走る物流マンの給水所

走る物流マンの給水所

Finger-Lake 50

Finger-Lake-50


40日ぶりのレースはNY北西部の田舎町Glen-Watkinsの近くにある、Finger-Lakeという湖の近くのトレイルコースを使った50マイル(80km)走。
私の住むRyeからは450km、車で5時間ほどのところにある。これだけ走っても、まだNY州というのだから、アメリカは本当に広い。
前日の夕方に現地入りし、スタート時点の受付場所で前日のチェックイン。2年前に初めて出場した時には場所が分からず苦労したのを思い出す。
早めの夕食を済ませ、宿に戻る。所謂、典型的なモーテルだが、80ドル近くするのは、湖がそばにある観光地のせいか。light-beerを飲んで、11時前に就寝。

Finger-Lake.jpegFinger-Lakeの公園.jpeg
Finger-Lakeの公園

(スタートまで)
朝5時前に起床。睡眠は6時間ピッタリ。体調は悪くないようだ。
簡単に食事を済ませ、レース会場まで、15分ほど、車をとばす。レーススタートは6時半。
50キロと50マイルの部が同時にスタートする。それとは別に8時スタートの25キロの部というのもある。このレースの特徴は50キロと50マイルの境目がなく、50マイルで登録、スタートしても、途中で疲れて、50キロでやめても、記録は50キロの正式タイムとして採用される。さすがに50キロの選手が調子がいいので、50マイルに切り替える、というのはあまり無いと思うが。。
コースは1周25kmのトレイルを3周。4周目に小さな5kmのループを走って、ちょうど80km。前回は50kmの部だったので、4周目をどう走るのか、ちょっと不安だが、何とかなるだろう。
両方の部を合わせて、参加者は100人くらいというところか。スタート5分前にようやくゾロゾロスタート時点に集まる。主催者がユーモア混じりにコースの説明を行うのだが、おしゃべり好きのアメリカ人、大抵の場合、時間通りに終わらず、スタートが遅れるのはご愛嬌。。

(レース前半)
スタートと同時に何人かが飛び出す。50kmの部の人達だろう。ゼッケンの区別が無いので誰が50マイルの部の人達か分からないが、そんなことは気にせず、12~3番目あたりを比較的ゆっくりペースで進む。
下りの林道を数百メートル走ったところで早速トレイルコースにとりつく。
昨日までの大雨の影響でコースはかなりぬかるんでいる。場所によっては、水溜りが道幅一杯に広がっており、避けようのない場所もある。そこに多くのランナーがつっこんでいくのだから、泥濘状態は仕方のないところ。この状況は周回を重ね、更に25kmの部のランナー達がこれに加わることで更に悪化する。。
コースは上り基調で呼吸が乱れてくる。スロースターターの私としては序盤で無理する気にもならず、何人かのランナー達が脇を過ぎてゆくが、マイペースを貫く。
このコースの特徴は1周回の間に3度、牧場の敷地の中を走ること。背の高い牧草を踏みしめて走るコースは一見緑いっぱいで楽しそうだが、実際は草の下がぬかるみ状態で、なまじ草の上からはその下の状態が見えないために、運が悪いと30cmほど、足がはまって動けなくなったり、靴をとられたりしてしまう。それ以外は全般的に走りやすいトレイルで急登箇所は2箇所程度。むしろ、トレイルとトレイルの間にある林道(舗装路)の箇所があり、直射日光をあびながら、一気に上らねばならないのがキツイところ。
コースの様子はこちらをどうぞ!⇒ http://www.wny-ultra.org/photo-FLF.htm

