Laub🍃

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2011.06.26
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カテゴリ: .1次メモ


「もうじき、それもなくなるさ」

 私は……誰なんだろう。

「…な…ぁ…」

 言えない。情報漏洩を防ぐために、記憶を処理されてしまったからか。
 その名前だけは、憶えているのに。

 私の、持ち主。
 暖かくて柔らかい。
 私はその子の面倒を見る為に……


「……あなたは……?」

 かすむ視界の中、私と同じように廃棄されているものを探す。

「……どうせ、すぐに忘れるのに…馬鹿なやつ……」
「…私の手を握ってる人の…名前くらい知っておきたい」
「……感覚あんなら早く言えよ……」
「離さなくていいです…どうせこのまま……」
「お前は…ロボットだろ。ならそのうち…来るかもしれない。休眠状態に…するシステムが残っていれば……幸い今は軍事下だから……捨て駒にくらいなら…」
「あなたは…捨て駒だったんですか……」
「……うるせえな……だから…死体のふりして……ここにまで来れたんだよ……ああ…もうじき夜が来る…暗闇……暗闇は…怖い……おい、あんた、握り返せねえのか」
「…ふふ、無理言わないでください。」
「あんでだよ……」

「……ま、いいか………おい、あんた…」

 急激に、視界が暗くなった。
 最後に見えていたのは、炎のような、夕焼けのような赤。

「……俺の嫁さんに、似てんなあ…」

 きっと、彼の髪。



 ああ、私はまた、手を繋いだ相手を一人にしてしまった。



 次に私が目を覚ました時、目の前には真っ赤な髪があった。

「…え……?」

 時間が経っていないのかと思った。私は一瞬眠っただけかと。

「…あんたが、父ちゃんと一緒に居たっていうロボット?」
「……は?」
「おい、このロボット大丈夫かよオッサン」
「…処理はした筈だが」

 目の前の男は、近くに居た眼鏡の男性と話をしている。

「……あの人の…息子ですか」
「!おー、話せんじゃん!!さっさと言えよー!!!いや、あんがとなー!あんたが居たおかげで、父ちゃんの体は潰されずに済んだんだってな」
「え、あ、あの人は?」

 もしかして、あの人はあの後自力で帰れたんだろうか。

「…死んでるよ。もう十年も前に」
「……!」
「…でも、墓は作ってやれた。成り上がった甲斐があったってもんだ。俺はともかく、母ちゃんの為にはなったからな」
「母ちゃん…」

 私に、似ているという。

「で、だ。あんた、人の世話するロボットなんだろ?」
「……は、はい!」
「父ちゃんの代わりに俺の世話してくんねー?」
「…えっ……」
「おい、いいのか、駄目なのかはっきりしろよ」
「あ、は、はい、よろしくお願いします」

 訳の分からないうちに、十数年ぶりに、私は人の為にお茶を入れたのだった。



*****



元軍人で感情・常識に欠陥のあるロボットと出会う話を書こうと思ったんだけど
感情・常識がアホな人間と出会う話になってしまった。


元軍人欠陥有ロボットの方は門番としてその内書きたい。





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最終更新日  2016.10.04 23:52:10 コメントを書く


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