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著者・編者 | 中谷宇吉郎=著 |
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出版情報 | 岩波書店 |
出版年月 | 1993年4月発行 |
科学は万能ではない――これは周知の事実である。では、科学がサポートできる範囲はどこまでなのか、科学的な考え方とはどういうことなのか、意外と学校では教えられてこなかったのではないか。理系人間として、科学の方法を振り返る目的で、名著と言われる本書を読んでみた。著者は、低温物理学を専攻し北海道大学教授在職中に亡くなられた中谷宇吉郎さんだ。本書は物理学者・寺田寅彦の『物理学序説』の影響を受けているという/
冒頭で中谷さんは、「科学が力強いというのは、ある限界の中での話であって、その限界の外では、案外に無力」(1 ページ)と科学の限界を提示する。その第一の理由は、科学は再現可能な現象しか扱えないからだ。
「再現可能というのは、必要な場合に、必要な手段をとったならば、再びそれを出現させることができるという確信が得られること」(9 ページ)だから、科学では幽霊や自意識を扱うことはできない。
たとえとして中谷さんは、「火星へ行ける日がきても、テレビ塔の天辺から落ちる紙の行方を知ることはできないというところに、科学の偉大さと、その限界とがある」(89 ページ)と述べている。
中谷さんは、「天災だとか、あるいはいろいろな事故(アクシデント)とかいう問題も、科学だけでは、片のつかない問題」(14 ページ)と指摘する。東日本大震災や福島第一原発事故、先日起きた大島の土石流もそうである。もちろん「科学の力によって災害を減らすことはできるが、それには統計の観念を常にもっている必要がある」(15 ページ)と言う。われわれは、リスクについて常に意識する必要がある。
「測定には必ず誤差がともなっている」(40 ページ)というのは周知の事実である。自然科学における有効数字はせいぜい 6 桁だという。意外に少ない。だが、「6 桁の精度に達すると、もはや自然界に同じものは 2 つとないことになる。それ以下になると、もはや再現可能の原則は成り立たない」(56 ページ)というのだ。
中谷さんは「数というものは、自然界にはないものである」(105 ページ)と指摘するが、これも目から鱗であった。数学は人間が発明したもので、自然科学ではないというのだ。自然現象を記述するのに都合よく作られている記号である。自然現象を研究するときは、まず観察によって定性的な研究を行い、そこで測定すべき性質を見極め、定量的な研究に移っていく。これも当たり前のことだが、それが書かれていることで科学の方法を再認識した。
中谷さんは、気象現象の研究のために作られた霧箱が放射線粒子の運動を捉えることができたという例を取り上げ、「新しい発見は、いわば偶然になされることが多いので、実験をする場合には、常に限をあけていることが大切である」(158 ページ)とアドバイスする。
最後に、「今日われわれは、科学はその頂点に達したように思いがちである。しかしいつの時代でも、そういう感じはしたのである。その時に、自然の深さと、科学の限界とを知っていた人たちが、つぎつぎと、新しい発見をして、科学に新分野を拓いてきたのである。科学は、自然と人間との協同作品であるならば、これは永久に変貌しつづけ、かつ進化していくべきものであろう」(202 ページ)を結んでいる。
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