Laub🍃

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2011.04.10
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カテゴリ: .1次題
霧沢嘉月という人間を、白枝悟朗は軽蔑していた。

何につけても軽薄でお調子者で、短期の努力で全てどうにかなると思っている。

しかし霧沢は実際にどうにかなってきたのだ。

全てを積み上げて、慎重に列からはみ出さないように動く悟朗に比べ霧沢は後ろから追って来たり前へ走り出たり、あるいは競争や人に合わせることなどどうでもいいとでもいうようにどこか遠い所で紙飛行機を飛ばしていたり。

そんな霧沢を列に戻すのは誰の役目だと思っているといつも悟朗が解くのに、霧沢はうざったそうな顔で「悟朗って人生つまんなそうだよな」と言う。

悟朗にとって霧沢はけして相容れぬ相手だった。



そんな二人が同じ相手に恋をした。
水藻香枝。

悟朗は諦めた。どうせ今回も霧沢がいつもの手口で連れて行ってしまうのだろうと。


霧沢は二人を応援していた。


悟朗ははじめて霧沢に気を許した。







それから何年も、少しずつ悟朗は香枝との絆を育んでいった。








しかし、子供を持ち、家を持ち、さあこれからだというところで、香枝は霧沢と駆け落ちをした。



「……あいつは」
「…おとうさん?」
「あいつは待ってたんだ」

「ねえ、おとうさん」
「あいつは待ってたんだ…俺が、積み重ねるのを……!!!」



悟朗は香枝との間の子を見た。



この子もきっと、育った頃に霧沢がやってきて、あっという間に連れて行ってしまうんだ。


そうなる前に。








悟朗と子供は、小銭を稼ぎながら逃げ回った。

だが、いつの間にか、霧沢と、香枝が近くにやって来ている。




悟朗は疲れた顔で、それでも微笑んだ。







やがて悟朗は過労死した。
しかし、子供は立派に成人した。



「……お父さんの積み上げた人生」

「あなたがとって行くんですか」



悟朗の墓前で悟朗の子供は呟く。

背後には、霧沢の影があった。



「……あなたと、お母さんが一緒に事故に巻き込まれて……お父さんはいつも変なことを言うようになりました」

「……まるでシューベルトの『魔王』みたいにお父さんは必死に僕を守ってくれた」

「だけど貴方が本当に取りたかったのは……」


その影はしー、とでも言うようにゆらりと揺れて、そして掻き消えた。


悟朗の子は後ろに唾を吐き捨てて、悟朗の好きだった花を墓前に供え踵を返した。

どうしようもない破壊衝動に襲われながら。





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最終更新日  2018.02.26 21:07:35
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