音の棲む場所より

音の棲む場所より

2009.05.17
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カテゴリ: 音を紡ぐ
まるで

ひょっこり友人の家を訪ねる人のように

その人は登場した。



じんわりとひろがる 

やわらかな拍手のさざなみの中

その足の運びに

人生という名の旅の疲れを

少しだけにじませて


ふっと・・・帽子をぬぐように

さりげない会釈をすると

その人は

するりと椅子に腰をかけた




なつかしい音色が

昔話を紡ぎだす



遠いあの日と、今が

間違いなく続いていると

あの日からずっと、一日たりとも

その歌を忘れてはいなかったのだと



その人の音楽は、

しなやかに、そして完全なたしかさで

私たちをつつんでいく



やさしく肩をだかれるように

そっと、髪をなでられるように



あの日から今日まで

あちらこちらさまよっていた 私の心は

ゆるゆると やわらかく ほどけていく



「ねぇ、ぼくを覚えていてくれたかい?」



照れたように肩をすくめる 

マエストロの上に

拍手の嵐と、熱狂が降り注いだ。





おかえりなさい! ミスター・パーフェクト!
プログラム~♪



ピアノ好き・音楽屋の方でも、(音楽学生でも?)
もはやマウリツィオ・ポリーニの名前を御存じない世代もいるかしら?
今年、御ん年69歳?かな?
登場した瞬間は、
「あ・・・、巨匠老いたり・・・」
と、ちょっとした灌漑を持ちましたが、それも一瞬。
↑のように、そして「いつものように」

私が聴いたのは、オールショパンです(会場はないしょ)
18歳でショパンコンクールに入賞するも、「再度修行を」と
数年の隠遁生活を経てデビュー。膨大なレパートリーをひっさげて登場。
ショパン練習曲集の完璧さ、テンポたるや、発売当時は
「440で録音して、442まで回転数を上げたに違いない」
と、悪い噂がたつほどの超絶技巧。
くわえての、透明なリリシズム・趣味の良いルバート(あこがれたなぁ・・・)
常に、目標は「ポリーニテンポ」でした(自滅することも多かったけど)
あの「ミスター・パーフェクト」があえて、ショパンソナタを「再録」したというので
20世紀の金字塔であるポリーニショパンアルバムがあるのに、いまさら?と思いつつ

もうもうもうもうも~~~う(うしさん?笑)



ショパン本人は、一般的に行われている、ニュアンスのためにテンポをゆらすことを
極度にきらっていた、自分の曲を甘ったるいメロドラマのように語られると席を立った。
ということは皆様ご承知でしょうが、やはり、それはとても難しいことで。
テンポルバート(テンポをぬすむ)と書いてあることを、テンポをゆるめるまたは急ぐ
とカンチガイしやすいのですよね。

ルバート(ぬすむ)ことをしたのと、同じフレーズ内で、ぬすんだものは返す必要がある。
つまり、ひとつのフレーズが終わるまでに、聴衆に気付かれないようにもどしておく。
言うのは簡単。そして、なんのニュアンスもつけないなら、それも簡単。
でも、ショパンのあのメロディーを味気ないものにしてしまう恐れと、
アジア辺境(あえての表現:ヨーロッパ音楽から見たら・・・です)で音楽を勉強している
ちんまりと音屋を営むものにとっては、溜息のでるような問題点なのです。

それを・・・・

言葉をなくすほど、完璧にやって見せたのが
↑の20世紀後半に録音された、ポリーニのショパン集なのでした。
そこはそれ・・・ほら・・「にっぽん」ですから・・・(苦笑)

「感情表現のない」とか「テクニック重視の」とか
まぁ当時から今日までいろんな「ひょーろんか」がおりましたが、
(そういう人って、うにょら~~ん と歌いあげる人を妙に持ち上げるし・・・)





・・・・・こほんっ・・・こ、興奮のあまり失礼な発言を・・・(恐縮)
あまりに完璧なものの前に立って、負け犬の遠吠えを放つあさましさ・・・
と、若き日の私は、それらの「ひょーろんか」に心の中で反駁しておりました。