コース上の池.jpeg

前回は50kmの部で5時間50分かかった。丁度キロ7分ペースというところ。途中歩きの箇所もあるので、ペース的にはこの辺が目処だろうか。今日は更に30km長いので、同じペースでは厳しいかも知れないが、前回時に比べれば、身体も絞れているので、どのくらいのペース配分でいくかは、1周目のラップを見て決めることにしよう。
気温は20度前後、高原の朝という感じでいたって、気持ちがよいが、朝の食事が重すぎたのだろうか、身体全体が重く感じられる。過去のウルトラの時も同じように感じる時があったが、そういう時の方が寧ろ、後半調子が上がることもあった、と前向きに自分に言いきかせる。
3つの牧場をかけぬけ、コースの後半はくだり基調のトレイルとなる。日差しが森の木々で遮られ、ひんやりした空気の中を走る、走る。ようやく足も上がり始めた。
スタート時点の近くにある小さな池のほとりにコース上最後のエイドがあり、その先を左に折れ、1.5キロほど下って、同じだけ登り返してきたところが、スタート/ゴール時点。
トイレタイムと補給を3分ほどで済ませる。アミノバイタルの粉末とゼリーを1つ。タイムは2時間47分/25km。前回とほぼ同じペースだが、脚へのダメージはほとんどなく、1周目のはいりとしては最高の感じだろう。

すぐに2周目のコースにとりつく。1周目とは異なり林道部分がなく、すぐにトレイルコースが始まる。相変わらず、日当たりの悪い箇所の泥濘がひどく、スピードダウンを余儀なくされる。それでも走れるところも結構あり、少しづつスピードを上げながら、前を追う。この辺で前半先行した50kmの部(多分)の人達を追い抜き始める。
自分自身はエイドで必ず給水はするが、休み過ぎると、直後のペースが乱れるのでなるべく短時間で切り上げることにしている。エイドでバナナをいただき、ほお張りながら、急登箇所を早足で歩く。
2周目も後半部、通算距離で40km地点に差し掛かる。しかしレースはようやく中間点。脚の方はあまりダメージが無い。最近の走りこみの効果だろうか。
先行者を抜くときに挨拶をするが、かえってくる言葉は皆さん同じで、「50キロorマイル?」。
彼らとしては、レース終盤に自分を抜いてゆく選手がどっちのカテゴリーか気になるのだろうか。マイルの方だよ、と答えると皆さんに一様に嬉しそうな顔になり、あと1周と少しだ、頑張れ!とか、おお、このスピードはグレイト!とか現金なものだ。
言葉を交わすとお互いに元気がでる、最後ののぼりを頑張って走り、2周目も終わり。
あまりタイムは意識していなっかたが、1周目より1分早い、2時間46分。通算で5時間31分。50kmの通過タイムとしては十分だ。2年前はこれより20分遅れで、それも最後はヨレヨレでゴールした。
アミノバイタルの粉末を飲んでいると、さっき抜いたばかりの若者が勢いよく、ゴールに入ってきた。係員にもう終わりか?と聞かれ、あと1周と答えていた。
そうか彼もマイラーか。彼との差は殆どないんだ、自然と気持ちが引き締まる。

(レース後半)
ここからは50マイルの部の人達しか走らないレースとなる。スタート場所で多くの人の声援をもらい、3周回目に入る。前には誰も見えない。最初の牧草地を超え、長い林道を下ったところが、コースでは最初のエイドとなる。ゲータレードを飲みながら、記録をつけているボランティアの人に自分より先に行ったマイラーは何人居るのかと尋ねたら、ぶっきらぼうに5分前に1人行ったよ、と答える。なに?じゃあ今、2番??
その答えを聞いてビックリしていると、例の若者がダッシュでエイドに辿り着く。
ゆっくりはしておれません。スタコラと急登箇所にとりつく。このレース初めて、順位を意識するが、2番手とは何とも心地よい。
4周目は今走っているところまでは来ないので、実質的にはfinal-lapだ。上り道を走る。
ここまで温存してきた脚を初めてつかう。体重が軽いせいだろうか、あまり呼吸が乱れず、走って上ることが出来る。よーし、若者を千切って、前を追うぞ。
俄然、力が出てきたようだ。

