nipparatの日記 囲碁 不思議体験 

nipparatの日記 囲碁 不思議体験 

Oct 29, 2007
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テーマ: 囲碁全般(752)
カテゴリ: 囲碁
 初めての中国旅行から帰宅。百聞は一見に如かず。感激、感心、驚嘆、発見、温故知新、交流、友情に溢れた旅だった。ただ、単なる観光旅行ではこれだけの経験は不可能であったはずで、囲碁があってこそであった。

 何と言っても中国囲碁愛好家との対局が一番の山場。
 旅の3日目は浙江省杭州市の杭州棋院で全員が2局の公式対局を行う最大の行事が用意されていた。

 早朝、ホテルからバスで対局場の杭州棋院に向かう。バスの中で、「中国ルールでは駄目もおろそかにできない」とか「相手の序盤の手を見て弱いと錯覚するとひどい目に合う」とか、周囲の人に注意を与えていたのだが、まさか自分がその罠に嵌るとは思いもしなかった。

 杭州棋院の建物は凄まじい建設ラッシュが続く杭州郊外に最近できたばかりであるが、到着した瞬間に目がクラクラしてしまった。3棟の巨大なビルディングからなり、中央の一棟はホテル併設の超高層ビルである。建物体積だけで比べると、日本棋院の数十倍以上だろう。

 入り口では、省の体育局の長や杭州棋院院長のイさんなどが迎えてくれた。緊張しながら会場に入る。高い天井の広い会場に中国式家具で格調高い机と椅子がゆったりと配置されていた。役員達の挨拶に続いて、いよいよ約40人同士の日中対局の始まりである。

 机の上には蓋つきの中国茶碗においしいロンジン茶が入れられていて、給仕さんがすぐにお湯を継ぎ足してくれる。おいしい。実はあれほど警戒していながらも、前日に25年物の甕だし紹興酒の魅力に完敗してしまったために(詳細後述)お茶がひどくおいしかった。

 一局目の相手は、小学校の先生で中国6段の黄さん。リラックスしようと話しかけるが、集中しているようであまり乗ってこない。すごい気合を感じる。しかも、そのたたずまいから只者ではないのは一目瞭然だ。「この人は、メチャクチャ強い!」こういうのは、わかるものだ。


 しかし、白は割り打ちからサラサラとかわして来て戦機をつかめない。こういう甘し戦法は中国の人は苦手かと思っていたが、とんでもない。なんでも来いの打ち手のようだ。

 「こんな鬼のような打ち手を用意しているとは、えげつない」などと考えているうちに中盤で盤面勝負の様相になってしまった。
 泣きたい気分だったが、ここから相手がちょっとぬるま湯に入ったようだ。無理もない。気合を入れて待っていたらこんなヘボが相手じゃ、気も抜けるだろう。

 不思議なミスや緩手があって、いつの間にかヨセの入り口では逆転してしまった。3~4目残りそうな形勢になったが、ここで例によって時間がなくなって損を重ね半目勝負。
 このままでは負けと見た相手が、半劫をつがずに駄目をつめながら頑張ってきた。こちらは、劫材の代りに駄目をつめていけば良いのだが、頭が混乱してしまった。つい癖で相手に手番を譲ってしまったりで、残り半劫ひとつから2目損してしまったようだ。1.5目負けとなった。

 黄さんは確かにとんでもなく強い人だった。今まで最高で浙江省ベスト4だというが、レベルの高い中国でしかも人口4500万人の省だから、日本ならアマトップクラスに匹敵するはずだ。このクラスの打ち手は、人口800万の杭州だけで20人くらいいるらしい。

 次の相手は、中国5段の博さん。地元の新聞記者。一局目に隣で打っていたのを見ていて、黄さんとは対照的に愚直な碁だったので楽な相手かなと思った。
 予想通り、モロにハマリの2線の置きなどの筋が決まる。日本でこのレベルの打ち手では、あまり綺麗な筋に入ることがないので、逆に面食らってしまった。

 しかし、中盤一気に決められる機会を見送って自重したのが痛かった。中盤からあちこちで頑張られてだんだん勝負になってしまう。おかしい、突然強くなった感じだ。さらに慌ててしまい、ヨセでミス連発で3.5目負けとなった。