こちらがそれをCD化したものです。
なつかしき音源たち

それにしても、本当に「さりげない」人です。

マズルカ数曲~ソナタ(葬送行進曲付き)というプログラムを
(これでも、プログラムの「後半の半分」です・・)
ほぼ、アタッカ(つなげて)状態で演奏!!!!!(おめめがぐるぐるぐる)

でも、そうすることで
ショパンという作曲家の、またはその時代の中の
それらの曲の持つ意味だったり、曲同士の持つかくれた関連性だったりが
クリアに見えてくる瞬間があり、もうもうもう(また、うしさん?笑)
私の目には、こんなに山盛りの「うろこ」があったの?と思うほど
ぽろぽろぽろぽろ、うろこが落ちました((あ~~すっきり! 笑)

今回は「半ズボンのジェントルメン」をひきつれて(笑)行ったのですが
英雄の例の場所(ミレドシ・ミレドシ・・・)で、
変ロ調からロ調へ(ミ♭からミへ)転調するとき
ぶわっと世界が近寄ってくるように思われる瞬間がおとづれて
彼らが、どんどん前のめりになって、目がキラキラ輝いていったことを
ここに申し添えておきます。
(決して、ピアニストをめざしている若者ではありません。ただの小中学生です)

ポリーニを聴く・・・という幸せな時間は、これで3回目。

3回目にして、ようやくショパンを聴きました。
(1回目はシューベルト&リスト 2回目はドビュッシー&シェーンベルク)
で、学生時代ほんとうに擦り減るほど聴いて、
絶対届くはずはないけれど、一生懸命めざしていた「そこ」が
まだ、確実にあるのだということ。
彼の手の中に、いえ彼の存在そのものが、
くっきりと「そこ」を示してくれていることが
たまらなく、うれしかったのでした。

ショパンスキーな皆様~~~~!(かなたこなたにお手々ふりふりふり~~)

ミスターパーフェクトは顕在です!(興奮のるつぼ!!)

アンコールに!です。アンコールにバラード1番!
革命!エチュード12-4 などなどなど~~~~(いつも4~6曲弾くらしい)
なんという「Prest(とても速く)」でしょうかっ!!(絶句)

「おいおい、まだ弾かせるのかい?」

と、肩をすくめて、さらりと座って次々と弾いてくれたわけですが

テンポも、完璧っぷりも、音質のクリアなことも、
なにもかも、あの頃と変わっておりません。
あえて・・・なにか変化が?と、一言語るとすれば
趣味の良い紳士にただようやさしさ、やわらかさが加わりました。


さて・・・と・・・(興奮しすぎっ! ちょっと落ち着きましょう)

ここまで語ってから、ナンですが(ちょと照れ・・・ぽりぽりぽり)
小学生時代からコルトー サンソン・フランソワ アルゲリッチ ルービンシュタイン
などなど、いわゆる「うにょら~~ん」と歌いあげるタイプの巨匠たちも
もちろんもちろん、愛聴しております。尊敬もしております。

でも・・・これは弾いた人しかわからないけど・・・。
そして、「そこ」に行こうとした人しか、気付かないけど・・・。

「あれ」は

人がたどりつく、最高峰のひとつです。間違いなく。

あこがれが、若き日のあこがれのまま、そこにいてくれる。

本当にしあわせでした。
そして、
その幸せな時間を若きジェントルメンと共有できたことも
しあわせなことでした。

さてと・・・・・(重い腰をあげて・・・ うふふ)

私は、私の音を、私の信じる方向に向かって紡いでいこうと思います。

いつか、たどりつけるところまで・・・・。

さぁ!

今日も「私の」ピアノを弾きましょう。


この平和そのものみたいな「相棒」といっしょに・・・
ね?M氏よ・・。
すぴぴぴ~すぴ~♪











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Last updated  2009.05.17 10:24:47
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