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2015.07.19
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 きみがお母さんに連れられて、

 僕らの読み聞かせ会にやってきたのは、

 確か小学3年だったかな。

 じいっと聴いていたよね。

 メンバーの誰かが「はらぺこあおむし」を始めたら、

 きみは急に奇声を発し椅子から立って、

 「はらぺこあおむし」の絵本に突進し、

 あおむしをつついてから、

 何やら叫びながらお母さんのところに戻り、



 あおむしをつついた。

 それを繰り返した。

 会場にいた多くは母子の参加者達が、

 何ごとかと騒然となった。

 「はらぺこあおむし」をやっていた若いメンバーは、

 呆然としていたので、僕は、

 「気にしないで普通にやって」

 と、指示した。

 若いメンバーは、何ごともなかったように、

 読み聞かせを再開した。

 きみは「はらぺこあおむし」が終わって、



 おとなしくなったよね。

 帰りがけに、お母さんが僕に謝った。

 「ご迷惑をおかけしました。隊長はお気づきだったと思いますが、

  あの子は自閉症なんです。虫にこだわりを持っています。

  生きた虫ではなく絵本の中の虫です」



 20年も前だったかなあ。

 僕は何かの本を執筆していて、登場する子どもの心を閉ざした性格を(自閉的)

 と形容するところを(自閉症的)と形容してしまった。

 ゲラで著者校をするときも気づかず、

 校正者も違和感を覚えなかったせいか、

 チェックしなかった。

 その本が出版されて間もなく、

 匿名の手紙がきて(自閉症的)と書いたことに、

 偏見だと激しく抗議する内容だった。

 末尾は(一生、軽蔑します)だったかな。

 女性の文章で、なぜそんなに感情的になったのかは解らなかった。

 もしかしたら、自閉症の子を持つお母さんだったのかな。

 反省して自閉症の勉強を少ししたな。



 きみとお母さんはそれから3回現れたんだっけ。

 おかあさんはいろいろ話してくれたよ。

 虫でもきみはチョウとトンボに特別のこだわりを持っているという。

 それでチョウの幼虫であるアオムシに強く反応したんだ。

 僕はきみの別の特性に気づいた。

 きれい好きだということだよ。

 きみはいつも会場の床に落ちていた小さなゴミを

 嬉しそうに拾い集めた。

 他のお母さんの椅子の下にもぐりこんで拾うものだから、

 そのお母さんは悲鳴を上げた。

 きみのお母さんはそのお母さんに謝ったあと、

 きみを叱らないでなぜ椅子の下にもぐってはいけないかを

 諄々と説いて納得させていた。

 きみを椅子にかけさせお母さんは椅子の下にもぐって、

 「ほらほら、頭が貴方のふくらはぎにあたって気持ち悪いでしょ。

 だから、これは今度からしないようにしましょうね」

 などと。


 最後に現れたときかな、

 「この子、私に(はらぺこあおむし)を読んでくれるんですよ」

 と、ニコニコしながら言ったんだよ。

 ずっと、気にかかっていた。

 でも、便りのないのはいい便りと思うことにしていた。

 きみのお父さんが僕らの前に現れて、

 きみのお父さんであることを知ったときはびっくりした。

 きみは、この春、私立高を卒業して、

 ビルのメンテナンスの会社に入ったんだってね。

 丁寧な仕事をするって評判らしいじゃないか。

 お母さんはきみが中学を卒業する前、

 読み聞かせの会を結成したんだってね。

 きみは熱心に手伝っていたらしいじゃないか。

 今はお母さんの後輩が仕切っていて、

 きみも欠かせないメンバーなんだってね。

 仕事でも読み聞かせの会でも、きみは自分の世界を持ったじゃないか。

 今のきみを僕はまだ見ていないが、

 お母さんが見たらほんとうに喜んだろうね。

 きみが高2のときにお母さんは病気で他界したらしいけど、

 いつかきみの読み聞かせを聞きにいくよ。

 きっと、お母さんはいつも聞いているんだよ。



               * 体験に基づいたフィクションです。





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最終更新日  2015.07.19 20:35:41
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