 あまりのショックに、昼食は咽を通らずスープを数口飲んだだけだった。美味しい食事に皆会話が弾んでいたが一人上の空であった。
 しかし、中国まで来てこのままでは終われない。気を取り直して午後の親善対局では、午前に打った二人に再挑戦することにした。

 まずは、どうしてもリベンジしたい博さんを指名。この碁は、淡々とした布石になったが、明らかに博さんの石の方向がまずくて白の私がリード。しかし、こんなことで喜んだら危ないのは百も承知。満を持して相手の模様に手をつける。
 妙にうまくさばけた上に博さんが無理をして来たので、相手の構えの中で種石が落ちてしまい大優勢になった。・・と思ったのが甘かった。


 私も、今度こそは引き下がれない。さらに踏み込んで勝負手連発で闇試合に突入。大振り替わりでこちらが優勢になったが、次の瞬間にミスで大損して2.5目負けとなった。
 これは、単にミスというより読み疲れ根負けで力負けという感じだ。

 博さんの碁は相当な衝撃だった。苦しい局面でも、何とか打開する手をひねり出してくる発想力は凄い。
 逆に言うと、もうちょっと布石でその柔軟な発想を生かせば良いのに、とも思うが、ここがまた碁の難しいところでもあるのだろう。とにかく、知識に頼るのではなくて、自分の力で打開する能力の高さに感心した。

 ついに3連敗で、もう精根尽き果ててしまった。黄さんに再挑戦するのは諦めて、一局少年と打つことにした。隣で観戦していた小学3年の子を指名して「指導してあげよう。」などと思った。・・のも大間違いだった。

 何と手割りは互先だと言う。3連敗でそこまで見くびられたのは仕方ないか・・・、と思ったのもつかの間。20手も行かぬうちに心は危機感で一杯になった。難しいところをノータイムで打ってくる。「やばい、4連敗するぞ、これは!」

 この碁を負けたらもう永久に立ち直れない気がして、必死に頑張り何とか面目を保った。
 この子は中国の4段で、博さんとあまり差がないそうだが、低学年でこのくらいの子は「山のようにいる」そうだ。

 会場や周囲の部屋には子供たちが大勢いたが、彼らのほとんどは棋院の教室に通っている生徒で院生の予備軍みたいな立場のようだ。
 受験戦争が激しいために、高校になると棋士になれない子は勉強に明け暮れるので、碁を打つことはほとんどないようだ。

 あちこちの部屋で碁を打ったり研究している様子が見られたが、旅行のガイドさんによると浙江省出身のユウビンも近くの部屋にいたらしい。
 なぜか中部総本部の伊藤9段が一瞬会場に姿を現したが、なぜそこにいたのか後で関係者に聞くのを忘れてしまった。

 夕方から棋院の中にある本格中華料理店で交流会が開かれ、酒が入って大いに盛り上がった。聞くと、黄さん、博さんは、英才教育を受けたわけでなくほとんど独学で強くなったそうだ。
 日本から持ってきたウックンの扇子を黄さん、依田9段の扇子を博さんにプレゼントした。偶然、杭州棋院から華麗な書の入った扇子をプレゼントされた後だったので、「太陽」に多少の不安を感じたが、大喜びしてくれた。いつか再戦することを約束した。

 予定ではこの日以外は囲碁交流の行事はなかったのだが、全く思いがけずまさに驚愕の囲碁交流が帰国前日に降ってきた。
 続く。





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Last updated  Oct 30, 2007 01:23:08 AM
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Comments

nipparat @ Re[1]:追悼 畑正憲氏(04/08) GO!さんへ  ぜひお楽しみください。今回…
GO!@ Re:追悼 畑正憲氏(04/08) 11/11にしずおか囲碁まつりでまた伺う予定…
GO!@ Re[2]:追悼 畑正憲氏(04/08) nipparatさんへ 久能山東照宮は行ってみ…
nipparat @ Re:追悼 畑正憲氏(04/08) あまり確認しておらず、返事が遅くなりす…
GO!@ Re:追悼 畑正憲氏(04/08) しばらくご投稿がなかったので、案じてい…

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