更に10kmほど気合をいれて走るが前にも後ろにも人の影はない。
丁度、舗装路に出て、直線700mほどののぼりの箇所がある。かなりの急勾配なので、通過するのに4,5分かかるため、前後のランナーとの差を確認するには格好の場所だ。
気温は30度近くになり、直射日光が真上から降り注ぐ。さすがに暑い。
坂の一番下から前方を眺めると坂のテッペンを歩く影が1つ。
50kmのゆっくりランナーかなと思い、目を凝らして眺めると2度、3度、後を振り返っている。向こうもこちらに気づいたようで、慌てて走り始めた。後方を気にするのは50kmのゆっくりランナーであるはずがない!
初めて先頭ランナーの背中が見えた!となるとこの坂は走らざるを得まい。
既にエントリーしている8月の奥武蔵はもっと暑い炎天下で、もっと急勾配の坂を上ることになるのだ。何のこれしき、幸いにもまだ脚は動いている。
坂の最後でゲータレードを飲み干し、後方を確認。何とか3番手の若者は千切ることが出来たようだ。気合を入れなおして、トレイルコースに再突入。。

ここからスタート・ゴール時点までは7km程度。表示が無いので、あくまで感覚だが。
一応、4周目も残っているので、極端なスパートはかけられないが、ペースを落とさない様、気をつけて走る。さっきの坂での差が3分程度ということは前との差は少しづつ縮んでいるはずだ。ウルトラレースの終盤で一旦、ペースが落ち始めるとなかなか回復しない。
こちらのペースさえ落とさなければ、この3周回目の残りの区間で追いつけるはずだ。

こんなことを考えながら、走っていると左足が浮石に乗り上げ、一瞬、足首をひねってしまった。慌てて、体重を右にかけ、事なきを得たが、危ない、危ない。
目の前に現れる水溜りももはや気にせず、最短距離を突っ走る。
滑りやすそうな斜面もスピードを落とさず、突っ切ろうとしたら、右足が見事に滑ってしまい、大転倒。咄嗟に右手が何かをつかんだようで、とげのある野草の茎で右の手の平を
切ってしまった。やっぱりトレイルは疲れが出始めると怖い。路面の状況にもっと集中しなければ。

2kmほど更に進んだ上りで、先頭(?)ランナーが苦しそうに走る姿をついに捉える。様子を伺うと左足の調子が悪そうだ。
丁度、急登箇所だったので、並んで歩く形になったが、聞くと、左足の爪先が痛むのだと。体力は十分余っていそうだし、普通の状態なら勝てそうにないが、確かに足指を痛めると下りが特に辛くなる。敢えて、元気一杯な素振りで一気に坂を下る。彼は全くついて来れない様子。こりゃー駄目だわ、と諦めてくれれば、よいが。。
しかし、こちらも70kmを過ぎ、さすがに疲れが溜まってきた。今の人は本当に先頭ランナーだったのだろうか、半信半疑な気持ちのまま、池の辺の最終エイドへ。ゲータレードを飲んでいると、ボランティアの方が、あなた1番よ!と言ってくれる。やはりそうだったんだ。
初めて、優勝、という文字が頭に浮かんだ。あと8kmと少しを走り通せば、勝てるんだ。
そう思いながら、テントを出ると強烈な直射日光が容赦なく襲ってきた。
珍しく頭がクラクラした。飲んだばかりのゲータレードを戻しそうになる。
ウルトラを走っていて、しんどいことはあっても、飲食物を戻したりすることは一度もなかったが、今回はその「初めて」なのだろうか。ここまでよいペースで来たけれど、前を追うことで自然とペースが上がってきていたのだろう。それとも優勝という慣れないことへのプレッシャーなのだろうか。

コースの最後の3kmは何も遮るものがない、一番辛い区間だ。
丁度、のぼりの区間だったので、無理せず、歩くことにする。まともに走りさえすれば、多分誰からも抜かれることはないだろう。ただ、今の自分は「まとも」じゃない。。
下りの区間に来たので、少しずつスピードを上げてみる。まだ何とか走れているが、ペースは落ちてきている。1.5kmののぼり返しをもがきながら、カバーし、3たびスタート時点に戻って来た。

