Laub🍃

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2017.04.13
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カテゴリ: ◎2次裏漫
記憶と夢は、どこで線を引けばいい?





*Mement*




高すぎる記憶力は、精神との闘いだと思う。


これをあの子に言ったら、いつものように判断してくれるかな。
心配する必要がないか、それとも頑張らなくちゃいけないのか。

「自分で気付け」
「自分で起きろ」

いつもあの子が起こしてくれたのに、最近はそれもない。
前はあの子が起こしてくれてはじめて現実に戻ってこられた。忘れられない記憶だらけでもやもやした頭の中を、さっぱりと整理してもらえた。


あの子が僕を引っ張っていく時、あの子と話をしている時、あの子を心配している時、僕は確かに生きていた。
あの子だけは信じられた。あの子が現実なら、陰になる僕もまた、現実だ。
だからいつもついていった。あの子に頑張れと言われたことはあの子が居ない時も頑張ることができたし、あの子が居ない時の自分にも自信が少しだけだけど持てるようになったんだ。

「どうして同じクラスに」
「う…だって」

それも、あの子にはついていけると思ったからだ。

「一緒がよかったし」

あの子と一緒なら隣でなくても後ろに居れば、僕は生きていると思うことができた。

あの子だけは嘘を吐かない。あの子はとても正直でまっすぐで綺麗だから。
だからあの子が居れば僕は安心することができた。

親兄弟なんていない世界で僕らは生まれ育った。



『子』。
僕の名前は、こうも書くことができるらしい。
親兄弟のように立ち位置が決まっていたら、もっと安心できたのかもしれない。

だけど今、僕に安心できるものはない。

目を覚ますことができないから、ろくに眠ることもできない。



記憶力が下手にいいだけに、メモを取る必要がない。
それは、よく他の人に便利だといわれる。
だけど、それを後になって確認しない限りそれが現実だとは限らないってことを皆は知らない。

信じていいかどうかが僕には分からない。
あの子がいつもそれを決めてくれていたから分からない。
決めることはとても怖いことだ。
信じているものが本当かどうか分からないと、なにかを決めることはできない。

船酔いの時ずっと揺れていた床とあの子の怯えて泣きそうな顔を覚えている。

トラウマを覚えている。
嫌なことを覚えている。

でも、ここまではいい。

それを昇華するくらいの、活かしきるくらいの要領もない。

ここまでも、よかった。

問題は、夢と現実の区別だ。
誰にもこれはきっと分からない。
そして流されるようにあの子に引っ張られて生きてきた僕にも分からない。

自分がうまく動けなかったことは夢なのかな。
あの子が、あいつとどこか遠いところに行くと僕に言いに来たのは夢なのかな。
あの子が人を射殺すような眼をするようになったのは夢なのかな。
僕とあの子の距離が遠いのは夢なのかな。

そもそも僕が生きている今は夢なのかわからないよ。

「道具箱にしまわずに」
「右ポケットに入れたよ」

あの子に言って、二人で確認して、判断してやってきたときはよかった。

だけど今はそれが分からないんだ。

「じゃあな」
「お前とは未来に行きたい」
「起こせよ」
「頼りにしてるんだから」
「頼りにしたことなんてあるの?」
「どうかな」

いっそ夢ならいいと思う。
だけど、夢じゃない。
夢じゃないんだ。

だけどその痛みが同時にこれは現実なんだと、覚えていて次に生かさなくちゃいけないことなんだと教えてくれる。

僕にとっての現実はいつもあの子だった。
よく現実に挑んでは怪我をするあの子は、僕の朝の光だ。

「休め」
「お前も風邪だろ」

夢だったら、ここまであたたかな記憶にしがみつかなくて済んだのかな。
夢だったら、ここまで我慢しなくてすんだのかな。

水の中も煙の中も全部僕を夢の世界に連れていく。
昔はそれが気持ちよかったけど、今はもうダメだ。

煙にせき込みながら、思う。
どうしてうまくいかないのかな。
夢の中だったらうまくいっていたのかな。

目を覚ましたらあの子が居る筈なのに、僕の名前を呼んでいる筈なのに、それがないということはここは夢なのかな。

痛みが。

指先のじくじくとする痛みじゃなくて、頬のどくどくと鳴るような痛みじゃなくて。

目を覚ます痛みが、目を刺すような綺麗な光がほしい。


そう思ったとき、近くでがさりと鳴る音がした。

******





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最終更新日  2017.04.21 19:29:39
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