Laub🍃

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2011.10.24
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カテゴリ: .1次メモ
 言いたい事、一緒にしたかったことというのは、出来なくなってからはじめてはっきりと表れて来るものだ。

 先生。
 終わりなんて私は考えたくなかったけれど、貴方はしっかり考えておられました。

「私は居なくなります。けれどあなたもいつかここから居なくなる。居なくなる時の為に、貴方にその時どうすべきかを、伝えておきたいの」
「先生が死んでしまったら、私は全てがどうでもよくなってしまいます」

 そう言い募る私に、窘めるように一言。
「それもまた生かせるのですから、生かしてつくりあげたものによってあなた自身が生かされるのですから、そんなことを言わないで下さい」
「貴方が居なくなることを生かしたくなんてありません」
「違います。私が居なくなることでなく、私が居なくなった時の、貴方の哀しみを生かしてほしいのです」


「では、その時が来た時後悔せぬように、私が死んでも生かす事など一つもなきように、貴方は過ごせますか」
「……っ」
「すみません、意地悪を言いましたね。けれど、同じことです。
 あなたが、今まで失った人への後悔を私に対して生かしているように、私を喪った時、あなたは次に失うかもしれない人に対して、何かしてほしいのです、私は。私以上は居ないとあなたは言うでしょうが、それでも、私が居なくなった後、大事にしたいと思う存在が出来る筈です。その人も、あなたも、死なないなんて言うことはありません。
 ……だからこそ、あなたがこの想いを、私の存在を継いで下さい。そうしたら、いつの日か、私の想いを他の所で継いだ人が、貴方の中に私を見てくれると思うのです。それがいくつも重なる未来を、私は望みます」

 全てをただの物だと、魂など存在しないと思う事で全てを誤魔化して来た私を救ってくれたのは先生だった。

 けれど、

「私の中にあなたが生きているなんて、それはただの詭弁です。思い込みです。私はあなたが行ってしまうことが、もう私があなたを幸せにできないことが、耐えられないのです」
「その想いを、今聞けて良かったです」

 先生はそう仰せられて、地の中で鈴を鳴らす手筈を整え終えた。終えて、しまった。


「……どうして、先生が犠牲にならねばならなかったのですか」



 間に合わない。間に合わなかった。何日も何日も先生の所に通ったのに、最期の日、この日に限って。

「どうして私はいつも、こんな時もこうなのですか」

 先生はそういった美徳を継いでくださらなかった。私はどうしてこうなのか。私が継げるものなど無きに等しいのだから、私が生きていたって仕方あるまい。死を司る神が居るならば、私の寿命を代わりに。

 言っても仕方がないのに。


「本当に先生は成仏されたんだか」


 遺された私の元に、何人もの衆生が訪れるようになった。
 先生はこうではなかったのに、とばかり言い残して。
「……分かりました。では」

 先に行って、彼女がどうしているか、見てきてくれよ。


 ……そう、言いたいのを。行動を起こしてしまいたいのを、必死に抑えつける。
 彼女はそれでは喜ばない。

 あの世。本当に、あって欲しい。
 生まれ変わりだっていい、死んでも無にならないという確証が欲しい。

 大事な存在を大事にしきれなかったこと、大事な相手に、誰かの妄想でなく、その主体として有であってほしいことを、望まないと、全てに無感動になるほかなく。でなければ。

「先生のことで、覚えていることをお聞かせください」

 こうして、先生の気持ちを出来る限り理解し得る為の、努力をするしかないのだ。





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最終更新日  2015.10.22 17:54:58
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