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November 27, 2005
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カテゴリ: 美術
何と言っても、日本を代表する、いや、世界に影響を与えた偉大な画家です。


名乗れないですよ。「画狂人」。よっぽど絵を好きでなければ。

しかも、北斎、75歳の時に、 「富嶽百景」 の中で、こんな発言をしています。
「6歳の時から絵を描いているが、70歳になる前の作品は取るに足らないものばかりだ。
73歳でようやく動植物が分かるようになった。百歳になれば正に神妙になるだろう。
そして百何十歳かになれば、生けるが如き絵が描けるようになるだろう。」

孔子は「40にして惑わず」と言われましたが…。


ああ。もう、すごい。



今回は、若い修行時代から最晩年の作品まで、順番に雅号で時代を区切りながら、この「画狂人」の作品を追うという展示になっています。
とは言え、30回以上も雅号を変えたそうですから…研究者の方々はさぞかし大変でしょう。
ま、研究者の方々に甘えて、順番通りに参りましょうか。

【1.春朗期】
長い長い画業の初めは、勝川派の絵師としてデビュー。
勝川春朗として、いわゆる「浮世絵」を描いています。
役者絵・美人画・仏画・相撲絵・吉祥絵。

「風流東都方角」 のシリーズは、扇面あるいはハート型の枠の中にシンプルな線で瀟洒に描かれる江戸の風景。
頑張り過ぎず、うるさ過ぎない描線は、後の大傑作「北斎漫画」を予感させてくれます。



俵屋?それって琳派始祖宗達の号を引くってことですか?
瓜実美人に、遠近法を取り入れた浮絵風の芝居絵。狂歌の挿絵。
うーん?イメージの中の「琳派」とは少々違いますけど、歌や詞書と組んで仕事をしているあたりがらしいのかしら?

さて、「浮絵」というのは、遠近法による細密な絵で、これを暗箱にセットして、覗き穴から見せると、「サぁ、寄ってらっしやい、見てらっしやい。世にも不思議な立体画。お代はたったの…」という香具師の登場となるわけですが、北斎がすごいのはこの先。
なんと、西洋画「風」を取り入れて、木版画でエッチングの味を出してみたり、油彩風の絵を描いてみたり。


「よつや十二そう」 などに至っては、題名まで「西洋文字風」の、しかし平仮名表記という小技まで使って、作品世界を創り出しています。

そしてそして、ここでドンと来たのは"龍"。
あのねぇ。いや、あのね、 「玉巵弾琴図」 の琴を抱く龍。 美女図と対比されるに十分なその存在感。
三幅対 「日月龍図」 で、朱一色で存在感を主張する日と、薄墨に浮かび上がる三日月の真ん中で、その咆哮を轟かす龍。
かっこいい。いや、もう、ひたすらかっこ良いです。


【3.北斎期】
さぁ、いよいよ、葛飾派の始祖、北斎の誕生です。
この時期、北斎は読本の挿絵師として、活躍します。

解説は囁きます。北斎の絵が読本の流行を生んだのだ、と。

ははは。なんだか、今のライトノベルみたいな解釈ですね。
でも、ライトノベルだって、作品に力があるから絵も引き立つし、絵に力があるから文章が引き立つわけです。

北斎が組んだのは曲亭馬琴。代表作 「椿説弓張月」

この時代の作品もすごいのばかりですが、あえて選ぶなら、私はこれ 。「仮名手本忠臣蔵 五段目」
なんと言っても、この躍動感。芝居の舞台の枠を飛び出て、背景として描かれる、奥行きある風景。

その画面のド真ん中で、刀を抜いて切りかかるのは、悪役斧定九郎か。
ならば体勢を崩しながらもその兇刃を、傘で受けるは、お軽の父、与市兵衛。

奥には猪が見えます。
斧はこの後、与市兵衛を斬殺し、懐の大金を奪うのですが、その直後、猪を狙った勘平(お軽の恋人)の流れ弾に当たって死んでしまいます。
この猪はその伏線。さらに、この画面の奥では、なにやら2人の男が…。

奥行き、画面構成、風景描写、人物描写、躍動感、物語性。
この完成度の高さ。

一方で、 「鳥羽絵集会」 「略画早指南」 に見られる、なんとも「漫画」な線の軽妙さ。
そして、既存のネタを一ひねりしてみせるセンスの良さとサービス精神。



いや、正直、ここら辺でもう十分満足なのですが、展覧会はここでようやく半分。
老いてなお、いや、老いてますます盛んになり華開く、北斎の実力。

【4.戴斗期】
何と言っても、 「北斎漫画」
15編まで刊行され、その全ての挿絵数はなんと三千超。
溜息以外の何をついて良いのだか。

この時期の絵画は…と言っていると長くなるので、もったいないですが割愛。

【5.為一期】
いよいよ、いよいよ、あの代表作の登場です。 「富嶽三十六景」
しかし、これらの作品については、今年は既に 『全揃い富嶽三十六景展』@浮世絵太田記念美術館 で観たので、そちらに譲りましょう。

