旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

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≪私刑警察≫


 ドロン53歳の時の作品、≪私刑警察≫を紹介します。

正義の名のもとに警察内部にはびこるもう一つの警察。
正義警察と名乗り、法で裁かずに処刑を繰り返す一団。

ハリウッド作品の≪ダーテイー.ハリー2≫や、
≪L.A.コンフイデンシャル≫を思い浮かべる方も
おられるだろうが、同じテーマを取り上げた本作品がそれらと
違うムードを漂わせたのは何か....。

正義警察が最初は法をくぐり抜けて、のさばっている悪に
向けられていた矛先が、共産主義者や自由主義者など、そして
そのテロリスト達へと向かっていく....それは
どこか★ナチズム★の恐怖警察を彷彿とさせ、
ナチに占領された悪夢やその傷あとを覗わせるからであろう。
そこがなかなかの作品の出来となっているのであろう。


過去の、≪Z≫や≪黒い警察≫といった社会派ドラマにも通じる
骨格の太い優れた社会派ドラマに仕上がっている。

アラン.ドロンという大スターが演じてしまうと、
娯楽作品の評価しか得られないのは、
彼の華やかさ、あざといまでの美男子ぶりが
どうしても浮き立つという観方をされてしまう結果であって、
作品的、演技的にも決して劣らない一級作品なのである。

ジャン.ルイ.トランテイニアンや、
ジャン.ポール.ベルモンドが
スターでもあり、演技派としての評価を受けても
ドロンは持って生まれた華やかさと美男子ぶりが邪魔をして、
適格な評価を受けられない損な部分があります。

でも、フアンにとっては、そういうことには関係なく、
ドロンをまた、
作品を
心底楽しめる....。それでいいではありませんか!

この作品では53歳。

そして★亡きジャン.ギャバンに捧ぐ★とあります。

フイルム.ノアールの復権に賭けている事もありますが、

先に話したアンヌ.パリローという女優や、
今夜の作品に登場する若き刑事役の
パトリック.カタリフオといった
当時若かった俳優達に
向けるドロンの温かな目を感じます。

ドロン若かりし頃の作品、
≪地下室のメロデイー≫や、≪シシリアン≫、
≪暗黒街のふたり≫などで、
偉大なる大スターギャバンに
引き立ててもらった彼は
今度は若い俳優達に今は先輩としての、
かつてのギャバンのような役割を
果たそうとしているのかもしれない。

映画作りというものに約40年間携わってきたドロンが
いかに映画を愛しているか、愛してきたか、
そして、ただのスターだけに終わらない
自分を映画産業の一商品として最大限に売り尽くし、
燃焼した...

客観的に自分を見て、これだけの作品を残したということは、
過去にも先にもこういう俳優はいないし、出てこないでしょう・

芸術作品や、大作は他の俳優達にお任せして、
自分を最大限に生かし、観客、フアンを満足させたドロン様に
改めて敬意を表したいです。

さて、ドロン礼賛が長くなりました。
本題に入りましょう。

出演
警視長グランデル....アラン.ドロン
部下ペレ    ....パトリック.カタリフオ
警部スキャッテイ....ミシェル.セロー(MR.レデイでお馴染み)

ストーリーを

パリ警察の警視長グランデル(ドロン)は
このところ頻繁に起こる事件の担当に任ぜられ、
部下にペレ(パトリック)とルッツを
部長から託された。
グランデルはルッツは右翼思想なのでと断るが
部長はもう決めたことと強引に押し付けた。

ルッツの推薦者はスキャッテイ警部だった。

暗黒街のギャング達が一晩で何人も惨殺されるという事件が続く。

正義警察と名乗るスキャテイ警部率いる軍団の処刑であった。

無表情に処刑を繰り返すスキャテイ...ミシェル.セローの
演技は見るものを凍りつかせる。

事件の目撃者を尋問しようとするグランデルであったが、
彼らは次々と殺されていった。

憲兵隊のメンバーがスキャテイに組織を合体して
広げようと持ちかけてきたがスキャテイは
余計なことと言い、自分達のことを知った彼らを
焼き殺した。

この事件とギャング殺害事件の関連を疑いグランデルは
元ギャングの一人の老人から情報を得るが、その直後に
正義警察のメンバーであるルッツとスペリオのふたりの
刑事によってこの老人は殺される。

