Laub🍃

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2012.06.25
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黒くて緑でぬるぬるしていて、初めて住処から姿を現したそのいきものは気持ちが悪かった。


数日前までの、救出と庇護を受けなければ生きていけなかった王子ならばそれでも受け容れたろう。

だが、今の王子にとってそれはただ単に生理的嫌悪を齎す者でしかなかった。


王子はそれを忘れたことにした。数日間熱で魘されていたのだから仕方ない、とそれは納得したようだった。

王子は隣国の姫と結婚式を挙げた。国民の誰からも祝福される結婚だった。





隣国の姫の小間使いとして、緑に近い黒髪を持った少女がついてきた。

珍しい人種の子どもで、人攫いに捕まって船で運ばれる所を、隣国の船が助けたのだと言う。



しかしその丸くきらめく目がどうにも思い出すことを阻ませる。






隣国の姫との間には、なかなか子供が出来なかった。

悩む、今や王と呼ばれるようになった彼のもとに再び黒と緑のそれが姿を現した。

それは、王に語り掛ける。

生まれた子の足をくれるなら、子をもうけさせてあげましょうと。

王は一も二もなく頷いた。





生まれた子の足は魚のような形をしていた。

外国の医術に被れた舶来の医者はそれを、腹の中で育ち切らないせいと言ったが王にはあの黒と緑のせいだということがはっきりわかっていた。

それから、王は我が子の成長を日々喜びながらも恨めしくも思うようになっていった。


特に髪と声は、この世のものではないようだった。
脚の問題さえなければ今頃完璧な子になっている筈だった。





ある日、本当に突然、子は脚を取り戻した。
代わりに髪と声が、見るもみすぼらしい老婆のようになっていた。



あの時助けた命を戻すか、子の姿を戻すか。

王は指一本動かすことが出来なかった。

王には選べなかった。

そんな王を見やり、黒と緑は嗤った。

王様も泡になれれば悩まずに済んだのに、と言った。






黒と緑は、人魚姫を助けた魔女のなれの果てだった。

人魚姫が泡になってから、魔女もそれなりに後悔していた。

だから少しは無償で助けてやろうとしていたのだ。

日々少しずつみすぼらしくなっていく魔女は、見返りを求めず、己の持てるものを他者に与えていった。


たまに見返りを与えてくれる者も居たが、大半はただ貰ったままになっていた。

魔女は後悔をしながらも、仕方がないとも思っていた。

魔女は黒と緑の塊となり、最後に救った者が恩返しをしてくれたら、その力を使って消え去ろうとしていた。

ところがそうはならなかった。

逆恨みにも近い形で、魔女は、取引を再開することにした。



魔女は未だに生きている。





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最終更新日  2018.02.22 09:37:29 コメントを書く
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