旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

アンドレ．カイヤットの≪眼には眼を≫

アラブの目で見た復讐の実体は．。

これから紹介する映画に登場するアラブ人の復讐心理、とうてい
理解できないほどすさまじいものである。

今、中東では民族同志が、その上大国アメリカまでが
血で血を洗う抗争を続けている。．
しかもそれは全身全霊をかけた憎しみと憎しみのせめぎあいである．
その驚くべき、執拗な民族性こそが、この作品を理解する
唯一の鍵であろう。

アラブの小さな砂漠の町で、小さな病院に勤めるフランス人医師、
ヴアルテル（クルト．ユルゲンス）はある夜、
自宅にいるとき、原地人のボルタクに妻の診療を頼まれたが、
設備不足で手当ても出来ないし、連日の激務で、
疲れていることもあって、
大きな病院へ行くようにと断った．
しかし、翌日、病院へ行く途中、車が故障し妻が死亡してしまう。

仕方のないことだったが、それから、ヴアルテルは
いつも、ボルタクに尾行されたり、
深夜、電話がかかって来たり、あまりの気味の悪さに
ボルタクにあって弁明しようとするが、そうすると
彼はさっさと逃げてしまうのだった。

ある日、アラブ人の村で、ボルタクに会ったヴアルテルは
妻の死について釈明した。

ヴアルテルはダマスカスへ行く用事が出来て、ボルタクに
案内してもらうことになった。

出発して間もなくして、近道をし、谷を越えるときに、
食糧と飲料をあっという間に谷に落とされてしまったヴアリテル．

砂漠では絶対に欠くことの出来ないものだ。
乾きはすぐに二人を襲った。

そうして　初めてヴアルテルは罠にはまったことに気づいた。
のどが乾いてたまらぬ今、井戸へ案内してくれと頼むしかない。

だが、その井戸は空井戸だった。ヴアルテルはあまりの渇きに
殺してくれと叫ぶが、彼は
”俺も妻に死なれた時はそう思った．その気持ちを一度
お前にも味あわせてやりたかった。”とそういって眠ってしまった。
ヴアルテルは眠っている際に、彼の手首を切って、すぐに町の
薬屋に案内しなければ、お前は壊疽になるぞ！と脅した。

さすがのボルタクも泣き叫んで案内に立ったが余りの痛さに、
もう１歩も歩けなかった。

ボルタクはヴアルテルに”この道を行けばダマスカスだ”と
反対の方角を教え、
疑わずに、一人足を引きずって、どんどん歩くヴアルテル。

行けども行けども果てしない砂漠．．．．

その後姿に、
ボルタクは砂にまみれて笑った。狂ったように笑った。

彼に出来るそれが唯一残された復讐方法だったからだ。

身に覚えのないと言えばそうだが、
相手の事情など考えられない状況にふと　いた　その時に
自分の知らない所で何かが起こる。

そのことで脅迫されても”理不尽”としかいいようがない。
サスペンス映画ひとつの手法だ。
納得しきれないところで焦燥感はつのる。

医師（クルト．ユルゲンス）とアラブ人（フオルコ．ルリ）の
たったふたりのやり取りで、そんな理不尽な脅迫劇を
極限まで追いつめた心理サスペンスの傑作です。

監督アンドレ．カイヤットは≪裁きは終わりぬ≫
などの法廷ものサスペンスでもすばらしいものを残した
人です。

カイヤットの作り手の魂が沸点に達して表現された作品である。
ユルゲンスが足を引きずっていく先の、あの広大な砂漠、
荒地、荒地。
気の遠くなるような．．

アラブの目で見た復讐の実体は、宗教ではなく政治のようである。
理屈ではない、イスラエルに荷担する白人への民族的恨みの
図式を４５年前にこのような形で世に送ったカイヤット．

教訓と呼ぶにはあまりに恐ろしい！

制作　　仏　　１９５７年度
監督　　アンドレ．カイヤット
出演　　クルト．ユルゲンス／フォルコ．ルリ

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