7. 誕生

2人目出産顛末記


7.誕生

 赤ちゃんの頭が見えているのに一向に生まれず、いきむたびに分娩監視装置のアラームが鳴る、つまり赤ちゃんの心拍が下がっている場合、へその緒が巻いてしまっている可能性が高いのだそうだ。――赤ちゃんが苦しんでいる!

 「一刻も早く外に出してあげるために、吸引するからね」
 先生にそう伝えられ、うなずいた。一人目に続き、二人目も吸引分娩か。そう思いはしたが、そんなことは言っていられない。とにかく無事に赤ちゃんを産んであげたい。

 看護師さんたちがバタバタと吸引の機械を準備する。周りにも何人か看護師さんが集まってきた。やがて陣痛の波が来て、周囲に伝える前に「スー、フーーーー…、ウン!」といきみ始めた私の様子を見て、先生が手早く指示。すぐに赤ちゃんの頭に吸引カップがつけられ、目にもとまらぬ早業でジョキンと会陰切開。一人の看護師さんが私のおなかを押すのと同時に先生が赤ちゃんを引っ張った。頭が出る瞬間はさすがに、「いたーい…」と声がもれた。おなかを押しながら、看護師さんが「痛いよね、ごめんね、でもがんばってね」と声をかけてくれた。

 1~2回のいきみの後に激痛がスポーンと爽快に抜けると、すぐさま元気な声がした。
「フギャー、フギャ、フギャ…」
 生まれた…。
「男の子ですよー」
 看護師さんの声がした。ああ、やっぱり。今回、実は性別を聞いていなかったのだが、男の子が生まれる予感がしていたのだ。
 時刻は17時9分。3450g、身長50cm。頭囲35cm、胸囲36cmの男児だった。
 看護師さんは、すぐに赤ちゃんを見せてくれた。元気に泣いている。吸引分娩だったわりに、頭ものびていない。ああ、無事に終わった…。

 赤ちゃんと対面した時は驚くほど穏やかな気持ちで、泣きそうに感動した一人目の時に比べて「出産したんだ」という実感も薄かった。というのも、今回は前回のように切れ間ない陣痛といきみの波に苦しんだ後の出産ではなく、最後まである程度の間隔があく波で余裕があり、理性を失うこともなかったからだ。先生に「吸引する」と告げられた時も、「もう終わっていいの?」という気持ちがあったくらい。出産の間ずっとメガネをかけていて周囲の様子がはっきりと見えていたことも、理性を保てた理由の一つかもしれない(前回は分娩室移動と同時にメガネを外された)。

 やがて再び激痛が襲ってきて、またもやスポーンと爽快感。胎盤が出たのである。
 吸引の際にいつもの先生(院長)の後ろに立っていた別の先生が、手を入れて胎盤をさらにかき出した。続いて麻酔を打ち、会陰を縫合。
 処置を受けている間に、体をきれいにしてもらった赤ちゃんが再び私の元に連れてこられた。看護師さんが記念にビデオを撮影してくれるなかで、改めてご対面だ。

 色白で、ひとえの男の子。髪は真っ黒でフサフサだ。ルンバとは全然顔が違う。すごくまぶしそうにしていて、目があかない。心の中でひそかに「ガッツ石松系だ…」と思う(ルンバは目の大きな宇宙人顔だった)。

 会陰縫合は長く感じたが、一人目の時ほど痛くなかった。前回は産道まで裂けてしまっていたから痛かったんだろう。

 分娩室でずっとついていてくれた看護師さんが患部を見て
 「ヘモ(痔)が結構出ちゃったね。後で痛むかも」
 と言ったが、痛み止めが効いているせいか、そうひどい状態になっている自覚はない。
 もっとも、いきみはじめる前から看護師さんに
 「まだいきんでいないけど、ヘモが少しずつ出てきてるね。後で痛むかも。軟膏とか坐薬とかがあるから、辛かったら言ってくださいね」
 と言われていたので、ある程度覚悟していたのだが。
 その後も入れ替わり立ち代わり、いろんな看護師さんに「ヘモが、ヘモが」と同じことを言われた。

 そういえば前回のお産の時は、いきむ時に肛門を押さえてくれていたのだが、今回は肛門は押さえず、膣に手を入れてグリグリしながら下腹部を押されていたなあ。肛門を押さえてくれるように言っておけばよかった。

 縫合が終わると、おなかにはサラシが巻かれ、お下をきれいにしてお産パッド、T字帯、お腰がつけられ、子宮収縮を促すためにアイスノンがおなかに乗せられた。それらの処置を受けている時、分娩室の外からルンバの声が聞こえてきた。
 「赤ちゃんが生まれたよ!」
 「赤ちゃんが、ママーって言ってるよ」
 「赤ちゃん、ばんがった(がんばった)よ!」
 ルンバの声を聞きながら、なんともいえない幸福感に包まれるのを感じたのだった。


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