しぐれ茶屋おりくの部屋

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七夕にちなんだ童話「ケンタウス七星」



困った七重ちゃんは、そこでどうしたら男らしい健太くんの気持ちを自分に向けることができるかなと考えました。何か素敵な贈り物をしてみようかなと思い、おじいちゃんから貰った千代紙で紙人形をこしらえました。

自分の手から健太くんにそれを渡すことなど、恥ずかしくってとうていできません。机の下の物入れにそっと隠しておきました。健太くんは元気な少年でしたから、紙人形を棚から床に落としたことにも気づいていません。あらら、そこを通った別の男の子が運動靴で踏んづけてしまいました。

せっかく一生懸命に作った紙人形は形が歪み、泥で黒ずんでしまいました。ちゃんと手渡さなかったせいでしょうね?誰も見ていない休憩時間に七重ちゃんは、その紙人形を自分のランドセルに戻しました。

今度はバザーで買ったキーホルダーを、別のものに変えてみることにしました。粘土でピカチューを形づくり、陰干しにして、色鮮やかな絵の具を塗りつけて、ピカチュー・キーホルダーのでき上がりです。淡いピンクの袋に「健太くんへ、七重より」とていねいに書いておきました。そして願いをこめて健太くんのランドセルに、そっと入れました。

今日は彼のお家で、このプレゼントにきっと気づいてくれるだろうと、楽しみにしていました。その晩七重ちゃんはなかなか眠れませんでした。


 さてさて翌朝の学校では隣りの健太くんが声をかけてきました。「このピカチュー、七重ちゃんが作ったの?ありがとう!」うわーい、健太くんが喜んでくれた。

もう、七重ちゃんは嬉しくてたまりませんでした。まだ、口をきかない七重ちゃんでしたが、心の中は健太くんでいっぱいでした。


 そんなある日、七重ちゃんはクラスの男の子にいじめられていました。「お前はしゃべれない、だから叩いても文句を言わねえだろ?」と言って、髪の毛を引っ張ったり、スカートをめくったり、輪ゴムを飛ばしたりしました。

運動場で遊んでいた健太くんがそれを見つけ、いたずらな男の子とたたかってくれました。泣きながらも七重ちゃんは、健太くんが自分を応援していてくれるのを嬉しく思っていました。

「お前は表で遊ばないからいじめられるんだ。俺と外で遊ぼう」と言って、ろく木や鉄棒の所へ連れて行きます。自分も同じようにしたいのだけど、どうしても行動に移せません。本当に困った子だと自分がいやになってしまった七重ちゃんです


 いつも元気にしている健太くんが欠席しています。担任の山田先生が一時間目に話して下さいました。健太くんは珍しい病気でしばらく学校を休むことになるというのです。七重ちゃんはびっくりしました。あの元気な健太くんが病気だなんて・・・。

山田先生とクラスの仲間とでお見舞いに行きました。病院のベッドに寝ている健太くんは、病人とは思えないくらい元気そうなのに、難しい病気とたたかっているのだそうです。七重ちゃんは神様に祈りました。健太くんの病気が治りますようにと。

何度も何度もお願いしました。・・・でも健太くんはそれきり元気な姿を見せないまま、天国へ行ってしまいました。七夕の夜空に、涙でにじんだ星が見えます。とうとう七重ちゃんは声を出して泣きだしました。神様ひどいよ。どうして健太くんを元気にしてくれなかったの?何度もそう言いました。

すると、コバルト色の夜空に、黄色に輝くものが見えて来ました。ずんずん大きくなって近づいて来ます。流れ星?いいえ、もっと違ったもののようです。あっ、ピカチュー!・・・そうです、それはまぎれもなく七重ちゃんが健太くんにプレゼントしたピカチューのキーホルダーでした。

ピカチューは何度か夜空を泳いでいましたが、最後に大きな光となって、そしてパッとはじけて空中分解したかと思うと、七つのお星さんになりました。七重ちゃんは「ケンタウス七星」という名前をつけました。

 いつか七重ちゃんが大人になって、健太くんそっくりさんの彼とこの夜空を仰ぐ時、ケンタウス七星はなおさらのこと、キラキラ輝いて二人を祝福してくれることでしょうね?

        平成14年5月   by  お り く


最終更新日 2005年01月10日 13時18分23秒

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