円が買われている。」と。すなわち「ドルやユーロは信頼ならないから、買うものがないから円を買っている」ということなのですが、私はどうしてもこの消去法的に円が買われるというロジックが納得できていません。日米の金利差を見て直近のドル円レートが決まっているというのは事実としてそうなっているので認めますが、ドルやユーロに比べて「安心」な通貨として円が買われているというロジックには疑問を感じています。とりわけドルに対して消去法でという考えが不思議でなりません。

為替は通貨と通貨の交換レートですから、その通貨を買いたいと思う人が多ければ値が上がるし、売りたいと思う人が多ければ値が下がります。では何をもとにそれが決まるのかということで議論百出になるのですが、単純に経常収支が黒字の国の通貨は高くなるという需給論(後述)だけで言えば確かに円高になります。ただ購買力平価論や通貨としての本質的な価値・強さという面で捉えた時、どうしても居心地が悪いロジックに聞こえて仕方ありません。

<経常収支が黒字だとなぜ通貨が強い?>


経常収支とは「貿易収支」「サービス収支」「所得収支」「経常移転収支」の4つからなり、これが黒字と言うことは平たく言って輸出が輸入よりも多くて儲かっているという意味になります。例えば50ドルで原材料を仕入れて、製品化してそれを100ドルで売ったとすれば、これは50ドルの貿易収支の黒字です。そしてこの50ドルこそが日本が生みだした付加価値ということになるのですが、この50ドルを円に両替して日本に届けるためには「50ドルを売って対価として円を買う」という取引が必要になります。もし経常収支の黒字が巨額であれば、ドルを売って円を買う取引が巨額になるので、自動的に円高が進むというのが需給から見た円高ロジックです。物の値段は基本的には全て需給で決まるという立場に立てば反論の余地はありません。

<経常赤字の国“米国”と黒字の国“日本”>


前述の通りだとすると、米国は久しく経常赤字を続けており、逆に輸出立国“日本”は経常黒字を続けていますので、為替のオーソリティや経済学者の方々からは「ドル安・円高が当然の流れだ」という理屈が聞こえてきます。この辺の議論でアカデミックな専門用語を羅列されてしまうと、どうにも反論をし難いのも事実ですが、それでもなお私はそれをすんなりとは納得できないでいます。

<米国が風邪をひいたら、日本は肺炎になる>


それは米国の経常赤字のお陰で、日本が経常黒字を保っていることはリーマン・ショック後に米国経済が停滞したことによって日本が経済的に受けたダメージを見れば一目瞭然だからです。つまり日本経済は単独で成り立っていける訳ではなく、極めて米国経済に依存した形のものという意味です。例えばトヨタ自動車を例に取ってみましょう。同社の東証1部の時価総額に占める割合はおおよそ3.5%~5%程度ありました。つまり日本に数多存在する企業の中で、たった1社で3.5%~5%相当、傘下・グループ或いは取引関係を含めると相当な割合を占めているトップ企業と言うことになります。

しかし米国でサブプライム・ローン問題が発覚する直前までは8,000円台もつけていたその株価が、その後の米国経済減速と共に急降下、今では3,000円を維持するのもやっという感じになってしまいました。日産自動車や本田技研工業の株価に比べて下落率が大きく見えるのも、一番米国でのビジネス・ウェイトが高かったからということができ、いかに日本のトップ企業が米国経済に依存した状態であったかということは明らかです。つまり米国の経常赤字と日本の経常黒字は表裏一体だということです。

<円は安心できる通貨なのだろうか?>


日本の公的債務残高の対GDP比の値は世界で突出して高いというのはご承知の通りです。つまり円という通貨の発行体は借金まみれということなのですが、それでも“大丈夫”と言われる理由は国の借金を国民の個人金融資産がファイナンスをしているからと説明されます。ここに感じる違和感の理由は、国民が金融資産を円にしたままでいなければならない理由はどこにもないからです。

財産全てを外貨もしくは外貨預金にしてしまい、必要な分だけでその都度円に両替して使うようにするのは自由です。ひとたび円は駄目かも知れないというブームが起きて、どっと外貨預金に資金が流れるようなことが始まれば、上のストーリーは直ぐに成り立たなくなります。日本人ほど「みんなで渡れば怖くない」的な発想の民族性は少ないと思うからです。



上記の表は財務省のホームページからの引用ですが、米国の公的債務残高は日本の半分もありません。通貨ユーロを支えるドイツやフランスも同様ですし、イタリアでさえ127%に過ぎないという現実があります。この数字を改善するには、日本のプライマリーバランスがプラスになって借金を徐々に減らす、或いはGDPを増やさないとなりません。にもかかわらず、2010年度は過去最大の国債発行を行いました。

そしてGDPとは国内総生産ですが、これを増やすためには労働人口を増やすか、国内生産を増やすしかありませんが、今の日本ではそれは全く逆方向に向かっています。このまま分子の借金が増え、分母のGDPが小さくなれば更に世界で突出した数字になって行きます。どうしてギリシャやアイルランドを心配する余裕が日本にありましょうか? それでも円は大丈夫と言えるのでしょうか?

<円は消去法的に買われていただけのはず>


論点を拡大し過ぎる前に戦線を縮小しますが、円が買われていた理由は前述の通りで積極的な需給というよりは消去法的にとよく説明されます。それは政府日銀が恐らく無策で円高に打たれるままであり、一方で輸出倍増計画を掲げる米国や、ギリシャ問題などを抱える欧州はこぞって自国通貨安を容認しているからです。アジア諸国の通貨当局も自国通貨安政策をとっていますが、無策の日本は手を打たない、すなわち単独介入など無謀だというロジックに縛られて動けないだろうと思われていたからです。

しかし今回、市場に大きなサプライズを与える形で日本の通貨マフィア(財務省)が動きました。民主党の代表選挙の翌日という極めて想定外のタイミングで介入をしてきました。これで消去法的に円が買われていた理由は薄れたのではないでしょうか? 市場はおおよそ人々のコンセンサスができあがったのと反対方向に動くものです。単独介入は利かない、長続きしないという論調が聞こえれば聞こえるほど、今回の円高騒動はもう終わったように思ってしまうのは私の基本が楽観論者だからだけではありません。

ひとつには今まで市場と関わってきたおおよそ20数年間、明確に金融当局が示した意図に対して逆らった見方をして当たった試しがないということです。確かにジョージ・ソロスはイギリスの中央銀行と為替で戦って勝ったという歴史があるかも知れません。ただ80年代後半のバブルを潰しにかかった日銀にも、ITバブルを「根拠なき熱狂」と論じたグリーンスパン氏が率いたFRBにも、市場は毎回結果として負けています。私の座右の銘のひとつは「泣く子と地頭には逆らうな」というのがあります。今回、明確に円高はいかん!という意思がやっと示されました。基本の流れは変わったと思って良いだろうと考えています。

==========================================================楽天投信投資顧問株式会社

(楽天マネーニュース[株・投資]第83号 2010年9月10日発行より) ==========================================================






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最終更新日  2010.10.08 13:56:55


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