AIの進化によって盤上の世界は激動しているが、この
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年くらい新聞の観戦記のスタイルも以前とずいぶん変化した。「ここでAIの評価は」などというAI絡みの内容が必ずと言っていいほど見られ、解説者のコメントとAIの評価の扱いのバランスに苦労している様子が見える。観戦記者もAI時代の観戦記のスタイルを模索中なのだと思う。
名人戦第
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局の観戦記で気になることがあった。以下の局面で黒
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に対し井山名人が白
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と切った。実戦のような形になった後に白が上辺曲がり・その右黒おさえになった時に
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線のアテの利きが命綱になる展開を見ての白
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である。この手に関して観戦記では、「名人は
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分苦しんで白
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(図の白
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)を発見。AIは瞬時に白
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を探し当てていた~」と書いている。
実戦図

まず、こういう手所の読みはむしろAIは苦手なので「瞬時に~」は意外だった。手持ちの天頂で調べると白
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は候補には上がって来るが、かなり探索しても上位には来ず、やはり先までは読めていない様子だ。おそらく、性能の良いコンピューターでのみ使えるAIの評価なのだろう。
そしてもう一つ、碁を知らない人が「プロは打った碁を並べ直せて凄い。」と少し碁を覚えればできる事に感心したり、初級者がNHK杯の聞き手が本当に分からない事を聞いていると思っていたりすることがあるが、観戦記者もプロの能力を知らないのか?とひっかかった(知ってて名人を貶めるような事を書いているならもっとけしからんが)。白
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のような手はプロは100%一瞬で気づき候補になっている。ただ、黒をはっきり生かしてしまうのと劫材を一個減らすのが辛いのである。
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分はこの手の発見に費やしたのではなく、その後の変化の読みと形勢判断に費やしたのである。
残念ながら勝負に関しては人類はAIに抜かれてしまったが、AIなら膨大なシミュレーションが必要な所で直感的に急所を見抜く人間・そしてプロの能力は凄いのだ。観戦記では、それはちゃんと伝えてほしい。
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