この頃になると、初期作品に比べて、画面構成が格段にすっきりとし、余白の使い方が抜群になっています。
「諸国瀧廻り」 「諸国名橋奇覧」 もすごいのですけど、今回は花鳥画を見ましょう。
名の通り、花と鳥、なのですが、その生き生きとした色彩、質感、ぼかしに文字の配置。

近くで見ていた女の子が、3つおきくらいに、「私これが代表作だと思う!」「これが代表作だよ!」って叫んでいたのが微笑ましくて良かったです。
そう、他人がどう言おうが、あなたが「良いなぁ」と思ったものこそが代表作。
だからね、あなたが指差して、代表作と認定した作品は、確かに彼の代表作なんです。

そして、私にとっての今回の代表作は 「游亀」
奇しくも、先程の女の子と意見一致です。

水中、あるいは水槽の斜め下から3匹の亀を見上げるような構図。
2匹はこちらに甲羅を向けているのですが、もう一匹はおなかを向けています。
そしてアクセントの水草。しかし、この作品を特徴付けているのは、光、あるいは揺らぎ、です。
斜めに画面を横切る4本の曲線。その前後で変わる色調。歪む亀。青の見事なグラデーション。

名品、です。

その他、怖くもどこか滑稽な 「百物語」 、取り合わせが面白い 「和漢画兄弟」 、ユーモアたっぷりの 「元禄歌仙貝合」「馬尽」
ちょっと押しのある感じの質感は、本物でしか味わえません。


【6.画狂老人卍期】
本当に北斎はどこまで行くのか、老いてなお、その筆勢は勢いを増し、描線は力強さを加え、かつ優美になり、円山派もかくやのリアリズムを現出したかと思えば、美人画も描き、武者も描く。

しかし、私も年を取ったもので、百人一首を覚えていないことに愕然。
「百人一首乳母が絵解」 というシリーズが展示されており、絵解きというよりは、舞台を現代(江戸)に移したパロディになっているのですが…。
うーん。書かれている歌が読めそうで読めない。覚えていた頃ならなぁ…。

最後の年の正月に描かれたのが 「富士越龍図」
真ん中にそびえる、富士。手前の風景の丁寧な描写。
そして富士の背後から黒雲と共に天に昇らんとする龍。

画狂老人は、1849年、浅草でその生涯を閉じました。
そう、それはほんの150年ほど前のこと。

西洋画の手法を学び、漢画の知識を見につけ、浮世絵師として名を馳せた彼の作品は、海を渡り、いつしか海の向こうの絵画に影響を与えるに至りました。
日本を、いや、世界を代表する画家の1人、葛飾北斎。

本当に、絵を描くことが好きで好きで堪らなかった、そのことがひしと伝わってくる素晴らしい展覧会でした♪



えっと、ちょっとだけ、不満というより、怒りを。
今回の展覧会では、北斎の肉筆画が里帰り出品される予定でしたが、それが出来なかったそうです。

コレクションを集めたフリーアさんの遺言で「門外不出」となっているらしく、美術館側も日本への出品の努力をしたのに、ダメだったとか。
なんじゃそりゃ?まぁ、向こうは契約社会ですけど。それにしても、意味が分かりません。
で、「同じ敷地内なら持ち出し可能なので」ワシントンで「切り口を変えた」北斎展をやるそうです。

うーん?納得できないのですが…。

美術は世界を繋げ、拡げるものです。
確かに、例えば、そこでしか見れない、そんなものもあって良い。
美術品としてガラスケースに入れられた円空仏と、信仰の対象として仏壇に祀られている円空仏は、ものは同じでも、違うものなのです。
秘仏を美術品として公開しろ、なんて野暮も言いません。

でもね、これは、絵画。
しかも、日本の画家が描いたことが明らかな作品。
「遺言で、お貸しすることも出来ないとなっています」って、ちょっと違うのではないかい?

この実業家とやらは何者? 死んでなお、何様のつもり?

つまりは、売る相手を間違えたってことか…。
て言うか、誰だよ、売ったやつ。

なんだか、せっかくの感動に水をさされる、不愉快なエピソードでした。



はい。えっと、気を取り直して。
今回は、国立博物館パスポートを使用して入場しました。

このパスポート(1年間有効)はすごいですよ~。
なんと!3000円で企画展に6回行ける!(同一展複数回は不可)
そして、九州・京都・奈良・東京の国立博物館の常設展は何度でも入場可!
しかも、学生さんは2000円!

ね?素敵過ぎでしょ?




北斎展
東京国立博物館 (上野)

[会期]2005.10/25(土)~12/04(日)

作者:葛飾北斎 [KATSUSHIKA Hokusai] (1760-1849)


★★★★★






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Last updated  November 29, 2005 12:36:56 AM
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RonaldBus@ Transforming your landscape with gorgeous blue stone slabs. Understanding the Benefits of Choosing …
mrtk@jp @ Re[1]:本と共に~「ぼくらはそれでも肉を食う」(06/19) >そらねこさん コメントありがとうござ…
そらねこ@ Re:本と共に~「ぼくらはそれでも肉を食う」(06/19) はじめまして。本の題名につられてお邪魔…
浅葱斑@ 心のハレっていいですよね? こんにちは。 誕生日の暦から今の自分、未…
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