Laub🍃

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2011.11.08
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俺達は代々双子で生まれる。
 片方は悪魔、片方は天使。
 母さんは天使だったらしい。双子の悪魔は、今では馬鹿な末路をたどっているんだとか。
 俺は叔母に同情をする。
 だって、俺は悪魔だから。

「うあー」

 母さんは俺を悪魔と言う。
 何故なら、もう一人が天使だからだ。

「うああ」



 だから俺は少しでも殴らないでもらえるように、出来る限り何にも怒らないようにした。

 外の世界じゃ、怒らない奴は怒られにくい。

 だけど家の中じゃ結局そんな奴は不平不満のゴミ捨て場になるだけだ。
 特に俺は、悪魔だから。
 自分を可哀想と思えば笑われる。
 でも俺を可哀想と思う俺自身しか、俺を守ってくれる人は居なかった。

「うあー」

 やばいってことは分かる。
 それでも、家の外に飛び出す。
 悪魔にだって翼はあるのだ。


 いくら外が寒くて、凍えそうでも。
 ・・ああ、でもやっぱり、外は寒い。

 このままじゃ、いつものままだ。
 与えられない温かさに甘えて、指をくわえて温かい窓の中を見詰めている。

 できることは夢を見ることだけ。


 いや、マッチ売りの少女を羨ましく思える。
 金を持っていったら受け取ってもらえるのだ。

 俺のプレゼントはそっけなく払いのけられる。
 とんと、俺の誕生日も気にしてもらえたことはない。今更期待などしないけれど、外の窓の中を見るとみんな幸せそうで、それが当たり前のような顔をしていて。
 当たり前を受け取ることが困難なのに、当たり前のことを当たり前に出来る筈がないのに。
 悪魔として育てられたのか、もとから悪魔だったのか。俺には分からない。
 けれどもとから悪魔だったと考えればまだ、お母さんを責めないで済む。不毛な妬みを抱かないで済む。期待なんて、もしもなんて思わずに済む。

「お前の分も用意してるけど」
 もう一度外に出ようとする俺の背中に笑い声が届く。
 ああまた俺の黒い醜い姿をあざ笑っている。

 投げ銭。ピエロへの報酬よりも更に乱暴なそれ。
 どうせ残飯。あいつの残り。
 あいつの引き立て役として生かされているだけ。
 これくらいならいらない・・こんな人生なんて要らない。

 バイトをしようとすると「お前は悪魔だから出来る筈がない」

 できるといいのになと思うことは何回あっただろうか。

 ーでも自分にはそんな甲斐性ねえと言われ続けて呪いのように絡みついたそれは消えそうにない。

 悪魔の役割。
 しなないと消えないそれ。

 あああ、でも、やっぱり、寒い中に行きたい。

 お母さんが捨てたもの全てのところに。

 あいつの白い翼とそっくりな雪の中に行くのは癪だけれど、それでも。

「待ちなさい」

 またない。

「待ちなさい、 のぞみ !」

 ちがうよ、俺の名前は、学校でからかわれた通り、人に襲い掛かることしかできないもうじゅうだよ。

「お母さん、じゃあね」

 寒い。
 だけど、空はこんなに広かっただろうか。

 風が、俺の伸ばしっぱなしの髪の毛を巻き上げる。
 べたべたしてところどころざんばらに切られはげもあるそれは、ちりりと痛んだような気がしたけど、あっという間に寒さで気にならなくなった。

「ああ、もー、いいや・・・・・・」

 どうせ、捨てられたものばかりが詰まったこの身体。粗大ごみにでもしてもらえればいいや。
 歩いて歩いて、そうしたら少しは、俺が吐き出した吐息で世界は温かくなるだろうか。

 歩き続けなければ。

 さくさくと音がする、ああそろそろ気が遠くなるかな、と思っても意外と時間はかかるな。



 馬鹿なことを思った、その時。


「・・・・・・ねえ、どうしたの?」

 ぎしぎしと鳴る頭。寒さゆえに動かせない。目線だけやる。

 声をかけてきた奴が、そこに居た。

 俺よりはるかに小さな子供。

「え・・・お前こそ・・・どうしたんだ」
「僕?僕は・・・・・・」

 そいつは、俺よりも酷いことになっていた。ただ凍えて汚い俺とは違って、最低限の生さえ満たされていないような、むしろ、どうしてこれで死ねないのかとさえ思うような。

 憧れていた死とは遥かに遠い惨めなそれ。

「僕は、ばけもの、だから」

 そうしてにへらと笑った。

 そいつは、笑った。
 憎しみの声でも哀しみでもなく、笑ったんだ。

 そうすることで生きてきたという証。

 たまらなくなって、抱き締める。
 汚れるよと今にも消えそうな声で言うそいつの弱い腕ごと抱きしめる。

 俺と似た目に遭う……俺の、やっとできた、弟。
 俺は、悪魔だ。

 だから俺は俺しか愛せない。俺の為だけに、死ぬつもりだった。

 だけど、俺と似たそいつなら愛せる。
 俺と似たそいつを生かす為ならーーーーー生きられる。

「……寒く、ないのか」
「ありがとう、大丈夫、ごめんなさい」
「寒いだろ」

 俺は悪魔だから、文句は口に出せる。
 でもこいつは、ひょっとしたら出せないのかもしれない。

 そんな世界、捨ててしまえ。
「俺と一緒に来い」
「え…でも」
「ああ…」

 そいつが見やったのは、足元の小さな缶から。
 中には小銭が数銭入っていた。
 そいつは、日々殴られることで、捌け口になることで、あるいはその姿でもって同情を引くことで、生きる術を稼いでいるようだった。

 哀れだった。

 だけど、それしか知らないそいつは、とても可哀想で美しかった。

 助けてやる。
 そんなこと、しなくて済むように、強くなろう。

 そうして俺は、今度こそ優しくなるんだ。
 悪魔のやさしさ。
 お母さんーいや、あの女は鼻で笑うかもしれない。
 でも、それでもいい。

 あんなやつら、もう、どうでもいい。

 だって目の前のこいつこそが俺の、生きる、意味だ。

to be continued... ?





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最終更新日  2017.04.18 23:24:19
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