どの殺しも殺りかたは残忍で、ナチズムを彷彿とさせる
目を覆いたくなるようなやり口であった。

内部情報がすぐに漏れることに気が付いたグランデルは
ペレにルッツには情報を伝えるなと命じる。
グランデルはペレとふたり、署でルッツを追い詰めるが
窓から飛び降り自殺してしまう。

内部から死者が出たことで、警察内はふたつに分裂してしまいそうな
動きが見られ始める。

ひとりの警官がグランデルに相談を持ちかけてきた。
正義警察に誘われたというのだ。断ったので護ってほしいという。
部長室に行けと命令した直後、
正義警察のメンバーのひとりが自殺しそうなので、みんなは
その部屋の前で騒いでいる。

フランス国旗の上に座りナイフを自分の首に向けている。
”フランス万歳!”と叫ぶや、自刃した。
悪い予感がしたグランデルは部長室へすっ飛んだ。

どこにもいない...”証人の警官は?”
警察内は処刑場と化すのか....

ロッカーロームに逆さ吊りにされた警官が...
口には手榴弾を加えさせられて。
グランデルはすぐさまナイフを取り出して縄を切る.
”誰か抱えて”と叫ぶもの。。。

つねにこういう配慮が行き届いた優しい警視なのだ。

ルッツの相棒だったスペリオがペレに近づいてきた。
国外へ逃亡したいので逃してくれ、俺も正義警察だが怖くなった。
交換条件に正義警察の幹部に会わせると。

そのころ、グランデルは部下二人と車の中だったが、怪しいトラックに
道をふさがれ発砲され、足に弾を浴びた。
工場の廃墟に逃げ込みなんとか一命は取り留めた。

ペレは招かれた邸へ。。。
そこにいた幹部の面々。
スキャテイが一歩前へ出た。

”死ぬ覚悟で来たか。
知るのが遅すぎたようだな。今ごろはグランデルも...”
とペレに銃口を向けた。
ペレはテロリストの被害者でそのために彼らに誘われたのだったが、
ペレは根っからの正義感だったために拒否した。

ペレの死体に対面したグランデルの無言の怒りは、
そのまま壮絶なクライマックスへとなだれ込んでいく。

すでに、部長(黒幕)の秘書はグランデルに寝返っていった。
部長室の通信網は管内に流れる仕組み。

建物の外は警官が包囲。
その上で、部長以下、スキャテイ等に向かった。

”ペレをを殺したのは誰だ?”と何度もグランデルは
聞いた。
通信機のスイッチを入れ、”聞こえているか?”という問いに
”聞こえています”...
彼らは観念して銃を床に置いたが、グランデルはブラインドを下ろした。
そして、ペレを殺ったのは?・・
スキャテイの頭に銃を当て、撃ちこんだ。

扉は開いて、警官たちが乗り込んだ・・・・
グランデルは手錠を床に落とした。
もう懲り懲りなのだろう。

恋人のいるアパートで

    ”ぐっすり眠らせてくれ”・・・・・

ペレを演じるパトリック.カタリフオ....
憂いを秘めた横顔(あくまでも横顔)が
どこか
若い頃のドロンを思わせる。

終始、この部下をいたわり、慈しむドロン.グランデル警視。
若き頃の自分を慈しんでいるようにも思え、ほほえましい。

そして、このハード.ボイルド作品、映像がきれいで
特に壮絶な暴力シーンにも格調高さがある。

ドロンの迫力とスマートさとダンデイさは相変わらずで、
この頃からお顔もふっくらと肉がつき始め
穏やかな顔つきになり、さらに魅力を増している。
貫禄さえ出始めた彼だが、相変わらず、
役の上での私生活は妻無し、子供無し、不動産無し、
気ままな身上という設定である。

これも私生活のアラン様の本来の願望かもしれない。。。


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