2010.05.14
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カテゴリ: エッセイ


その子とは付き合って2年くらいは経っていたので、お互い気心はよく知れていた。

ある時、お腹が空いたので、ちょうどその時にいた駅ビルのラーメン屋に入ろうと誘った。

彼女は何も食べたくないからと入ることを嫌がったが、

私は空腹でたまらなかったので、しつこく説得した。

そんなに言うならば自分はジュースだけでいいからと、

どうにか承諾してくれて、やっと入ることにした。

私達はラーメン屋によく見られる店内中央の大きな円卓に並んで腰かけた。

そこで、私はラーメンと半餃子を、彼女はジュースを頼んだ。

ちなみに普通の餃子は6個なのだが、半餃子はその半分ということで3個である。

料理が運ばれてきた。

空腹の私は箸を割って、早速食べようとした。

すると、実際に料理が目の前に置かれて、急に食欲が湧いたのであろう、

彼女が半餃子を食べていいかと訊いてきたのである。

本当は涎が出るほど食べたかったのだが、

女の子にそう言われて、駄目だと答える男はいない。

というわけで、何も食べたくないと言っていたではないかと内心思いながらも、

いいよと答えた。

彼女はペロリと餃子3個を平らげた。

その後で、私に向かって「もう一つ頼んでいい?」と言った。

私が注文した餃子を自分が食べてしまったのを悪く思って、

私のために頼んでくれるつもりらしい。

何と気の利いたいい子なのであろう。

私は心の内では感動しながら、素っ気なく「いいよ」と答えた。

暫くして、新しく半餃子が来た。

彼女の心配りとおいしそうな餃子とにうれしく思いながら、

食べようかと思ったところ、その皿に箸が伸びてきたので吃驚した。

彼女は何のためらいもなく、新しく来た餃子3個を次々に口の中に運んで行くではないか。

行き場を失った私の箸は宙にとどまり、私はただただ消えていく餃子を見守るばかりであった。



その後、私達はどうなったか……。















結局、結婚した。

夫婦の間では、何年経っても必ず話題に上がる恨み事というのがあるが、これがその一つである。

さすがに最近は言うことはなくなったが、

その後や結婚した当初はこの件でよく恨み事を言ったものである。

妻は「だって、仕方がないじゃない。餃子を見たらお腹が空いちゃったんだから」と開き直る。

まあ、いいですよ。許してあげますよ。たかだか餃子のことだし。

でも、やはり時々話題に上げて、チクチク言いたくなってしまう。

食べ物の恨みはこわいとは本当のことである。

暫く忘れていたが、何故か急に思い出したので、書いてみた。






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最終更新日  2010.05.15 09:36:49
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