Laub🍃

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2012.09.21
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カテゴリ: .1次メモ


 地道に生きるほど利口になれず。

 だから中途半端に生きてきた。

 それでも優しい人たちが傍にいた、自分は恵まれているとまだ見捨てられていないと思っていた。

 気付けば一人去り二人去り、あなただけはと思っていた人さえ去ってしまう。

 ああこれは悪夢だ、醒めない悪夢だ。

 あたしは確かに愛したかった。誰かを愛したかった。
 だから甘えさせてくれる人を愛した。

 けれどそこにはもう誰も居ない。あたしは誰も愛せない。





「……何やってんだ、コガレェ……っ!」

 森の中転がるのは眠っている人たちの群れ。見覚えがあるその光景の中に立っているのは、更に見覚えのある、だけどもっとも目にしたくなかった相手。
「コグレちゃん!大体終わったよ、協力してくれるって」
「勇者のことはあたしがやるって言ったじゃん!!」
「あ、心配しないで?あなたの名前を名乗っておいたから」

 そうじゃない。そうじゃないのに。
 なんでこいつはこう「優しい」んだ畜生。

「あたしがやりたかったのに!あたし、こいつらに嫌がらせしかできてない、勧誘の話知ってたらもっと違う接触してたのに!!」
「ああ、勇者さんと結構話すようになってたみたいね?大丈夫よ、勇者様には悪夢見せてないから。戦士だけよ」
「戦士なんてあたし気にして無かったよ!もしこれから先会うことあったらどうすんの!?」
「……ああ、大丈夫よ。それは」

「ううん」

 コガレは優しく微笑んだ。いつも通りの、本当にいつも通りの優しい笑顔で。

『コガレは本当に優しいな』

 いつかの記憶が蘇る。

『ぴぃぴぃ騒いで、どうすればいいか分からないままじゃ可哀そうでしょう』


 その子を直接殺したのは確か院長の友達だった、だけどその引き金を引いたのは。

『ねえ待って、その子どうするの』
『あなたには関係ないでしょう』
『や、や……っ』

 裏庭から帰ってきたその人の手の中には、何も残っていなかった。
 その状況を見てとても優しげに微笑んだコガレに怖気が走った。
 それは、優しさなのか。優しさなのか。少なくともあたしは認められない。

 だから。

「あなたと私が癒合すれば問題ないでしょう」
「……っ!!!」

 それだって認められないんだ。

「……ねえ、この年になったら癒合するという話だったでしょう?もともと私たちの一族はどちらかだけ生き残るのが摂理なのだから。でないと二人とも死んでしまうわ。大丈夫よ、怖くないわ。癒合した後でも自我はある程度残るから」
「……嫌。嫌。あんたはそれでいいかもしれない。どうせ、出来る子なんだから、先生たちに気に入られているんだから、主人格になれるだろ?でもあたしは違う!それに、成功よりもあたしは、個性が欲しいんだ!……来るなっ!!」
「また、わけのわからないことを…」

 なんで。なんでわかってくれないんだ。

 あんただってあたしのこと嫌いだろ?一緒になるくらいなら死んでしまいたいって言えよ、言ってくれよ。

「ほら、おいで」
「ひ……っ」

 抗う間もなく近付かれ、指で触れられる。
 触れられた先から溶かされていく浸食されていく名前が書きかえられる自分でない誰かとなる―――

「一緒に『悪夢使い』とでも呼ばれましょう」

 もう、苦悶の声さえ洩らせない。

 ああ、せめて。

 唯一私を認めてくれた彼に、名前を――こいつと揃いなんかでない名前を――呼んでほしかった。


***
***



イメージは犬●叉の奈落と金銀禍。
勝てない相手には従うか尻尾巻いて逃げ出すか、死んでも抗い続けるかしかない。










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最終更新日  2016.07.03 23:14:28 コメントを書く


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