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私は技術屋として大小様々なプロジェクトに関わってきたが、寝食を忘れて没頭したプロジェクトは、成功しようが失敗しようが、忘れられない記憶として残っている。本書は、関係した数多くの学生たちにとって生涯忘れられない記憶となって残る、世界初の学生による自作人工衛星が地球周回軌道に乗るまでを描いたドキュメンタリーである。
2003年6月30日、東大と東工大の学生たちが作った人工衛星2機が地球周回軌道に乗った。一辺10センチ、重量わずか1キロ。かのNORAD(北米航空宇宙防衛司令部)がキャッチできるギリギリの大きさというミニミニ衛星である。本書は、この世界初の快挙の物語を綴ったドキュメンタリーである。筆者自身がこのプロジェクトを支えるNPO法人に所属し、大学で打ち上げの様子を見守っていたというだけあって、打ち上げの章は圧巻である。
打ち上げに成功したとき、学生の1人は「細胞という細胞から涙が出た」と表現しているが、これは名言だ。私は彼らと直接会ったわけではないのに、この一言で彼らと意識を共有できた。
宇宙開発というと、政治的なしがらみや、経済的な問題など、巷では様々な議論が沸き上がる。しかし、自分が作った物を宇宙へ打ち上げたい――この純粋な技術屋の想いは、何人たりとも妨げられるものではない。そして、それを実現してしまう技術屋魂は、何物にも代え難い宝である。
社会人になると、生きていくために日銭を稼がなくてはならないし、家族を養っていく責任も発生する。私自身、年齢による体力の衰えも見えてきた。年齢を重ねる毎に、プロジェクトに投入できるリソースが減っていく。しかし、これは学生も同じことだ。みんなバイトを抱えているし、院生は論文を書かなければならない。プロジェクト半ばで卒業、就職を迎える者もいる。物理的な制約も厳しい。人工衛星に搭載できるプログラムは、たった8キロ・バイトにおさめなければならない。
プロジェクトは、常にリソースの制約を受けるものだ。ここが、無限のパワーを持った正義のヒーローと決定的に異なるところである。しかし、われわれ技術屋は、制約を受けながらも前へ前へと進み、引き返すことを知らない。新天地を開拓していく者すべてがヒーローなのである。
若者のやる気の無さが叫ばれるようになって久しいが、こういうドキュメンタリーを読んでいると、そんなことは大人の妄想に過ぎないと感じる。われわれ大人が、彼らに難しい課題を、厳しい試練を与えれば、彼らはきっとそれに応えてくれるはずだ。
■メーカーサイト⇒ 川島レイ「キューブサット物語」
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