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千菊丸2151 @ お久しぶりです。 仙人草さま、お久しぶりです。 イケ君…
mifess @ お元気ですか 2012/03/01 仙人草21さん >その後、記事の掲載が進…
仙人草21 @ こんばんは。    mifessさんへ お元気でお過ごし…
mifess @ お元気でいらっしゃいますか? 生活環境が種々変化してくると、言葉に出…
仙人草21 @ kyonkyonさん、こんにちは! いつも温かいコメント、ありがとうござい…

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* 一葉 *さん

Jul 27, 2008
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カテゴリ: カテゴリ未分類
 耕ちゃんは、『この人』にじゃれついて、きゃっきゃと笑っている。

つられて笑うその声に、ぼくは何度もどきっとした。似ている。

ずっと前には、笑い声の中心に、父さんがいつもいた。

今、笑い声は、父さんから『この人』に換わるところだ。

 おじいちゃんは、嬉しそうにしながら、何度も耕ちゃんをたしなめ、母さんも、声が弾んで

いる。

 耕ちゃんは、本当に楽しそうだ。

ぼくは、何度も、耕ちゃんに、母さんが結婚しないように、反対するように、仕向けながら話

してきた。耕ちゃんも、ぼくの話しに乗ってくれたけど、もう無理だ。



は、新しい父さんと言う希望が芽生え始めていたから。

ぼくも、父さんへの想いに、鍵をかけて、このまま東京に帰ったら、楽しい日々が送れるのだ

ろうか。みんなは、そう望んでいる。

ぼくが一歩譲ればと、思っているかもしれないけれど、ぼくには千歩譲るほど難しいことだ。

 この楽しそうな空気を、ぼく一人が、これから、乱そうとしているのかもしれない。

ぼくが全てに目を瞑って、大人の言う通りにすれば、みんなは本当に幸せになるのだろうか。

ぼくが、決心さえすれば、いいのだろうか。

考えは、暗いトンネルに這入って行く。

ぼくは、みんなの輪の中に入って、一緒には、笑えなかったのだ。

 イケに会いたいと思った。会って話したかった。

とにかく、ここからすぐにでも離れてしまいたかった。



やっぱり、イケしかいなかった。イケは、今どうしているのだろう。

 おじいちゃんは、笑いながらも、ぼくを注視しているのが分かった。

耕ちゃんの機嫌をとっているのに、ぼくには、何も話しかけてはこなかった。

それは、母さんも、『この人』も同じだ。

ぼくは、きっと扱いにくい子どもなのかもしれない。



「塁。山中さんに花立まで来て頂いたのは、母さんの結婚のことでだよ。お前も分かっている

だろうけど、な。山中さんは、お前と耕ちゃんを息子と思って一緒に暮らしたいと、言って下

さってるんだ。お前もずっと考えていたろう?その考えを話してほしいんだよ、な」

 ぼくは、母さんを見ていた。

さっきまで弾んでいた母さんは、何だか背を丸めて、目も手も膝に落としていた。何も言わな

かった。

母さんのこの姿、父さんの消えた日と同じだ!と、思った。

父さんの次に今度はぼくが、母さんを苦しめているんだ!と、突然感じた。

きっと母さんは、自分の気持ちを曲げて、ぼくの気持ちに沿うような結論を出すかもしれな

い。

「母さん。母さんのほんとの気持ち、ぼくは知りたいんだよッ」

 母さんは、青い顔を上げてぼくを見た。結婚しようとする人の喜びの顔ではなかった。

「母さん、母さん!ごめんね!」

 ぼくは、倒れてしまいそうだった。母さんを、苦しめているのは、このぼくなんだ!

「塁、塁。ごめんね。山中さん、済みません。この結婚、もう少し考えさせて下さい」

 母さんは、『この人』の方を向いて、深々と頭を下げた。

一瞬、ぎょっとした空気が、家じゅうに溢れた。

「母さん、そんなのダメだよ!ぼくは、そんなこと言ってるんじゃないんだよ。母さんの、ほ

んとの気持ちが知りたいんだ!ほんとの、ほんとの気持ちだよ。母さんは『山中さん』が好き

なんでしょ?結婚したいと思ってるんだよね?ねえ、母さん?」

 母さんは、また黙ってしまった。

「どうして、正直に話してくれないの?ぼくは、ぼくは、母さんに笑って暮らしてほしいんだ

よ。前みたいにだよ、母さん」

「塁。ありがとう、ありがとう!・・・。母さんは、ね。山中さんを信頼してるし、尊敬もし

てるの。母さんの前には、こんな素晴らしい人・・・。もう、二度と現れない人だと思って

る・・・」

 ぼくは、母さんのもっと深い気持ちが知りたかった。母さんに、明るい顔で暮らしてほしか

った。

「母さん、『山中さん』を、好きなんだよね?愛してるんだよね?」

 母さんは、深くうなずいて

「愛してます」

 と、短くきっぱりと言った。

母さんの、本当の気持ちを、長い間温めてきた気持ちを、そして、底に沈めてきた気持ちを、

初めて聞いた。母さんの口から、直接聞いた。

母さんは、もう大丈夫なのだと、思った。

嬉しかった!

寂しかった!

ぽんと、背中を押して応援もしたかった!

母さんの晴れ晴れとした顔を見たかった!

父さんから、解き放ってあげなければと、思った!



 これは、ぼくと母さんの別れだと、ぼくは自分に何度も言い聞かせていた

                              つづく


















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Last updated  Jul 28, 2008 02:46:36 AM
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