Laub🍃

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2011.04.09
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カテゴリ: .1次題
トンネルのような黄色い光が霧の中見えてきた。

何日も遭難していた男はふらふらと近寄った。

「おおい、助けてくれえ」

あれを男は知っていた。霧の中をも照らし出すためのフォグランプだ。

「おおい、誰か乗ってないのか」

男は更に近付いた。車の形が見えてきた。ごく普通の、灰色の乗用車だ。

「……おおい…」

乗っている者がまともな人間であることを祈って、男は座席を凝視する。

「んだあ、置いてかれたのかお前」



鍵のかかっていない車に乗り込んだ男に、赤ん坊は手を伸ばしてきた。

男の手にすっぽり収まってしまう両手に、男はしばし癒された。

「……ん?あれ?」

気が付けば車は発進していた。ハンドルがひとりでに操作され、木々を避けていく。

「おいおいおいおい」

男が不安になり抱き締めた赤ん坊はきゃっきゃと笑っていた。

次第にその姿が小さくなり、ついには胎児の形になり、消えてしまった。
抱きつくものもなく男は勝手に動き続けるハンドルに縋りつくしかなかった。

「どういうことだ」

男は左手で自分の口をはっと押えた。

「……あ、あー」



男は恐る恐るルームミラーを見た。

若返っている男がそこに居た。

「降ろしてくれ、助けてくれ」

叫ぶ男の声は届かず、次第に事態を認識する能力も失せた、ただの喚き声になっていく。

そうしてただの赤ん坊に男が変化した時、彼の耳に「おおい、助けてくれ」という声が聞こえた。



次第にそちらへ車は方向転換し、そして赤ん坊は久しぶりの温もりにきゃっきゃと笑うことになる。





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最終更新日  2018.02.24 13:23:45
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