Laub🍃

Laub🍃

2012.08.08
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カテゴリ: .1次メモ



いらいら、 いらいら、いらいら、いらいらと。

 嫌な気持ちだけが募っていく。

 きっとそれはあいつも同じだ。

 なのになぜかあいつは妙にちょっかいを出して来る。うざったいことこの上ない。

「なんでそんなに絡んで来るんだ?俺の事好きなのか?」

 言ってみようか。絶対にそんな筈はないから、ただ単に奴への挑発だが。
 ……だが面倒臭い、どうなるか想像もつかないし下手すると次の日から俺が周囲の他の人から妙な目で見られるに決まっている。そんな気持ちが勝って、今日も俺は無言で、あるいはお前が好きにしろと言ってそこから離れる。

 ときに漁船、ときに人を乗せ簡易な客船となる船に俺達は乗っていた。


 ……だと、いうのに。何故か船を下りて街を散策する時でさえ、偶然同じ方向に歩き出してしまったり偶然街中で鉢合わせしてしまったりと、癒しがいつのまにか数割ほど天引きされてしまっていた。

 おそらくにやけヅラをしてはいるが奴もおそらく、苦々しい思いをした点においては同じだろう。



 だから、俺は。

「……ユクエと言うたか」
「はい」
「お主、ポーナの都に行ってみるとよい」
「えっ」


 少し前なら渋っていたかもしれない占星術師の言葉に、素直に従うことにした。







「そっち頼んだわ」

 俺は逃げたのかもしれない。

「はい」



「あら、うまいじゃない!」

 俺と同じようにここに来ている彼らは、どういった経緯で来ているのだろうか。

「ありがとうございます」

 周囲を見渡すことが、目の前のものを作る以外の行為が、怠慢にならないところ。

「作業そこまでにしよー、お昼お昼!」



 そこで俺は、あの老いた物静かな占星術師に、改めて何度目かの感謝をした。



 商業の都、あるいは芸術の都、または女の都―――ポーナ。


 賑やかなここでは、他の参入に対し非常に敷居が低い。

 あらゆる場所で使えない野郎として認識されていた俺でも、染色やら商店の準備片付けやら飾り付けやら……そういった、幼い頃から好きだったことを思い起こさせてくれるそれは、非常に楽しんでかつ邪魔にならずに行うことができるものだった。

 そして何より、ここにはあいつが、ヒノエが来ないのだ。

「ユクエさんも一つどうぞー!」
「ありがとう」


 ぬるま湯に浸っているような感覚はある。
 幼い頃から、母の手伝いでやっていたから手馴れたものだ。老いた父の望みを叶えるべくやっていたこれまでの仕事よりもずっとずっと、身近なものだ。

 それに、彼女たちは皆優しい。そこに集まる男たちもやはり優しい。
 どこかのヒノエやその取り巻きとは違う。

 唯一の苛立ちと言えば、たまに買い出しなのか通りすがりなのか鉢合わせするあいつらに、出会いがしらに喧嘩を売られることぐらいだが、それももうすぐに忘れれば済む話だ。


 寒い所から南国にやってきた人の感覚が分かった気がする。

「俺、ちょっと気になる所あるから」
「えー、休んでていいのに」


 こういった、細かい事を気にしてしまう俺の態度は倦厭されるものかもしれないが、それをもある程度融通を効かせてくれるこの街。出来ればずっと居座っていたい。


「そういえば、もうそろそろ祭りがあるんだけど」
「準備してる?奥さん」
「そうねえ、もうはじめないと」
「大陸中からお客さんが来るのだし」



……大陸中に苦手な人たちが居る俺には、背中に嫌な汗を流させる……これを除けば。




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pawna...pawn





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最終更新日  2015.07.19 01:26:49
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