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2011.08.19
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  僕の住んでいるところは高原地形だから、

  手を伸ばせば星の2つ3つは掴めそうな、

  そんな夜が1年に2夜3夜は訪れるけど、

  星の吐息が聞こえる夜はめったにこない、

  その夜がきて僕はそれを聞きに外へ出た、

  耳を澄ませばやっと聞きとれる原っぱへ、

  急いだつもりで道に迷い心細くてこわくて、

  右も左もトウモロコシ畑の道を駆け抜けた、

  ぱっと視界が開けて知らない原っぱへ出た、

  星明りをいっぱいにはらんで淡く光っている、

  真ん中あたりで女の子が空を見上げている、

  どうしたんだろう、と僕は近づいてはっとした、

  女の子は胸に魚籠のような籠を提げていた、

  そのなかで何かが光度を変えて光っている、

  何をしているの、と訊いたけど返事はしない、

  女の子は両手を合わせて椀の形にしている、

  その瞳がきらりと光り口許に微笑がにじむ、

  僕はあわてて空を見あげてちいさく叫んだ、

  星がキラキラきらめき漂うように降りてくる、

  そうして女の子の両手の椀に音もなく落ち、

  やはり音もなく数回はねてから横になった、

  女の子はその星をそっとそっと籠に入れた、

  それからまた両手で椀を作り空を見あげた、

  こんどは僕も初めからしっかり空を向いた、

  手を伸ばせばいっぱい掴みとれそうだった、

  弱く光っていた星が身を翻して落ちてきた、

  両手の椀に舞い降りて音もなく横たわる、

  女の子は愛おしむようにそっと籠に入れ、

  今夜はずいぶん降ってきそう、と呟いた、

  その星をどうするの、と僕は訊いたけど、

  女の子は静かに首を振り空を見あげた、

  50個も星を受けて籠に入れただろうか、

  女の子は僕を見て初めて話しかけた、

  星を拾っていたの、

  それは見ていればわかるけど、

  かわいそうな星なの、

  どうして、

  間引きされたの、

  間引きって、

  ほかの星をきれいに輝かせるために、

  拾った星はどうするの、

  再生の泉で休ませるの、

  その泉はどこにあるの、

  あそこ、

  女の子は東の連山の1つを指さした、

  鍾乳洞がいくつもある山だった、

  間引きのショックを取り除いて、

  女の子は歌うように話し続けた、

  疲れを癒してあげたら里子に出すの、

  里子って、

  僕が訊き返したときには歩きだしていた、

  追おうとしたけど、追わないで、といった、

  バリアを感じて僕は1歩も動けなかった、

  女の子は胸の籠の明りにぼうっと包まれ、

  ゆっくりとゆっくりと草を分けて遠ざかった、

  ふたたび星の吐息が聞こえる夜がきて、

  僕は女の子と逢った原っぱへ行ったけど、

  いつまで経っても女の子は現れなかった、

  また星1つが降ってくる気配さえなかった、

  ただ耳を澄ませば星の吐息が聞こえた。 

   WEB絵劇場はこちら ◆志茂田景樹のホームページ・
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最終更新日  2011.08.19 13:42:01
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