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僕の幸福は、自分が作り上げたものが美しく光り輝くこと。(100ページ)
桜宮市にある未来医学探究センターで日比野涼子は、東城大学医学部から委託された資料整理のかたわら、世界初の「コールドスリープ」技術により人工的な眠りについた少年・佐々木アツシの生命維持を担当していた。アツシは網膜芽腫が再発し両眼失明の危機にあったが、特効薬の認可を待つために 5 年間の“凍眠”を選んだのだった。
映画化、ドラマ化もされた『チーム・バチスタの栄光』でデビューした現役医師・海堂尊が、時間軸的には『 ナイチンゲールの沈黙
』と『 医学のたまご
』の間の物語として上梓した医療エンターテイメントだ。
ヒロインの日比野涼子は、父親とともに海外を渡り歩いた経験から複数の外国語を操り、医学の知識も豊富だ。いわゆる帰国子女という才女を自認する彼女だが、ゲーム理論の第一人者・曾根崎伸一郎教授とのメールのやりとりや、「僕の幸福は、自分が作り上げたものが美しく光り輝くこと。その輝きの下で、ひょっとしたら、人々は幸せになれる、かもしれない。でも、そんなことは僕の知ったこっちゃない。だって僕は、自分の創造物を人々の幸せのために作ったわけじゃないんですから」(100 ページ)と言い放つ技術者・西野昌孝に翻弄され、自身の知識ではなく“心”を見つめるようになる。
毎度のことだが、医療エンターテイメントといいつつ、医療問題を織り込むのは著者の真骨頂だ。
法律が医療技術に追いつかず「ドラッグ・ラグ」が発生しているという現実を乗り越えるため、本書では「コールド・スリープ」という架空の技術を登場させる。そして、コールド・スリープを有効ならしむるための時限立法「人体特殊凍眠法」(これも架空の法律)がたてられるが、その法律の抜け穴がミステリーの核となる。
ミステリーの組み立てはややこしいが、著者は「彼らの最大の目的は市民の健康や安寧などではなく、彼らが主体で運用している巨大ファンド、国家予算の健全な運用にすぎなかったからだ」(48 ページ)と、官僚をチクリと刺すことを忘れてはいない。
本書ではマッドな技術者・西野昌孝が印象的であった。
最初は黒ずくめのスーツで登場。「死神」扱いされているので、てっきり医療を理解しないエンジニアという扱いかと思いきや、いつの間にか最も人間味のあるキャラクターに返信。最後にはアツシ少年に向かって、「自分がどこから来てどこへ行こうとしているのかわからない人間は、いずれ影を亡くしてしまう。そうしたらソイツはゾンビと同じさ」(235 ページ)と指摘する。ゾンビはあんたじゃなかったのかよ、と突っ込みたくなる。
さて、涼子の回想シーンに登場するノルガ共和国の名もなき医務官は、『 ブラックペアン 1988
』に登場する、あの外科医ではないかと推測しているのだが‥‥彼の名前を明らかにするために、再び涼子が活躍することを期待したい。
■メーカーサイト⇒ 海堂尊=著/角川書店/2010年12月発行 モルフェウスの領域
■販売店は こちら

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