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著者・編者 | 片山真人=著 |
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出版情報 | 三笠書房 |
出版年月 | 2022年2月発行 |
著者は、 国立天文台天文情報センター暦計算室 長の 片山真人 さん――わが国の〈暦〉を編纂しているその人である。
片山さんは「 暦とは1日1日に年・月・週・日などの概念を与え、私たちが計画的に生活するための道具
」(3ページ)と定義する。
まず、1年の長さをめぐり、古代ローマの暦を振り返る。ローマ暦は太陰太陽暦だったが、政治や経済、軍事の都合や、神官が忘れたなどの理由で閏月が入らないことが多かった。行事を司る暦の日付と実際の季節のずれが大きくなってしまった。そこで共和制ローマを掌握した執政官カエサルは、紀元前46年の1年を445日とする荒療治を敢行。翌紀元前45年から ユリウス暦
(1年365日、4年に一度うるう年)を施行した。
西暦325年のニケア宗教会議で、ユリウス暦を正式採用し、イースターの基準となる春分の日を3月21日に固定した。
1週間を7日周期にしたのは古代バビロニアだった。平安時代に 弘法大師
が宿曜経とともに曜日の概念を持ち帰ったが、日の吉凶を占うために使われただけで、現在のように1週間単位で生活するようになったのは明治以後のこと。
現在、国際標準のISO 8601では月曜日はじまり。一方、労働基準法では、他の定めがない場合には日曜日はじまり。
1年は12ヶ月だが、1日は24時間――これは古代バビロニアで始まったことのようなのだが、昼の12時間と夜の12時間の数え方が違っており、合算して24時間となった。昼は、日の出から日の入りまでの時間を12分割するが、季節によって1時間の長さは異なる。これを 不定時制 という。夏至の日の出は北東に行くほど早くなり、札幌は石垣島より2時間早い。逆に、日の入りは南西へ行くほど遅くなるのだが、意外なことに、札幌と京都ではほぼ同時刻に沈む。春分・ 秋分の日 は、経度にしたがって、東へ行くほど日の出が早くなる。また、日の出や日の入りは、太陽の上辺が見かけの地平線や水平線に接する時刻と定義しているため(太陽中心ではないため)、昼と夜の時間差が16分ある。
夜明けや日暮れのときに明るくなる薄明時間(太陽の中心の伏角が7度21分40秒となる瞬間)は、太陽の高度によって変わる。つまり、季節や緯度によって薄明時間は変動する。北緯60度以上では、夏至の日に太陽が日暮れの高度に達しないため、白夜となる。太陽の南中高度が最も高くなる日が夏至だが、南中時刻は正午12時とは限らない。地球の自転だけでなく公転運動が影響するためだ。兵庫県西脇市を例にとると、南中時刻は1年で30分近くも変化する。このことにより、夏至の日の出の時刻は、必ずしも1年で一番早いとは限らない。
いまでもイスラム圏で使われているが、わが国でも江戸時代までは、新月を1日とする 太陰暦 (旧暦)が使われていた。新月(朔)から満月(望)を経て、次の新家松までを朔望周期と呼び、約29.53日である。十五夜は太陰太陽暦の15日であるが、これは月齢14.0を含む日と定義されるため、 十五夜は必ずしも満月とは限らない 。
月の直径は太陽の400分の1だが、地球からの距離も400分の1であるため、太陽と月の見かけの大きさはほとんど同じで、このことにより金環日食や皆既日食が起きる。日食は太陽と月の運動によるものなので、約18年11日ごとに、ほぼ同じ場所で同じ条件の日食が起きることが分かっており、これをサロス周期と呼ぶ。紀元前6世紀頃には知られていた。
太陽や月の引力が地球を変形させることで 潮汐 が起きる。距離が近い月の方が2倍ほど潮汐力が強い。潮汐により地球の自転にブレーキがかかっており、100年あたり2ミリ秒ほど1日が長くなっている。ブレーキを掛けた分、月の公転軌道は大きくなっており、月は1年に3.8ずつ地球から遠ざかっている。潮汐の影響や地球の自転・公転の揺らぎにより、1日の長さは24×60×60=86400秒とは限らない。この誤差を埋めるため、不定期に 閏秒 が挿入される。最近では2017年1月1日に1秒挿入された。閏秒の挿入時期は予測できないため、これを廃止しようという意見もあり、2023年の国際電気通信連合総会で議論されることになっている。
スマホの〈狂うことがない〉カレンダーや時計のお世話になっていると、ついつい、日ので日の入りの時刻や季節変化を忘れてしまいがちだが、出張で長距離を移動すると、日の入りの時刻が変わることに気づかされる。年取った身体には堪える。
夏至の日の入りは札幌と京都ではほぼ同時刻に沈むことや、南中時刻が正午12時にならないことなど、図解入りで分かりやすく解説されており、小学校の理科の教材になりそうだ。
どんなにICTが進歩しても、暦は太陽や月、地球の運動の影響を受けている――「私たちが計画的に生活するための道具」として、基本的な知識は押さえておきたいものだ。
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