(ファイナルラップ)
スタート時点では25kmと50kmを走り終えた多くのランナー達が私の通過を見守ってくれている。やんやの喝采だ。とても気持ちがよい。この瞬間は75km走ってきた疲れが吹き飛んでしまう。
ラップは2時間59分と1~2周目よりはペースダウンだが12分の差なら上出来だ。
さっきのエイドで頭がクラクラした時に空腹感もあったので、このファイナルラップに入る前に給水と給食の両方をしようと思っていた。が、皆さんの声援の中を全速力で走りぬけてしまった(←お調子者)ので、結局、給水も給食もしないまま。
なーにあと5kmだ、とタカを括ったのが、間違いだった。
10分ほど走ったところで、標識に従い、未知のコースに入る。身体の方が一杯一杯なので、上り坂が来たらどうしようと、ビクビクしながら走る。そうこうする内に見覚えのある場所に出てきた。さっき頭がクラクラして歩いた上りの箇所だ。コースの分岐点で一瞬迷い、危うくミスコースするところだった。
気持ちとしては4kmほど走った積りでいたのだが、この場所からゴールまでまだ3kmはある。下って上る最後の試練だ。ほんの少しの距離が遠くに感じられる。

最後の下りは何とか走れたが、上りは全くだめ。只管歩く。泥に脚をとられ、脚を引き抜くときに足指が攣りそうになる。こんなところで痙攣などしていられない。
身体を前傾させ、腕を振り、脚を動かす。時々、後ろを振り返るが、足音は聞こえて来ない。自分の荒い息遣いと水溜り、いや泥溜りのバシャバシャという音だけが聞こえる。

坂の向こうにピンクの小さな旗が見える。ゴール地点にランナー達をいざなう標(しるし)だ。やっと見えた。終わった。ようやく勝利を確信する。後ろからは誰も来ない。

大きな歓声に迎えられながらゴーーール!9時間16分の長~いレースでした。
主催者の方と握手、1位の賞品をいただき、ベンチに座り込む。まっすぐ歩けずにボランティアの方に心配をかけてしまった。
多くの人が近くにきて、オメデトウと祝福してくれる。近くにいたおばあちゃんがクッキーを2つ差し出してくれた。すぐに食べれないので脇においておくと、今度はスイカのかけらを2つくれた。これは美味しかった。甘い水分が乾いた喉を潤す。
コーラを一缶飲んで、身体の回復を待つ。文字通り、オールアウトの状態なので、水分やエネルギーが体中に染みわたるまで、まったく動けない。
ゴールしてやれやれ.jpeg

そうしているうちに、レコーダーをもった女性がインタビューに来る。色々喋らされたが、その長いインタビューが終わる頃にはようやく身体が動く状態になってきた。
丁度、2位のランナーがゴールするところだったので、ゴール付近に戻り、彼とガッチリ握手。24歳の彼は、勝てると思っていた様で、残念そうな表情をしていた。
その後、次々と後続のランナー達がゴールする。あまり差が開いてなかったことが分かる。

さて優勝タイムの9時間台はこの暑さと泥沼コースを多少割り引いても、ちょっとひどいレベルの様だ。例年の優勝タイムはもっとよくて、多分有力選手が欠場したのか、或いは50kmの部に途中で鞍替えしたのか、その両方かも知れない。
年代別ならともかく、47歳のおじさんの総合優勝はちょっとしたハプニングだろう。
まあ優勝はご愛嬌として、とにかく自分としては、このトレイルを70kmまで脚を残しながら、ほぼイーブンペースで走りきれたことが一番嬉しい。レース中盤まで余裕をもって走れたのは最近のトレーニング効果なのだと確信出来た。これでやっと、日本に居た頃のレベルに戻ったといえるかも知れない。
サブスリー時代のスピードは最早無いけれど、何とか長めの距離やトレイルを粘りで走りきるようなスタミナを身につけたい。そのためには今後もトレーニングを継続したいと思う。走った距離は裏切らないのが、超長距離走の魅力なのだから。

泥だらけ.jpeg

                                      (了)




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